ハピハピ バースデー




 カーテンの隙間から差し込む、眩しい太陽の光で目が覚めた。
 ベッドの上で大きく伸びをしてから、窓辺に歩み寄る。
 水色のカーテンを開けると、綺麗な青い空が目に飛び込んできた。
「今日も良い天気だな・・・」
 薄い氷色の瞳を細め、ハインリヒがそう呟いた時。
 パタパタと廊下を走る足音が、耳に届いた。
(・・・イワンの足音だな)
 その足音が、部屋の前で止まったな、と思ったら。
 ドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
 短く言うと同時にドアが開いて、開いたドアからイワンがひょっこり顔を出した。
「おはよう、ハインリヒ」
 瞳をキラキラと輝かせて嬉しそうに、イワンが部屋の中に駆け込んでくる。
 そしてベッドに腰掛けて、
「ねえ、ハインリヒ。今日が何の日か当ててみて!!」
 やっぱり嬉しそうに、そう言った。
「今日・・・?何か特別な日なのか??」
 思い当たる節もなく、ハインリヒが問い掛けると。
「うん!」
 イワンは元気よく答える。
「とっても特別な日だよ。キミにとっても、ボクにとってもね」
 ハインリヒは、考え込んだ。
(自分とイワンと、両方に特別な日・・・?)
 腕を組み、じっと考える。
 しかし、どう考えてみても、何の日か思い浮かばなかった。
「もしかして、今日はお前と何処かに行く約束でもしていたか?」
 違うだろうと思いつつも、唯一思い浮かんだ事を口に出したら。
「ハズレ〜っ!」
 イワンは不満そうに、唇を尖らせた。
「ハインリヒ。本当に分からないの?」
「すまない、そう言われても、何が何だかオレにはさっぱり・・・」
「本当の本当に、分からない??」
「・・・降参だ、イワン」
 心底困ってお手上げのポーズを取ると。
「仕方ないなぁ・・・」
 イワンが、ため息をつく。
 こういう時のイワンは驚くほど大人びて見えて。
 ハインリヒは、その表情が好きだった。
 穏やかな瞳でイワンを見つめるハインリヒに、イワンはちょいちょいと手招きする。
「ハインリヒ、ボクの隣に座って」
 言われるがままに、イワンの隣に腰を下ろす。
「瞳・・・閉じて」
「??」
「早く閉じて!」
 有無を言わせぬその口調に、ハインリヒは思わず瞳を閉じてしまう。
 温かい手の平に両頬を挟まれた、と思ったら。
 チュッ。
 可愛らしい音を立てて、ハインリヒの唇にイワンの唇が触れた。
「!?」
 思わず目を開いてしまうと。
 ハインリヒの目の前で、砂色の瞳が優しく揺れた。
「お誕生日おめでとう、ハインリヒ!誰よりも先に、言いたかったから」
「誕生日?オレの・・??」
 すっかり、忘れていた。
 歳を取らない自分にとって、『誕生日』なんて意味のないものだと思っていたから。
「そうだよ」
 イワンは、ニコリと笑う。
「30歳のお誕生日、おめでとう」
「一体、何回目の30歳の誕生日なんだろうな・・・」
 ほろ苦くそう呟くと、ハインリヒの頭をイワンがキュッと抱きしめた。
「そんなに悲しいコト言わないで」
 イワンの手が、優しくハインリヒの頭を撫でてくれる。
 その感触が気持ち良くて、ハインリヒはそっと、瞳を閉じた。
「キミが何回おんなじ歳の誕生日を迎えたって、それはとっても大切な日なんだよ。ボクは、こうしてキミの誕生日を祝うことが出来て嬉しい。何度だって、ボクは繰り返すよ。『30歳の誕生日、おめでとう』ってね」
 耳元で、イワンがクスリと小さく笑う声が聞こえた。
「それに・・・キミがずっと30のままなら、ボクだって成長のし甲斐があるってモノだよ」
 イワンが体重をかけてきたと思ったら。
 ベッドに、仰向けに押し倒された。
「イワンっ!?」
 ギョッとするハインリヒに、イワンはニコニコと微笑みかける。
 愛らしい、笑顔で。
「と、いうワケで。キミへのプレゼントは、ボク自身だよ♪」
 頬に可愛くキスをされたが、イワンが言っているコトは、ある意味大変な問題発言であった。
「ちょちょっ、ちょっと待て、イワン!」
「どうして?ボクのコト、嫌い?」
「そっ、それは・・・」
「好きでしょ?」
「・・・好きだが・・・。いや、でもダメだっ!!お前にはまだ早いっ!」
 自分が耳まで赤くなっているのが分かる。
 そんなハインリヒを見て、イワンは大人っぽく笑った。
「ハインリヒって、本当に子供だなぁ。ま、そんなトコも可愛いけどねv」
「・・・・・・」
 思わず絶句するハインリヒ。
 イワンはニヤリと意地悪く笑って見せた。
「今日は許してあげるよ、ハインリヒ。キミの誕生日だし、キミの嫌がることはしたくないから」
 ホッと胸を撫で下ろすハインリヒに、イワンは涼しげな顔で続けた。
「でもね、今度のボクの誕生日には、ボクにキミ自身をプレゼントしてくれるぐらいの気概が欲しいな?」
「・・・努力は、する・・・」
 その言葉に、イワンは笑う。
 ハインリヒが好きな、天使のような笑顔で。
「うん。・・・楽しみに待ってる」


 二人でリビングに降りていくと、
「イワンに先越されちまったけどさ。おめでとう」
 ジェットがハインリヒの肩を軽く叩き、祝いの言葉を述べた。
 フランソワーズが軽くイワンを睨む。
「酷いわ、イワンったら。朝からハインリヒを独り占めして!」
 それから、ハインリヒに向かってニッコリと微笑んだ。
「おめでとう、ハインリヒ。今晩はご馳走作るわねv」
 ジョーもニコニコと微笑む。
「ハインリヒ、おめでとう!」
「・・・おめでとう」
 物静かだが重厚で真摯な声は、ジェロニモだ。
「おめでとうアルね!」
 張々湖に続いて、
「我輩からも、心からの祝辞を・・・」
 オーバーなリアクションで、グレートがハインリヒにお辞儀をした。
「おめでとう、ハインリヒ!」
 ピュンマが小柄な身体を弾ませるようにして、言った。
 そして・・・。
「それじゃ、ボクからも改めて。おめでとう、ハインリヒ」
 イワンはそう言うと、背伸びをしてハインリヒの頬にキスをした。
「・・・ありがとう」
 8つの心がこもった8つのおめでとうに、ハインリヒは不覚にも目頭が熱くなる。
 ゴシゴシと目を擦ると。
「あらイヤね、ハインリヒったら!こんな日に涙は禁物よ」
 そう言って、フランソワーズがハインリヒに向かってウインクした。
 イワンが頬をふくらませて言う。
「ハインリヒはボクのモノなんだから、勝手にウインクしないでよね!」
 ハインリヒは赤くなり。
 リビングに明るい笑いが響いた。
 その笑いに包まれて、ハインリヒは自分を幸せだと思う。
 イワンと、そしてこの仲間達と共に、この日を祝えることを。
 きっとこれからも、みんなとこの日を祝っていけることを。
 ハインリヒは、瞳に穏やかな光を浮かべ。
 もう一度、皆に言った。
「・・・ありがとう・・・」

 Happy Birthday ハインリヒ!!



  〜END〜



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はい、14でハインのバースデーをお祝いです。
三十路同盟さんの三十路誕生日企画用に書いたものです。
イワンは少年バージョンでどうぞ。
最近、少年バージョンが異常に好きだな、私・・・。
いつもどおりにラブラブに仕上がっております(?)。
イワンのイケイケモードも相変わらずです(笑)。
とにかく14は、可愛らしさを前面に押し出してっ!!という感じで書きました。
チューシーンは絶対に入れるぞ!という固い決意と共に(爆)。
今回の3作品の中で一番先に書きあがったものなので、出来も多分これが一番かと。
いかがなものでしょうか??





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