続・あなどりがたきボクら
「一体、どういうコトなんだよ!説明しろっ!!」
ギルモア邸のリビングに、ジェットの怒鳴り声が響いた。
「説明って・・・ただボクとハインリヒで、買い物に出かけただけじゃない?」
しれっとしたジョーの言葉に、ジェットは更に激昂する。
「二人でドライブに行って、買い物までして帰ってきて!ジョー。オマエはいつから、オレのハインリヒにそんなコトしてもらう権利を得たんだよ!?」
ジョーはそんなジェットを見て、鼻でせせら笑った。
「ボクの方こそ言わせて貰うけどさ、ハインリヒはいつからキミのモノになった訳?ねえ、ハインリヒ。キミって、ジェットの所有物なの?」
ブルブルと首を振るハインリヒを見て、ジョーは勝ち誇ったようにニヤリとする。
「ホラ。ハインリヒだって、自分はキミのモノじゃないって言ってるよ?」
鼻の頭まで赤くして、ジェットはジョーに対抗する。
「うるせーっ!!誰が何と言おうと、ハインリヒはオレのモノなんだよっ。オレとハインリヒが初めてで出会った時から、そう決まってるんだ!それにだな、どうしてオマエが、ハインリヒに服を選んでもらってんだよ!?オマケに、滅茶苦茶ペアルックっぽいのは、どうしてなんだよ!?」
しかし、ジェットが口でジョーに敵うわけがなかった。
ジョーは憎らしいほど落ち着き払った口調で、ジェットにこう言ったのだ。
「どっちかって言うと、ハインリヒはボクのものだと思うけど、まあ、それは置いておいてあげるよ。服を選んでもらったのは、ボクがハインリヒに頼んだからさ。服を見繕って欲しいって、ね」
しかも、ハインリヒまでがジョーに口添えする。
「それにお前は、オレに服を選んで欲しいなんて言ったことないだろう?」
「言わなくたって、オレだって選んで欲しいんだよっ!!」
「しかも、お前が選んでくる服は、いつもオレが選ぶのとは正反対の派手な服じゃないか?」
「ハインリヒが選んでくれるんだったら、どんな服でも着てやるぜっ!!!」
「ハイハイ、男の嫉妬は見苦しいわよ」
フランソワーズが呆れ顔で、三人の前にコーヒーのカップを置いてくれた。
「ジェット、もう少し落ち着きなさいよ。そんなコトだから、ハインリヒを横からジョーに攫われるんでしょ?」
ジェットは、完全に孤立無援の状態だった。
泣きたいような情けない気分で、ジェットはハインリヒを見つめる。
そして、最後の大勝負に出た。
「ハインリヒ!キミは、オレとジョーと、どっちを選ぶんだ!?」
「もちろんボクだよね、ハインリヒ?」
ジョーは天使のような愛らしい微笑みで、ハインリヒに微笑みかける。
「・・・知らん」
ハインリヒは、そっぽを向く。
「選べよ、ハインリヒ!!」
ジェットがそう叫んだ時。
『キミ達って、本当にうるさいよねぇ・・・』
ジェットとジョーの頭の中に、語りかけてくる声がした。
『ゲッ、イワン!?』
『イワン!?キミ、寝てたんじゃ・・・!?!?』
ふわあ、と、可愛らしい欠伸が聞こえてきたが。
『キミ達があまりにもうるさいから、おちおち寝てもいられなくてね。しかも、争いの内容が馬鹿馬鹿しくて。言うまでもなく、ハインリヒはボクのモノだって決まってるだろ?キミ達が所有権を争う必要なんて、全く認められないね。頭悪いなぁ、キミ達は』
イワンの口からはその可愛い欠伸とは裏腹に、大人びた言葉が飛び出した。
『ボクが寝ている間に、随分ハインリヒといい思いをしたみたいじゃない、ジョー?』
『ハインリヒはボクのモノだからね!!一緒にデートして、当然さっ』
『ちっがーう!ハインリヒは、オレのモノだっ!!』
通信回路の中で、三人の争いが始まった。
急に黙り込んでしまったジェットとジョーを、ハインリヒが不審そうに見つめた。
「おい、お前たち。急に黙り込んで、どうしたんだ?」
「ハインリヒは黙ってて!」
「そうだぜ!これは、オレ達の戦いなんだからなっ!!」
「はあ??」
フランソワーズが、ニコリ、とハインリヒに微笑みかけた。
「馬鹿二人は、しばらく放っておいたら、ハインリヒ?コーヒーが冷めちゃうわ。早く飲んでね♪」
「ああ、いただこう」
大人びた仕草で(大人だから当然だが)コーヒーカップに口をつけるハインリヒを見て、フランソワーズは心の中でクスリと笑った。
(嬉しいわっ、また三人でハインリヒを争う姿を見られることになるなんてvv今日もイワンの勝ちだろうけど・・・その過程が、また面白いのよね〜♪)
ソファにゆったりと座って、幸せそうにコーヒーを飲むハインリヒ。
イワン&ジョー&ジェットのハインリヒ争いにドキドキなフランソワーズ。
そんな2人など眼中に無く、馬鹿男二人+スーパー超能力ベビーは、通信回路を通じて醜い争いを繰り広げていた。
『大体さぁ、ハインリヒはボクのモノだって、ずっと前から決まってるんだよ。ボクがサイボーグ009として誕生した時から。初めて出会った時、ハインリヒの柔らかな銀の髪が太陽の光に透けて、すっご〜く綺麗でさ。ボクは将来、この人をお嫁さんにするって、心に決めたね!!』
『ケッ。てめーなんか、ハインリヒとの付き合い浅いだろうが!?オレなんか、ハインリヒがサイボーグになった時からずっと、側にいるんだからな。てめーらなんかよりずっと、アイツのことを理解してやってるハズだ!!』
ふう、と、大人びた溜め息をついたのは、イワンだった。
『加速装置と勇気しか取柄のない新参者と、001になりそびれた欠陥品が良く言うね?キミ達によくよく教えておいてあげるけど、ハインリヒはボクのものだよ』
今の今まで口論していたジョーとジェットだが、イワンに対しては二人で協力体制を作るしかなかった。
イワンは、二人が束になっても敵わないほどに、口が達者なのである。
『うるさいよ、イワンっ!!』
『そうだっ!!大体、てめーが一番邪魔なんだよ。都合のいいときだけ赤ん坊振りやがって、感じ悪ィぜっ!!!』
クスリ、と意地悪な笑い声が聞こえてきて。
『だってボク、赤ん坊だも〜ん』
イワンが嫌味エキスのたっぷり入った声で答えた。
『しかも、ボクが一番可愛いし〜♪』
『はあ!?』
『何言ってんの!?ボクの方が数百倍カワイイねっ!!!』
憤る二人を歯牙にもかけず、イワンは続けた。
『それに、ボクが一番、ハインリヒに好かれてるしねvv』
『・・・自惚れやがって・・・』
『ねえ、イワン?その自信は、一体ドコからくるのかなぁ??』
ジェットの額に青筋が走り、ジョーはニッコリと優しく、けれどもブラックな笑いを頬に浮かべた。
『じゃあ、証拠を見せてあげるよ』
笑いを含んだ声で、イワンがそう言う。
そして。
彼は、グスグスと泣き出した。
「あら!イワンがお目覚めだわ・・・」
フランソワーズがゆりかごに走り寄り(その走りは、軽やかだった)、イワンを抱き上げた。
「どうしたの、我が家のネボスケ王子様?」
フランソワーズが優しくあやすが、イワンは泣き止まない。
泣き止まないどころか、フランソワーズの腕の中で、イヤイヤをした。
「・・・どうした、イワン?」
ハインリヒもソファから立ち上がり、イワンを覗き込んだ。
えぐえぐと泣きながら、イワンはぽっちゃりとした手をハインリヒに伸ばした。
「ハインリヒに抱っこして欲しいみたいv」
フランソワーズが言うと、ハインリヒは優しく笑ってイワンに腕を伸ばした。
「おいで」
イワンの小さな身体を、フランソワーズがハインリヒの腕の中に移してやると。
しゃくりあげながら、イワンはハインリヒの胸に顔を埋めた。
「ん?どうした、イワン??」
ハインリヒが問いかけると同時に、ジェットとジョーの叫びがリビングにこだました。
「騙されちゃダメだよ、ハインリヒ!!」
「今のは嘘泣きだぜっ!!!」
本当はちっとも驚いてなどいないクセに。
イワンはビクリと身体を震わせた。
「イワン、どうした?」
重ねて問いかけるハインリヒに。
『ジェットとジョーが、イキナリ叫ぶから・・・ちょっと驚いただけ。ゴメンね?』
しおらしく、イワンは答える。
流石はスーパー超能力ベビー。
なかなかの役者振りであった。
腕の中で震えるイワンを優しく抱き直し、ハインリヒはキッとジェットとジョーの二人を睨みつけた。
「お前たちが騒ぐから、イワンが驚いているぞ、このバカっ!」
ハインリヒから睨まれ、二人は一瞬怯んだかに思われたが。
勇敢にも二人は、ビシィっとイワンを指差しながら、ハインリヒに言い返した。
「イワンが驚く?ハッ、そいつにそんな可愛らしい感情があるワケないだろ?」
「故意に驚いて見せてるに決まってるでしょ?ハインリヒともあろう者が、そんなコトも分からない訳??」
しかし、その勇気(笑)は、ハインリヒの怒りに油を注いだだけだった。
「バカッ!!!」
思いっきり二人をバカ呼ばわりしてから、ハインリヒはリビングのドアを指差した。
「お前たちがいると、イワンが怯えて可哀想だからな。とっとと何処へでも立ち去りやがれ!」
ジョーがウルウルと瞳を潤ませた。
「ひどいよ、ハインリヒ!イワンばっかり贔屓して・・・」
ジェットもウルウルと涙目になってみせる。
「ハインリヒ!そんなにオレ達が嫌いか?」
そんな二人に、ハインリヒはプルプルと震えた。
「・・・お前たち・・・」
『気味が悪いよねぇ〜』
ハインリヒの言葉を引き取って、イワンがボソリと呟いた。
ジェットとジョーにだけ聞こえるように。
それからイワンは、打って変わって愛らしい声でハインリヒに問いかける。
『ね、ハインリヒ。ボクのこと、好き??』
ハインリヒの瞳が、すうっと優しくなった。
先ほどジョーとジェットを睨んでいた瞳とは、全く別人のような瞳である。
ハインリヒは、赤ん坊と女に甘い。
ジョーとジェットは、改めてその事実を思い知らされることになる。
瞳だけでなく声まで優しく。
「好きだぞ」
ハインリヒは、イワンに答える。
『ジェットやジョーよりも?』
更なるイワンの問いかけに、ジェットとジョーの耳が、ダンボになった。
二人は、ハインリヒの返事を聞き逃すまいと、耳をそばだてる。
「もちろんだ」
ハインリヒが返事をした瞬間。
「ひっどーい!!」
「ひっでー!!」
ジョーとジェットが同時に叫んだ。
「ボク達には好きなんて言ってくれたコトないのにっ!?」
「オレもハインリヒに好きだって言われてーよ!?」
ハインリヒの腕の中で、イワンが再び震えた。
勿論、わざとである(笑)。
「お前たちっ!!」
氷色の瞳が、鋭い光を放った。
「今すぐ、この部屋から出て行けっ!」
その剣幕に、ジェットとジョーは言葉に詰まり。
「ハインリヒのバッカヤロー!!」
「白い雲なんて、大嫌いだ〜っ!!」
訳の分からない叫びと共に、リビングから走り去っていった。
走り去るジェットとジョーに追い討ちをかけるように。
二人の頭の中に、直接イワンの声が響いてきた。
『だから言ったでしょ?ボクが一番、ハインリヒに好かれてるってv』
滝のように悔し涙を流しながら、ジョーとジェットはお決まりの台詞(笑)を叫んだ。
いつものように、通信回路を通して。
『イワンのバカ〜っ!!!!』
嵐のように駆け去って行く二人の後姿を見送りながら、ハインリヒが呟いた。
「あいつらは、何だったんだ、一体・・・?」
それからイワンに向かって優し〜く話しかけた。
「大丈夫だったか、イワン?驚かせて済まなかったな」
『ハインリヒが側にいてくれたから、大丈夫だよv』
ニコニコと微笑みながら、フランソワーズがコーヒーのお替りを持ってきた。
「はい、ハインリヒvコーヒー冷めちゃったでしょ?」
「ありがとう」
「いえいえ、お礼を言うのはワタシの方よ。今日も楽しませてもらったわvv」
「・・・??」
「あらあら、ごめんなさい。なんでもないの。こっちのは・な・し♪」
静けさの戻ったリビングで、優雅にコーヒータイムを楽しむハインリヒとフランソワーズ。
この時、リビングを覗いた者は・・・ハインリヒの膝の上でくつろぎながら、満足げに微笑むイワンの姿を見ることができただろう。
それは、ジェットとジョーの二人なら、決して見たくない姿であったが。
強いぞイワン、凄いぞイワン!
明日のハインもキミのモノだ!!!
〜 完 〜
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本当は、今回の14デー、シリアスラブラブ14を書こうと思っていたのですが。
最近シリアスものばかり書いていて、どうしても軽いノリで書きたくなってしまったので。
前々から温めていたこのお話がアップの運びになってしまいました。
ラブいちゃ14を期待していたお嬢さん方、申し訳ありません。
私の中で、バカ男二人+スーパー超能力ベビーの力関係はこうなってます。
イワン>ジョー>ジェット。
24は私の本命カップリングなのに、このジェットの扱いって・・・(汗)。
でもブラック度では、イワンとジョーには敵わないよ、ジェット。
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