ボクの誕生日
誕生日を祝ってもらう喜び。
ボクは、ずっとずっと、知らなかった。
けれども・・・。
それは、ある日の何気ない会話。
誕生日の話題になった時、フランソワーズに尋ねられたのだ。
「そういえばワタシ、イワンのお誕生日を知らないわ」
それはそうだ。
だって、このボクだって自分の生まれた日を知らない。
誕生日、なんてモノを知らないまま、こんな身体になってしまったから。
祝ってもらった記憶もない。
0歳なんだし、当たり前か。
『ソリャアぼくダッテコノ世ニ生ヲ受ケテルカラニハ誕生日ガアルンダロウケド。残念ナガラ、生マレタ日ナンテ覚エテナイヨ』
そう。別に覚えてなくたって、困らない。
ボクがそう答えると、フランソワーズは少し淋しそうに笑った。
そして、ボクを抱きながらその会話を聞いていたハインリヒの、キレイな瞳が曇った。
「イワン・・・」
ハインリヒが何か言いたそうに口を開いたが。
周期的な眠りの時間がやってきて、ボクはハインリヒの言葉の続きを聞かないまま、眠りに落ちた。
ハインリヒが、ひどく悲しい表情でボクを見つめている。
そんな顔をされると、胸が痛いよ・・・。
どうして、そんな顔をするの?
「イワン・・・」
何か言いたげに、ハインリヒが薄く唇を開く。
どうしたの、何が言いたいの?
けれどもその唇から言葉が出てくることはなく。
ハインリヒは、そっと俯いた。
そして、ボクに背中を向けて去っていってしまった。
悲しそうな顔が、脳裏から消えてくれない。
チクリとした痛みが、後味悪くボクの心の中に残った。
目が覚めた時。
真っ先に目に入ったのは、ハインリヒの顔だった。
「起きたか、イワン?」
今、ボクの目の前にいるハインリヒは穏やかな表情で笑っていて。
そのことに、ボクはひどくホッとした。
胸のチクチクがスッと消えていく。
『ふわぁ~。オハヨ、はいんりひ』
挨拶を返すと、揺りかごの中から、ひょいと抱き上げられた。
「今日辺り目覚めの時間だと思ってな。皆で待っていたんだ」
待っていた?何を・・・??
疑問を口にする間もなく、ハインリヒは足早にリビングへと向かう。
ハインリヒの手が、リビングのドアを開いた瞬間。
「おめでとう!!」
ポンポンと、クラッカーが弾ける音。
『わっ!?』
思わず驚きの声を漏らすと、ハインリヒがクスクスと笑った。
「驚いたか、イワン?おめでとう。今日がお前の誕生日だ」
誕生日?ボクの??
「おめでとう、イワンv」
フランソワーズも、ニコニコと笑っている。
「ハインリヒが、どうしてもイワンの誕生日をするんだって言って聞かなかったのvvvワタシもみんなも大賛成だし、だから、今日がアナタの誕生日よ」
ハインリヒが、提案してくれたの?
「フランソワーズっ!余計なことを言うんじゃないっ」
「あらぁ。ホントのコトじゃない??やだわ、そんなに照れちゃってv」
見上げると、ハインリヒがちょっぴり頬を赤くしていた。
「・・・おめでとう、イワン・・・」
「おめでとう!」
「イワンや、おめでとう」
なんてお人よしなんだろう、みんな。
ボクの誕生日なんて、分からないんだから、放っておけばいいのに。
・・・でも、嫌な気分はしない。
それどころか・・・くすぐったいような、心があったかくなるような。
そんな、気分だ。
知らなかった。
人から生まれた日を祝ってもらうことが。
こんなに嬉しいことだったなんて。
・・・知らなかった・・・。
もう一度、ハインリヒを見上げてみる。
クリスタルの瞳が優しく揺れて。
ああもう、ボクはなんて幸せ者なんだろうか??
優しいボクの仲間達、優しい優しいボクのハインリヒ。
大好きだよ、大好き。
「プレゼントは何がいい?」
賑やかな誕生日会がお開きになった後、ボクを腕の中に抱いたまま、ハインリヒがそう聞いてくれた。
心地よいこの腕の中が、大好き。
ハインリヒが、好き。
『何モイラナイヨ。ぼくガ欲シイものハ、今ぼくノスグ側ニアル』
「??」
キョトンとした表情で首をかしげるハインリヒに、ボクは続けた。
『ぼくハネ、タダ一人、きみダケガ欲シイヨ』
「そうか・・・」
そしてハインリヒは、照れたように笑った。
「おめでとう、イワン・・・」
頬に、チュッと柔らかい感触。
ハインリヒからの、キス。
『アリガトウ、はいんりひ。大好キダヨ』
答えの代わりに、ハインリヒは優しい優しい笑顔をボクに見せてくれた。
誕生日を祝ってもらう喜び。
ボクは、ずっとずっと、知らなかった。
けれども今、ボクはなんて幸せなんだろう。
優しい人たち、優しい優しいボクのハインリヒ。
ありがとう。
今日という日が、ボクの誕生日。
何度言っても言い足りないような気がするけれど。
ボクの大好きな人たちに。
・・・ありがとう・・・。
~END~
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イワンの誕生日を勝手に1月11日だと設定しました!!
そして、イワンのお誕生日SSを書きました!
イワンって、お誕生日が不明で私は悲しいです・・・。
みんなちゃんとお誕生日があるのに~!!!!
そんなこんなで、イワンスキーとして自分勝手にイワンの誕生日が祝えて嬉しいです。
本当はもっと、ハインリヒとアダルトな雰囲気になるはずだったのですが、
何故か赤子イワンのままで終わりました(笑)。