I for You
そんなに悲しい瞳で、ボクを見つめないで。
ボクの大好きな、ハインリヒ。
何もしてあげられないって分かっているのに。
キミの事が好きで好きでたまらない。
今みたいにキミが悲しい瞳をしている時。
キミが、戦いに疲れた時。
ボクが抱きしめて、キミを癒してあげられれば良いのに。
ふっ、と。
ハインリヒの瞳が和む。
彼の灰色の手が、ボクの頬にそっと触れた。
機械で作られたその手は、本当は冷たいはずなのに。
とても、温かく感じられる。
心は読まないよ、ハインリヒ。
本当は、キミが今、何を思っているのか知りたいけれど。
キミの事が好きだから。
そんな事はしたくない。
その代わりに。
ボクの頬に触れているハインリヒの手に、そっと触れてみた。
「!?」
驚いたような表情になって、ハインリヒは慌ててボクの頬から手を離そうとしたけれど。
せっかく触れてもらってるんだもの、離させないよ。
ボクは、ハインリヒの指を一本、ギュッと握りしめる。
「・・・起こしたか、イワン?」
ハインリヒの声が、心地よくボクの耳に響く。
『うん。起こされちゃった』
元々起きていたんだけれど、ボクはウソをついて答える。
でも、こんな可愛いウソなら、ついても平気だよね?
「悪かったな・・・」
心底済まなさそうに、ハインリヒが言った。
『ううん、良いんだ。でも、本当に悪いって思ってるなら。抱っこしてよ、ハインリヒ』
こんな時、自分の小さな身体が、どうしようもなく嫌に思える。
本当は抱いてもらうんじゃなくて。
キミを抱きしめて、キスしたいのに。
ハインリヒは優しく笑って、ボクを軽々と抱き上げる。
そして、ボクを優しく抱きしめて、囁いた。
「これで許してくれるか?」
子供扱いされている。
・・・実際に、子供なんだけど。
でも、すっごく腹が立つ。
『・・・・・・』
ムッとしたまま答えを返さないボクを見て、ハインリヒは困惑顔になった。
「イワン・・・?」
ボクはハインリヒの腕の中で、もぞもぞと体勢を直した。
そして、ハインリヒと向き合って。
自分の小さな手で、ハインリヒの両頬に触れた。
ハインリヒの形の良い唇が目の前で開かれ、ボクの名が再度呼ばれた。
「イワン?」
唇が閉じられた時。
ボクは自分の唇を、ハインリヒのそれに押し当てる。
そして、唇を離すと。
「イワンっ!?」
狼狽して赤くなるハインリヒに、ボクは言う。
『子供扱いしないで欲しいな。ボクは、大人なんだよ、ハインリヒ?大好きなキミに、こうしてキスすることもできる。キミが悲しい瞳をしている時だって、本当は抱きしめて、慰めてあげたいんだ』
・・・ただ、気持ちに身体が追いついてくれないだけで。
ボクには、それが悲しい。
ハインリヒは、しばらく黙った後、ポツリと呟いた。
「・・・ダンケ」
その瞳は、穏やかな光を湛えてボクを見つめてくれる。
「例え抱きしめてもらえなくても。オレはイワンに、十分に慰めてもらっているぞ」
本当に?
本当にキミは、そう思っていてくれてるの、ハインリヒ?
「こうやってお前を抱いていると、どんなにキツイ時でも不思議と落ち着いた気分になる。それはきっと、お前がいつも、オレの事を慰めたい、と思ってくれているからなんだな」
ボクを抱いているハインリヒの腕の力が、ほんの少しだけ強くなった。
キミの心が、ボクの心の中に流れ込んでくる。
・・・ボクも、キミが好きなんだよ、ハインリヒ。
心の底から。
待っていて、ボクのハインリヒ。
ボクは急いで、大人になるから。
メカニズムを埋め込まれたこの身体が、もう、成長しないという事は知っている。
だけどボクは、大人になりたい。
そう、ボクはスーパー超能力ベビーなんだ、出来ないことなんかない。
だからいつか、必ず大人の男になって、キミを迎えに行くよ。
キミが悲しい瞳をしている時に。
この腕で、キミを抱きしめてあげるために。
〜 END 〜
初の14は、ちょっと短めなお話になりました。
イワン→ハインリヒです。いささか41チックなのは、気のせいですっ!
イワン、単独で書いたら、毒気が抜けてしまいました。
でも私は、ブラックイワンもプリティーイワンも両方好きなのでOK!!
イワンって恋をしたら、きっと自分の身体をもどかしく思うんじゃないでしょうか?
好きな相手を抱きしめてあげられない、というのはどういう気分なんでしょうね??
でも、14って、お互い心が通じ合ってて、精神的にお互いに癒されてると思うんですよね。
そういう雰囲気をお話の中に醸し出したかったのですが・・・。むむむ・・・失敗か!?
14は近いうちにまた書きます。今度は青年バージョンのイワンでっ!!
ハインを抱きしめさせてあげるからね、イワンっっ!