あなどりがたきボクら


 バタバタと階段を駆け下りる、2種類の足音。
 リビングのドアが、バタンという激しい音と共に開かれ。
「ハインリヒ!」
 2つの声が、同時に叫んだ。
「ボクと一緒に、出掛けてくれないかな!?」
「これからオレと、デートしようぜ!!」
 ハインリヒは至って冷静に声の主たちに視線を向け。
 冷たく言い放った。
「悪いが、どちらとも出掛けんぞ」
「何でだよ!?」
 ジェットが絶叫し、
「どうしてなんだい、ハインリヒ!?」
 ジョーも叫んだ。
 彼らに答えを返したのは、ハインリヒではなく、フランソワーズだった。
「残念でした。ハインリヒにはこれから、イワンのお散歩に行ってもらうコトになってるの」
「イワンの散歩ぉ!?」
 またまた2人は、同時に叫んだ。
 彼らは、ありありと脳裏に浮かべることが出来た。
 ゆりかごの中で、キラリ、と瞳を光らせ、ニヤリ、と不敵に笑うイワンの姿を。
「イワンの散歩なら、ボクも一緒に行きたい」
「あっ、オレもっ」
 同行を願い出る二人に。
 ハインリヒはあからさまに迷惑そうな表情になって、
「断る」
 一言、切り捨てるように言った。
「お前たちを一緒に連れて行くと、うるさくてかなわん。暇さえあれば、ケンカばかりしてるんだからな」
 ジョーが良い子ちゃん笑いをしながら、
「ボク達、ケンカなんかしないさ。ねえ、ジェット?」
 そう、ジェットに同意を求める。
 ジェットもまた、ガラに合わないサワヤカ笑いで、ジョーに同意した。
「ジョーの言う通りだぜ。オレ達、めちゃくちゃ仲イイもんな〜」
「・・・説得力がないぞ、お前たち・・・」
 呆れ顔のハインリヒに、ジェットが力強く宣言した。
「とにかく!イワンの散歩には、絶対についてくからな、オレ達。イワンとハインリヒを2人っきりにするなんて、そんな危険なコト、許さねーぞ!」
「同感だよ、ジェット!2人で協力して、ハインリヒをイワンの毒牙から守ろうね!!」
 力強く頷き合いつつ、臨時協力体制を確立するジェットとジョー。
 ハインリヒは溜め息をつきながら、言った。
「あのなあ、お前たち。イワンはまだ、赤ん坊なんだぞ?お前たちとは違うんだからな。あんまり馬鹿なコトばかり言うんじゃない」
「あっまーい!!そんな悠長なコト言ってると、今にイワンに襲われっぞ!」
「そうだよ、ハインリヒ!イワンは姿形は赤ちゃんだけど、頭脳は大人以上なんだよ?油断しちゃダメだっ!」
 訳の分からない事を力強く主張する、2人。
 ハインリヒが思わず頭を抱えると、
「連れて行ってあげたら、ハインリヒ?なんとかとハサミは使いようって、言うじゃない?2人が付いて行くなら、お買い物を大量にお願いしたいし」
 フランソワーズが、ジョーとジェットのために助け舟を出した。
「フランソワーズ!」
 ジョーの瞳がキラキラと輝いた。
「やっぱりキミって、天使のような女性だよ!!」
「またまた、ジョーはそんなこと言って!」
 ふふっ、と可愛らしくジョーに笑いかけた後、フランソワーズはハインリヒにメモと財布を差し出す。
「はい、ハインリヒ。お買い物メモとお財布よ。荷物は2人に持たせれば良いから。ヨロシクね」
フランソワーズは、心の中で思った。
(今回のお散歩って、面白そう!目と耳のスイッチを入れておかなくちゃ♪)
 要するに、ストーカー行為をしてしまおう、という事である。
 だから今も、ジョーとジェットに助け舟を出したのだ。
 そんなフランソワーズの心の中など夢にも知らないハインリヒは、諦めの表情になり、ジェットとジョーに視線を走らせた。
「フランソワーズがそう言うなら、連れて行ってやる。ただし!ケンカはしないとこの場で誓え」
 誓ったからといって、2人が本当にケンカをしないかというと、そんな事は有り得なかったが。
 ハインリヒは、気休めが欲しかった。
「誓うよ、ハインリヒ!」
「オレも誓うぜ!」
 そんなこんなで、3人はイワンの散歩&買い物に出掛けることになったのだった。



 イワンのベビーカーをハインリヒが押し、右側にジェット、左側にジョーという配置で街に出た3人は、非常に目立っていた。
 平日の昼間に。いい年をした男が3人、ベビーカーを押しながら歩いているのである。
 どう考えても怪しい3人連れだった。
 そんな事はさておいて、
「今日は良い天気でよかったねぇ」
 ニコニコと笑いながら、ハインリヒに話しかけるジョー。
「そうだな」
「それでな、ハインリヒ。映画の試写会のチケットが手に入ったんだけど、今度・・・」
 タイミングを見計らったかのように、ベビーカーの中でイワンがぐずり出した。
「どうした、イワン?」
 ハインリヒがベビーカーの中のイワンを覗き込むと、イワンは非常に赤ちゃんらしい仕草で、ハインリヒの方に小さな手を伸ばした。
「ん?抱っこして欲しいのか??」
 優しい声でハインリヒはイワンに語りかけ。
 ジョーとジェットは顔を見合わせて、肩を竦めた。
『チッ、イワンのヤツ。こんな時だけ子供ぶりやがって・・・』
『しかも、ボクの話を中断させたよ(怒)』
 ひょい、と、ハインリヒがイワンを抱き上げた。
 そして、腕のなかでイワンを優しく揺らす。
 イワンはぴたりと、ぐずるのをやめた。
「よしよし、良い子だ」
 ハインリヒの腕の中で、イワンはもぞもぞと身動きし。
 そして彼は、ハインリヒの胸に顔を埋めた。
『ハインリヒって、すっごく良い匂いがするね』
 通信回路をとおして、ジョーとジェットの頭の中に、イワンが語りかけた。
『イワン!こんな時だけ子供ぶるなんて、卑怯だよ!?』
『そうだぞ!てめー、今すぐハインリヒの胸からその顔を離しやがれ!!』
 クスリ、という人を小馬鹿にしたような笑い声が聞こえて。
『嫌だよ。ボクとハインリヒのデートを邪魔しているのはキミ達だもの。これからゆっくり、仕返しをさせてもらうよ』
『そっちがその気なら、こっちも強硬手段に出させてもらうぜ!』
 ジェットがわざとらしい笑いを浮かべながら、ハインリヒに言った。
「ハインリヒ、オレにもイワンを抱かせてくれよ!」
「何だ?いつも抱きたいなんて言った事もないくせに・・・」
「そんなコトはないぜ?イワンは可愛いもんなぁ。オレだって、たまには抱きたいって思うさ」
「・・・本当にそう思ってるか?」
 疑わしげな眼差しで、それでもハインリヒは、イワンをジェットの方に差し出した。
「気をつけて抱けよ。赤ん坊なんだからな」
「分かってるって!」
 ジェットがイワンをハインリヒから受け取って、腕の中に抱いた。
 途端に。
 イワンがぐずぐずと泣き出した。
「おーい、イワン?泣くなよな〜」
 ジェットが腕の中でイワンを揺らしてあやしても、全く効果はなかった。
「ダメだ、お前じゃ。貸せ」
 ハインリヒが再びイワンを抱くと。
 イワンはぴたりと泣き止んだ。
「お前は普段の心がけが悪いから、子供に嫌われるんだ」
「・・・・・・(イワンのヤツ〜(怒))」
 今度はジョーが無邪気そうに微笑みながら(心は邪心でいっぱいだが)ハインリヒに声をかける。
「ハインリヒ、今度はボクにも抱かせて?」
「なんだ、ジョーも抱きたいのか?」
「うん!」
 優し〜く微笑みながら、ジョーはハインリヒからイワンを抱き取った。
「イワンって、本当に可愛いね!」
 等と、白々しいことを言いながら。
 しかし。
 ハインリヒの腕からジョーの腕の中に移ると、イワンはまた、不機嫌そうに泣き出した。
「イワン?お願いだから泣かないでよ」
 猫なで声でジョーがあやしても、イワンはぐすぐすと泣き止まなかった。
「ジョー、やっぱりオレが抱く」
 ハインリヒがジョーの腕の中からイワンを抱き取った。
 イワンはまた、ぴたりと泣き止んで。
 機嫌良さそうに、ハインリヒの腕の中で手足を動かした。
『ハインリヒ以外の男に、ボクは抱かせないよ』
 第1ラウンドは完敗で。
 イワンの言葉にジェットとジョーは不機嫌そうに黙り込んだが、
「オレがイワンを抱いていくから、お前たちのどちらかで、ベビーカーを押せ」
 ハインリヒからの指令に、渋々ながらベビーカーを押し、イワンを抱くハインリヒの後をお供するのであった。

 その頃のフランソワーズ。
「おっ、おかしすぎるわ、あの3人!!イワンを抱けなかった時のジョーとジェットの表情ったら!イワン、アナタって最高よ〜っ!!!」
 涼しいギルモア邸で一人、笑い転げていた。



 大人3人+赤ん坊は、ようやく近所のスーパーまで辿り着くことが出来た。
 当然のように、買い物カゴを持たされる、ジョーとジェット。
 ハインリヒはポケットからフランソワーズのお買い物メモを取り出し、2人に指示を与えた。
「まずは、野菜から。玉ねぎ、人参一袋。あ、ジャガイモもな。新玉ねぎと新ジャガを選べよ。ブロッコリーは、国産を探せ。後はだな・・・」
 あっという間に、買い物カゴがいっぱいになっていく。
 ハインリヒの口から次々と飛び出す買い物指令に、ジョーとジェットはハインリヒの腕の中で満足そうなイワンと張り合う余裕もなかった。
「よし、以上で終わりだ」
 満足そうに言った後、ハインリヒはぐったりとしているジョーとジェットを見て、いささか気の毒そうに言った。
「こんなにいっぱい買うんだったら、カートを使えばよかったな・・・」
 カゴの重みに死にそうになりながら、ジェットとジョーはハインリヒに哀願した。
「なにはなくとも、まず会計っ!!!」
 イワンが、意地悪く笑った。
『ご愁傷様』
 だが、ジョーとジェットは反論する気力もなく、レジに力なく買い物カゴを置くのだった。

 その頃の、フランソワーズ。
「なーんだ。スーパーでは特に何もなかったのね、フラン、つまんなーい」
 一人優雅に、エスプレッソを飲みながらテレビを見ていた。



 無事に買い物を済ませた一行は、スーパーの近くにある公園に、足を伸ばしていた。
 イワンが乗っていないベビーカーは、荷物置きと化しており、買い物袋が山と積まれていた。
 そのベビーカーを、ジェットとジョーが交代で押していた。
 イワンを抱いたままベンチに腰かけ、ハインリヒは腕の中の赤ん坊に優しく話しかけた。
「ほら、イワン。公園だぞ」
 穏やかな太陽の日差しと優しくそよぐ風の中、2人はまるで、親子のように見える。
 しかし。
 鱗が100枚ほどついている、ジェット&ジョーのヴィジョンでは、全く違ったように見えていた。
 まず2人は、イワンの存在を黙殺した。
(ああ、ハインリヒ。風にそよぐキミのその銀の髪。キレイだぜ・・・)
(太陽の光を受けて輝く、キレイなキミの瞳。ボクの姿だけ映して欲しいな)
 それから2人は、頭の中で同じような場面を思い描いた。
 イワンを抱いていないハインリヒと2人、公園のベンチに座っている絵である。
(ボクはハインリヒの肩を抱き寄せ、囁くんだ。『キミが好きだ』って・・・。ハインリヒの頬がうっすらとピンクに染まる様、可愛いんだよね〜)
(ハインリヒの瞳には、オレの姿だけが映って・・・その瞳が、オレに優しく微笑みかけてくれる。オレ達きっと、恋人のように見えちまうだろうな。何だか照れるな)
 2人は遠い目をして、妄想の溜め息をついた。
「・・・おい」
 ハインリヒが二人に呼びかけたが、遠い自分だけの世界を飛んでる2人には、全く聞こえていないようだった。
「おい!!」



「おい・・・?」
 ハッと妄想から醒め、二人はほぼ同時に訊ねた。
「どうした、ハインリヒ!?」
「何か用!?」
 ハインリヒは訝しげな眼差しで二人を見ると、言った。
「荷物運びで疲れただろうから、ジュースでも奢ってやろうと言ったんだ。聞こえなかったか?」
「えっ?ハインリヒがご馳走してくれるの??」
「やったー!今日は超ラッキーだぜっ!!」
 喜ぶ二人に、ハインリヒは5百円玉を手渡した。
「オレは、ティーだ。甘くないのを頼むぞ」
 ジェットとジョーの二人は、ウキウキしながら、近くの自販機まで飲み物を買いに行った。

 そして。
 ハインリヒを真ん中に挟んで、ジェットとジョーは幸せそうにジュースを飲んでいた。
(この缶は、絶対に捨てないぞ!!)
 と、固く心に誓いながら。
 そんな和みムードの中。不意に。
 イワンのふっくらとした手が、ペチペチと可愛く、ハインリヒの頬を叩いた。
「ん?」
 ハインリヒがイワンの方に顔を向けると。
 イワンは今度は、ハインリヒが飲んでいる紅茶の缶に手を伸ばした。
「そうか、イワンも喉が渇いているんだろうな・・・」
 ハインリヒは、両脇に座っている二人に命じた。
「おい、お前たち。ベビーカーに置いてあるお出かけセットの中から、イワンの哺乳瓶を探して来い」
「へーい」
「はーい」
 従順に返事をして、お出かけセットの中を探る二人だったが。
「あれ??」
「ハインリヒ。哺乳瓶、入ってないぜ?」
「おかしいな。出掛けに、確かに入れたはずなんだが・・・?」
 それは、イワンの仕業だった。テレポートの能力を使い、イワンは哺乳瓶をお出かけセットの中から取り除いたのだ。
 この時のために。
 イワンはなおも、紅茶の缶に手を伸ばしている。
「困ったな・・・缶のまま飲ませると、唇を切ってしまうかも知れん」
 コーラを飲みながら、ジェットが先程までのお返し、とばかりに冷たく言った。
「いいじゃん、我慢させれば。どうせもうすぐ、家に帰るんだろ?」
 何度も頷きながら、ジョーも賛同の意を示した。
「そうだよ、ハインリヒ。イワンならきっと、大丈夫だよ」
「しかし、だな。脱水症状でも起こしたら・・・」
 不機嫌そうにジタバタするイワンの指が、偶然(?)ハインリヒの唇に触れたとき。
 ハインリヒの困惑顔が、一瞬にして明るくなった。
「そうか!」
 ポン、と手を叩き、ハインリヒは優しくイワンに微笑みかけた。
「よし、イワン。大丈夫だぞ。ちゃんと飲ませてやるからな」
 紅茶の缶をジェットに差し出し、ハインリヒは言った。
「ちょっと持ってろ」
 それからイワンの口からおしゃぶりを取り、今度はそれをジョーに差し出した。
「これを持っててくれ」
 そして、ジェットの手から紅茶の缶を取り戻すと。
 ハインリヒは缶の中の紅茶を自分の口の中に含み。
 イワンの唇に、チュッとキスをした。
 クラリ。ジョーがよろめいた。
 グラリ。ジェットの身体が傾いた。
 二人の目の前で。
 ハインリヒの両頬に小さな手を添えて、イワンはハインリヒから口移しで紅茶を飲んでいた。
 唇をイワンから離し、ハインリヒは満足そうである。
「よしよし、上手に飲めたな。美味かったか?」
 その質問に対する答えは、ハインリヒにではなく、ジョーとジェットに返された。
『とーっても!!紅茶より、ハインリヒの唇の方が何倍も美味しかったけどね♪』
 ハインリヒに対しては、イワンはニコニコと、機嫌が良さそうに笑って見せるだけである。
 ジョーとジェットは、ワナワナと震えた。
『汚ねーぞ、イワンっ!赤ん坊の特権を、これでもか、というぐらいに使いやがって!!』
『・・・そうだよっ。ボクは一瞬、言葉を失ったよ!!ズルイよ、イワン!?』
『聞く耳持たないね』
 イワンは勝ち誇ったような口調で続ける。
『もう一回。飲ませてもらっちゃおうかな〜』
『うわあああ〜っ、ダメだっ!!』
『ダメーっ!!』
 もだえ苦しむジョーとジェットを尻目に。
 イワンは再度、紅茶の缶に手を伸ばす。
「ん?もっと欲しいのか??」
 二人は、見たくもない場面を。強制的にもう一度見せられてしまった。
 ハインリヒは再度、イワンにチュッとキスをした。
 恥も外聞もなく、二人は叫ぶ。
「ずるいよハインリヒっ!!!イワンばっかり可愛がってっ!!ボクも口移しで飲ませてもらいたいっ!!!!」
「そうだっ!ハインリヒはイワンを贔屓しすぎだぜ!!オレ達も平等に扱ってくれよ!!」
 『!』マーク全開で、ハインリヒに詰め寄る二人。
「・・・馬鹿か、お前たちは・・・」
 ハインリヒは呆れたような視線で、二人を見つめた。
「お前たちは、立派な大人だろうが。自分でちゃんと、飲み物ぐらい飲めるだろう?」
「ボクたち、まだ18だもんっ。子供だもんっ!!!」
「そーだ、そーだっ!オレ達まだ、未成年なんだぞっ!!」
 ふう、と溜め息をつき、ハインリヒは冷たく言い放った。
「都合のいい時だけ子供ぶっても可愛くないぞ、お前たち。いつもデートさせろだとか、キスさせろだとか、そんな事ばかり言っているヤツらが、子供?・・・笑わせるな」
 それからハインリヒは、イワンの方に優しく視線を向けた。
「イワンは、ジェットやジョーみたいに、馬鹿な事は言わないからな。抱いていると、柔らかくて気持ちいいしな」
 そして、あろうことか。
 ハインリヒはイワンの柔らかい頬に、自分の頬を押し当てた。
「お前たちと違って、イワンは本当に可愛いぞ。な、イワン?」
 イワンは嬉しそうに声を上げて笑うと、柔らかい手でハインリヒの頬に触れ、
『ボクのポイントばっかり上がっちゃって・・・ゴメンね?』
 血管がぶち切れそうな思いで、ジェットとジョーはイワンに向かって叫んだ。
 通信回路を通して。
『イワンのバカーっっ!!!!!』

 その頃のフランソワーズ。
「キャーッ、キャーッ!?ハインリヒがイワンにチューするところ、目撃しちゃったわ〜♪なんだかとってもイケナイものを見ちゃった気分vvでも嬉しいっ!!萌え萌えだわっ。イワンったら、策士だわ〜っ!!!」
 ミーハー根性丸出しで、フランソワーズは更に叫んだ。
「んもう、ジョーとジェットが駄々こねる姿もカワイイしっ!フラン、困っちゃーうvv」
 困っちゃうと言いながらも、全然困った様子はなく。
 ニコニコと嬉しそ〜うに微笑みながら、耳と目のスイッチを全開にするのであった。



 それから数十分後。
 イワンを腕に抱いたハインリヒと、愕然と肩を落としながら荷物満載のベビーカーを押すジェット&ジョーが、ギルモア邸に戻ってきた。
「お帰りなさ〜い。ちゃんとお買い物してきてくれた?」
 足取りも軽く、四人を出迎えるフランソワーズに、
「バッチリだぞ」
 ハインリヒが、一同を代表して答えた。
「そう。ありがとう!」
 その時。イワンが、ハインリヒの腕の中で小さく欠伸をしたのを見て、フランソワーズは言った。
「ハインリヒ。イワンの手を洗ってあげて、ゆりかごに寝かせてもらえる?そろそろ、おねむの時間だから」
 それからフランソワーズは、やっぱり嬉しそうに笑いながら、ジョーとジェットに声をかけた。
「アナタたちはキッチンに荷物を運んで!一緒に荷物片付けよっ!!」

 ハインリヒはフランソワーズに命じられたように、イワンの手を洗ってやり、ゆりかごに寝かしつけようとした。
 が。
 イワンがギュッとハインリヒにしがみついて、離さない。
 ハインリヒはキッチンに向かって声を上げた。
「フランソワーズ!イワンが離してくれないぞ。どうしたら良い?」
「あらあら〜」
 パタパタと足音を立てながら、フランソワーズがその様子を確認に来た。
 瞳を、キラキラと輝かせながら(笑)。
 もちろん、ジョーとジェットも一緒にやって来る。
「まあ、本当だわ!イワンったら、本当にハインリヒが好きなのねぇ・・・」
 ハインリヒにしがみつくイワンを見てしみじみとそう呟くと、フランソワーズはハインリヒに提案した。
「ね、ハインリヒ。イワンをずっと抱いていて、アナタも疲れているでしょ?アナタのベッドで、アナタと一緒にイワンを寝かせてあげてくれない?イワンが寝た頃、引き取りに行くから」
 ジョーとジェットの表情は、如実に物語っていた。
『そんなの、許さねーぞっ!?』
『ボクだって、ハインリヒに寝かしつけてもらいたいのに〜っ!!!』
 そんな二人は眼中になく、ハインリヒは、イワンの顔を覗き込んで訊ねた。
「そうするか、イワン?」
 イワンは可愛らしい仕草で、ハインリヒの胸に頬を摺り寄せる。
「はい、決まりね!」
 心底嬉しそうに、フランソワーズが笑った。
「それじゃ、ハインリヒ。お願いね♪」
「・・・分かった」
 ハインリヒが、イワンを抱きなおした。
 そして、クルリと三人に背中を向け、自分の部屋へと向かう。
 ジョーとジェットは見た。
 ハインリヒの背中越しに、ヒョイとイワンが顔を出し。
 おしゃぶりがフワリ、と、宙に浮いて。
 イワンが二人に向かってペロリ、と可愛らしく舌を出す様を。
『羨ましいでしょ?これから、ハインリヒと一緒に寝ちゃうもんね〜』
 怒りのあまり、思わずハインリヒ&イワンの後を追おうとする二人を、フランソワーズの腕が無情にも引き止めた。
「ハイ。アナタたちは、片付けの続きよ」
「離してくれっ、フランソワーズ!!」
「そうだよ!イワンとハインリヒを一緒に寝かすなんて、危険じゃないか!?」
「あら〜、危険だからこそ、楽しいんじゃない?」
「フランソワーズ〜(涙)」
「大体アナタたち、ちょっと情けないんじゃないの?今日のお散歩&お買い物、イワンにやられっぱなしじゃない!ホントにもう、もっとしっかりしたら!?」
「・・・フランソワーズ・・・覗いてたのかよ?」
「当たり前でしょ!こんな楽しい見物、見逃すワケないじゃない??」
 フランソワーズにまで完膚なきまでに打ちのめされながら。
 ジェットとジョーは、泣く泣く荷物の片づけを手伝った。



 そして。
 数時間後、ハインリヒの部屋に入ったフランソワーズは、再度嬉しそうに微笑むことになる。
 小さな寝息を立てて眠る、ハインリヒとイワン。
 ハインリヒの胸の中で、イワンは幸せそうである。
 イワンとは逆に、不幸のどん底に叩き込まれたような表情の男二人は、握りこぶしをグーにして、フランソワーズに言った。
「フランソワーズ・・・イワンを一発、殴らせてくれないかな?」
「・・・オレも殴りたい・・・」
「ダメよ!イワンが起きちゃうでしょ!!」
 フランソワーズに軽く睨まれ、二人は別のことを提案した。
「じゃあせめて、ハインリヒの寝込みを襲わせてくれ」
「あっ、すっごく良いアイディア!ボクも襲いたいっ!!」
「・・・ダメよ、そんな楽しすぎるコト」
 フランソワーズはやんわりと二人を制止し、持参のカメラを構えた。
「こんなにカワイイ二人なんだもの。写真に撮っとかなくちゃね♪」
 パシャリ、とシャッターを切るフランソワーズ。
 ジョーとジェットは、やっぱり不満そうにブツブツと何事かを呟いている。
「ハイハイ、男の嫉妬は見苦しいわよ」
 半ば強引に二人の背中を押し、フランソワーズはジョーとジェットを連れてハインリヒの部屋から退出した。
「おやすみなさい、カワイイお二人さん♪」



 この日以降。
 ジェットとジョーが、
 ハインリヒとイワンの散歩についていく!!
 と主張することは。
 全くなくなったという(笑)。



 〜END〜



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

この話は、書いていて本当に楽しかったです♪
モテモテハインリヒを書けて、幸せvv
イワンって、最強の赤ちゃんですね(笑)。
あ、でも本当は、赤ちゃんに口移しはダメなんですよ〜。
虫歯とか、色々うつしちゃうから。
最近何故かイワンスキー度が非常に高まっております。
近々ふみふみは、14話を書いてしまいそうな勢いです。
94もやってみたいんですけど・・・ブラックな島村さんで。
でもやっぱり、ハインに一番お似合いなのは、ジェットですのでっ
(←非常に言い訳臭いですね(汗))。
(1+2+9)×4話も、また別バージョンで書きたいでーす。



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