悲しみは・・・



「彼は彼なりに、イワンを愛しておったのかも知れん・・・」
『・・・分かってる・・・』
 その一言に。
 どれだけの哀しみが込められているのだろう。
 父と再会し。
 目の前で、その父を失ってしまったイワン。
『・・・分かってる・・・』
 胸が締め付けられるような思いに駆られながら、ハインリヒはその声を聞いた。
 身体は子供だけれども、イワンは大人で。
 大人だけれども、自分はイワンに比べれば子供みたいで。
 ・・・でも。
 ハインリヒにも出来ることがあるはずだった。
 彼の大切な、小さな想い人のために。
 ハインリヒは博士の側近くに歩み寄る。
「ギルモア博士・・・」
 言いながら腕を伸ばすと。
 博士は何も言わずに、イワンをハインリヒの腕に委ねてくれた。
 その小さな身体を、抱きしめて。
「イワン」
 名前を呼ぶと、イワンがクスリと小さく笑う声が聞こえた。
『心配しないで、ハインリヒ。ボクは、大丈夫だから』
 ギルモア博士から聞いたことがある。
 サイボーグ計画の要員として、父から売られ、父が去っていったその瞬間でさえ。
 イワンは、涙を流さなかったと。
 その時、イワンはどんなに切なくて悲しい思いをしたのだろう。
 涙を流せなかったその心は、流さなかった涙の分だけ傷ついたに違いない。
 イワンは、強い。
 涙を、自ら禁じられるほどに。
 そんなイワンを、やっぱり大人だと思うけれど。
 ヒルダを亡くして、絶望の淵に落ちていくばかりの自分を救ってくれたのは、イワンの温かさと優しさだったから。
『我慢しないで。泣いた方がいいよ。涙は、全てではないけれど、哀しみを洗い流してくれるから』
 その、言葉だったから。
 流せなかった涙を流して、ハインリヒはほんの少しだけれども、哀しみを払拭することが出来たのだ。
 だから。
 今、父親を失ってしまったイワンにだって、優しさと温かさが必要だと思う。
 そして、涙を流すことも。
 イワンがこれまで、自身に涙を禁じてきたのなら、尚更。
 今までの分まで。
「・・・イワン・・・」
 再度名前を呼ぶと、イワンが小さな腕を伸ばし、ハインリヒの頬に触れた。
『ボクなら、大丈夫だから。そんなに悲しい顔をしないで』
 たまらなく切ない気分になりながら。
「イワン・・・我慢しなくて良いんだぞ、オレの前では。それとも、オレはそんなに頼りないか?こんなに側にいるのに、お前を支えてやることも出来ない程・・・」
 そう訴え、砂色の髪にそっと手を触れると。
『・・・ありがとう』
 呟くようなイワンの声が聞こえてきて。
 イワンの長い前髪に隠れた瞳から、涙が。
 ポロリと流れ落ちた。
『・・・ありがとう、ハインリヒ・・・』
「何も言わなくていい・・・」
 ふっくらとした頬に後から後から流れ落ちる透明な涙を、ハインリヒは防護服のマフラーで。
 そっと、拭ってやった。
 声もなく、イワンは涙を流し。
 ハインリヒは黙って、小さなその身体を抱きしめた。
 自分に出来ることは、ただ、それだけだと分かっていたから。
 流した涙の分だけ、イワンはまた、大人になるだろう。
 でも、今は。
 今だけは・・・。
 イワンを胸の中にギュッと抱きしめて、ハインリヒは柔らかな砂色の髪に、キスを落とした。

 我慢しないで、泣いていいんだぞ、イワン・・・。
  
 冷たい風が、サラサラと氷の上を流れる。
 厚い氷の中に永遠に消えていった者たちを・・・弔うかのように。
 その様を9人のサイボーグ戦士と1人の老科学者は黙って見つめ。
 ただ静かに。
 祈りを捧げるのだった。



  〜END〜



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第42話を見終わった後に、どうしても書きたくて仕方なかった話です。
42話のラストシーンの後だと思ってください。
父親を失ってしまい、傷つくイワンを優しく癒すハインリヒを書きたかったのですが。
失敗だね、てへ(←ごまかし笑い)。
私の中で14というカップリングには確固たるイメージがあるのですが、
いつも自分のイメージどおりに書けずにもどかしい思いをしております。
ボキャが少ないからな、管理人・・・(涙)。
でも、書きたいっ!!!と思ってたものを書けたので、管理人的には満足です・・・??



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