サイボーグ004 <未来都市(コンピュートピア)編・前編>
右手のマシンガンが、火花を散らす。
左手に持ったレイガンからは、レーザー光線が飛んだ。
サイボーグナンバー004=アルベルト・ハインリヒの腕は確かで。
ブラックゴーストの戦闘員たちが、彼の手によって次々と倒れていく。
ふと。
ハインリヒのレーダーイヤーが、背後から迫るレーザー光線の音を聞きつけた。
音の大きさで距離感を計り、
(大丈夫だ、避けられる!)
そう思ったとき。
ふわり。
誰かに抱きかかえられ、身体が、宙に浮いた。
レーザー光線が地面に地面に当たって弾け飛ぶ様を憮然として見下ろし、ハインリヒは後ろを振り返って叫んだ。
「バカっ!今のは助けてもらえなくても、避けられたぞ!!」
ハインリヒの身体を宙に浮かせた張本人、ジェット・リンクは、すまし顔で言う。
「別に、キミを助けた訳じゃないさ」
それから街の中心地に向かって、顎をしゃくって見せた。
「ホラ、アレを見てみろよ」
空の上から、ブラックゴーストの戦闘員たちが数人、まとまって逃げてゆく姿が見えた。
「どうやら敵さんは、アレで最後らしい。・・・キミなら、一発で仕留められるだろ?」
「フン・・・」
ハインリヒが、ニヤリ、と笑った。
「任せろ」
カチリ、と機械的な音がして。
ハインリヒの膝からミサイルランチャーが飛び出した。
滑らかな線を描きながら飛んでいったそれは、正確に目的地まで届き、辺りに爆音を響かせた。
「流石だな、ハインリヒ!」
「当然だ」
その言葉に、ジェットはクスリ、と笑い、
「キミってホントに自信家だよな。ま、そんなトコロが可愛いんだけど」
ハインリヒの髪に、優しくキスをした。
「バっ・・・!やめろ、こんな所でっ!!!」
「ハイハイ、分かったよ。ったく、ウチのお姫様はお堅いよな〜」
ハインリヒがジェットを振り返り、ギラリ、と睨んだので。
「それじゃ、皆のところに戻ろうぜ」
ジェットはハインリヒを抱きかかえたまま、仲間達が待つ場所へと向かうのだった。
この街は、砂漠の中に作られた、ドーム都市。
人類が、将来的に月や海、砂漠などに住まなければならなくなった時を想定して実験的に作られた、未来都市(コンピュートピア)。
この都市の管理は、基本的に「スフィンクス」と呼ばれるコンピュータに全てをゆだねられている。
「スフィンクス」は、人間が数万人で一生かかっても解けないような難問を、10億分の1秒で解くことができ。心理回路が搭載されているため、考える、という事も出来る、スーパーコンピュータである。
サイボーグ戦士たちはネオブラックゴーストを追跡している途中で、偶然この都市に辿り着き、ネオブラックゴーストに狙われていた、この街の危機を救ったのだった。
ブラックゴーストは、「スフィンクス」のプログラムを攻撃的なものに変え、利用しようと企んでいたのだ。
しかし、サイボーグ戦士たちの活躍により、危機は過ぎ去った。
「ギルモア博士、ありがとう!君たちのお蔭で、助かったよ!!」
この都市の「市長」を勤めるエッカーマン博士は、ギルモア博士の古い知り合いだった。
都市の中央制御室に集まった彼らに、エッカーマンは嬉しそうに告げた。
「皆さんをスフィンクスに憶えてもらいましょう」
「憶える・・・?」
不可解そうな眼差しで訊ねたハインリヒに、エッカーマンは説明した。
「皆さんの指紋を採取してスフィンクスに登録し、この街の名誉市民としてお迎えしたいのですよ」
「くだらんな。だったら最初から、登録すると言えばいいものを・・」
吐き捨てるように言ったハインリヒをたしなめるように、
「ダメよ、ハインリヒ。そんなことを言っては。エッカーマン博士は、スフィンクスを自分の子供のように思っていらっしゃるの」
フランソワーズがそっと耳打ちした。
この未来都市を作るのはエッカーマンの長年の夢で、彼にとっては本当の子供のようなものである、と、彼女はギルモアに聞かされていた。
「・・・フン」
そっぽを向いてしまったハインリヒを他所に、他の者達は、スフィンクスに指紋を登録し始めた。
その姿を見て、エッカーマンはホロリ、と涙を流した。
「エッカーマン博士?」
驚くギルモアに、エッカーマンは言ったのだ。
「失礼。若い皆さん方をみていたら、息子が帰ってきてスフィンクスを救ってくれたような気がして、つい・・・」
研究員が、エッカーマンの後に続けた。
「市長の息子さんも、実は・・・ここで働いていたのです。ですが、1年ほど前に病気で・・・」
「まあ、そうでしたの。知らなかったわ。だから余計に、スフィンクスを自分の子供のように思っていらっしゃるのね?」
フランソワーズが、気の毒そうに呟いた。
そうこうしているうちに、ハインリヒ以外の皆は指紋を登録し終わり。
「さあ、ハインリヒ。最後はキミの番だ」
ジェットが軽く、ハインリヒの肩を叩く。
ハインリヒはまだ不満そうだったが、彼の右手を、指紋照合機の上に乗せた。
指紋の無い、マシンガンに改造されてしまった右の手を。
「スフィンクスは、指紋の無いヤツはどうするんですかね?」
言葉に詰まるエッカーマンを見て、ニヤリ、と意地悪く笑ってから。
「フフっ。もっとも、指紋つき人口ひふ手袋ってのを持ってますけどね」
そう言って手袋をはめ、もう一度機械の上に手を置いた。
その時。
照合機が、激しく光を発した。
周りの機器からも異常音が響き、発煙した。
エッカーマンの腕時計もまた、激しい音を鳴らす。
「どうした!?」
非常用小型携帯端子になっているその時計に向かって、エッカーマンが訊ねる。
『街中で、事故が起こりました!負傷者2名です』
「馬鹿な!?」
信じられない、といった表情で、エッカーマンが叫んだ。
「そんなことは、ありえん!!」
スフィンクスのプログラムのチェックを開始していた研究員から、報告が入った。
「プログラムは正常。どこも異常はありません!」
「全機能、正常に作動」
「どういうことだ!?」
「分かりません・・・」
中央制御室が慌しい雰囲気に包まれる中、ハインリヒが落ち着かなそうに、辺りを見回した。
「どうした、ハインリヒ?」
訊ねたジェットに、ハインリヒは答えた。
「誰かに・・・見つめられているような、気がする・・・」
全てのプログラムをチェックしたが、スフィンクスには全く、異常が見つからなかったらしい。
エッカーマンは、原因究明のために忙殺されていた。
「市長が皆さんの都市見学のガイドを勤める予定でしたが、例の一件で、忙しくなってしまって・・・よろしく伝えてくれ、とのことでした」
研究員の一人が、エッカーマンからの伝言を、サイボーグ戦士たちに伝えた。
「ですが、皆さんがお持ちの端末機<市民カード>があれば、スフィンクスが皆さんの見学場所の相談にのり、エアカーで案内をしてくれます」
数分後。
サイボーグ戦士たちは各自、スフィンクスに「相談」にのってもらった結果はじき出された見学場所に、エアカーで向かっていた。
「なんだか、スッキリしないな・・・」
そう呟いた後、ハインリヒはギョッとして叫んだ。
「危ない!!」
彼の前を走っていた、フランソワーズとジョーが乗ったエアカーの真上に、モノレールが落ちてきたからだ。
モノレールは、そのまま二人の乗ったエアカーに、直撃した。
ハインリヒは自分のエアカーから飛び降り、ぺしゃんこになったエアカーの側に駆け寄った。
「大丈夫か!?」
潰れたエアカーから少し離れたところで、ジョーが答えた。
「大丈夫だ。みんなは!?」
「いや、オレ達は大丈夫だ」
ありえないことだった。
プログラムのチェックを2度行ったが、全ての値が正常だった。
しかもスフィンクスには、完全な事故防止装置がついていた。
中央制御室に戻ったサイボーグたちに、エッカーマンは疲れきった表情を見せた。
「機械の故障とは考えられん。絶対に!」
「では、残る可能性は一つ。・・・ネオブラックゴーストの残党による、破壊工作!」
そう意見を述べたギルモアに、
「それも考えられん!異物の進入を、スフィンクスが見逃すなど!」
エッカーマンは激しく反論した。
そんなエッカーマンに、ハインリヒが正論を吐いた。
「だが実際に、一度進入を許している。機械に完全を求めるのは、危険・・・」
「違う!」
エッカーマンは叫んだ。
「違う、違う、違う、違う!!スフィンクスは、完全だ!どんな人間などよりも、ずっと・・・」
「やめて、ハインリヒ!エッカーマン博士は疲れていらっしゃるのよ!」
エッカーマンを庇うフランソワーズに、ハインリヒが舌打ちした時。
ハインリヒはまた、誰かに見つめられているような感覚に囚われた。
(オレ達は・・・狙われているんじゃないか?スフィンクスに・・・)
ハインリヒは何故かそう思い、ほんの一瞬だけ、身震いをした。
ジェロニモが乗っていたエスカレーターが、落下した。
グレートとと張々湖を乗せたエアカーが、無人のビルに突っ込んだ。
建物についているアンテナが、ジョーとジェットを襲った。
「気をつけろ!」
ジョーが通信回路を通して、仲間たちに警告した。
「さっきのボクたちだけじゃなかった・・・スフィンクスは、ボクたち全員を殺そうとしている!?」
「スフィンクスは間違いなく、ボクたちのみに的を絞って、狙っている!<市民>には、事故はおきていない!!」
再度、中央制御室に集まったサイボーグ戦士たち。
「そうなると・・・これは、ネオブラックゴーストの意思?」
ジェットが発言し、
「それか、スフィンクスがオレ達を<市民>として認めていないか、だな。人間じゃない<異端>として、取り除こうとしているのかも知れん。オレ達は、サイボーグだからな」
ハインリヒが推察すると、
「いずれにしろ、ボクたちを敵と考える意思の存在がハッキリした以上は、ここから逃げ出すわけにはいかない・・・!」
ジョーが毅然とした態度で、意思表示をした。
ギルモアが、頷く。
「さよう。ブラックゴーストか、スフィンクスの意思か。この両方から早急に、原因を究明する必要がある」
一応結論がついたところで、ハインリヒはジェットに近づき、名前を呼んだ。
「ジェット」
「どうした?」
その優しい声音にホッとしたのか。
「何だか、釈然としない・・・嫌な感じがするんだ」
ハインリヒがポロリと、不安を漏らした。
「キミらしくもないな、そんなコトを言うなんて。でも、大丈夫だ。キミだけは絶対に、オレが守る!」
ジェットが励ますようにハインリヒの肩を抱き、自分の方に引き寄せた。
ハインリヒは大人しく、ジェットの肩にもたれた。
その時。
ハインリヒは、また、自分をじっと見つめるような視線を感じた。
一瞬身を固めたハインリヒに、ジェットが心配そうな表情を見せた。
「どうした?」
「誰かの視線を感じる。じっと、見つめられているような・・・」
「あんまり神経質になるなよ、ハインリヒ。絶対に大丈夫だから」
ジェットの手が、ハインリヒの頭をそっと撫でてくれた時、ハインリヒは再度、自分をみつめる視線を感じたが。
「そうだな・・・あまり考えすぎないようにしよう」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、その視線を振り切るようにして、中央制御室からジェットと共に姿を消したのだった。
制御室から街へ出たハインリヒとジェットは、研究員から呼び止められた。
「ハインリヒさん!良かった、探していたんです。市長が是非、あなたとお話したいと」
「エッカーマン博士が?どうして??」
問い返したのは、ジェットの方だった。
「ハインリヒさんが色々と正論を言ってくださったにも関わらず、子供のように反論してしまったことを、市長は恥じておられます」
「そうか・・・」
ハインリヒは笑顔を見せた。
「実はオレも、博士に対して大人気なかったと思っていてね。機会があれば、謝りたいと思っていたんだが」
「それならば、話は早いですね。早速、ご同行願います。市長は病院においでです」
研究員と一緒にエアカーに乗ったハインリヒを、ジェットは呼び止める。
「待てよ、ハインリヒ!一人じゃ危ないぞ!!」
「大丈夫だ。子供じゃあるまいし」
そう言って、ハインリヒは笑った。
『それに、<市民>が側にいる状態で、スフィンクスがオレ達を襲う、というコトなさそうだしな。それに、お前が言ったんだぞ、あんまり神経質になるなってな』
通信回路を通して、ハインリヒの声が聞こえ、ハインリヒがジェットに向かって軽くウインクをした。
「じゃ、行って来る」
(心配だな・・・)
見る見るうちに視界から遠ざかっていくエアカーを眺めながら、
(やっぱり、付いて行った方がいいんじゃないか?)
そう思った時。
大きな鉄の塊が、ジェットに襲いかかった。
「来たっ!?」
ヒラリ、とその物体をかわしながら、ジェットは通信回路を開き、皆に呼びかける。
「スフィンクスからの攻撃が始まったぞ!みんな、大丈夫か!?」
『こちらは異常なし』
『平気よ?』
『大丈夫だ!』
ジェット以外の皆は、特に攻撃を受けていないようだった。
(おかしいぞ・・・)
次々と襲いかかってくる様々な物体から身をかわしながら、ジェットは感じた。
(どうやら攻撃の対象が、オレ一人に絞られているようだ)
そう考えているうちにも、炎の塊がジェットに襲いかかる。
その炎をかわした、と思ったら、今度は大量の水が押し寄せてきた。
逃げたはずが袋小路に追い込まれ、ジェットは一人叫んだ。
「くそっ。何故だ!?」
上に逃げるしかない、そう思い、ジェットは空に浮かんだ。
視界の下に渦巻く水流を眺めながら、ジェットはもう一度仲間に呼びかけた。
「みんな、大丈夫か!?」
『大丈夫だ。一体何があったんだ、ジェット!?』
『ジェット!』
『ジェット、どうしたの!?』
一度に返事が戻ってきて、ジェットは思わず耳をふさいだ。
「そんなに一度に返事しないでくれ!通信回路が壊れちまう」
それからジェットは、もう一度仲間達に話しかけた。
「オレだけが狙われているんなら、それでいい。原因を究明するまで、オレはみんなの所には戻らない。巻き添えにしたくないからな」
『水臭いぞ、ジェット!』
『オレ達、仲間じゃないか?』
「ダメだ。みんなを危険な目には遭わせられねえ!」
『ジェット、今どこにいるんだ!?』
ジョーがジェットにそう言った時。
「ぬっ!?」
妨害電波により、通信回路がきかなくなった。
中央制御室にいたギルモアが、スフィンクスに指示を出す。
「スフィンクス、スフィンクス。ジェットの・・・コードナンバー002の現在位置をチェック!」
スクリーンには、砂嵐しか映し出されない。
「駄目か・・・」
溜め息をつきながら、ギルモアは考えた。
(襲われているのは、ジェットだけ・・・ジェットだけ!?スフィンクス、心理回路、ハインリヒ)
「む・・・もしや・・・?」
ギルモアは、同じく制御室に残っていたピュンマに問い掛けた。
「ハインリヒはどこだ!?」
「ジェットと一緒に出掛けたはずですが・・・ジェットと一緒にいないようなので、別の場所にでも行ったのでは?」
ギルモアが、恐る恐る、といったように指示を出す。
「ス、スフィンクス。コードナンバー004の現在位置を!」
スクリーンに、ハインリヒが映し出された。研究員と一緒に、エアカーに乗っている。
ホッとしたように、ギルモアが言った。
「おっ。こっちは出たか!」
「博士、これはどういうことです?」
訊ねるピュンマにギルモアは指示をだした。
「説明は後じゃ!ハインリヒにすぐ『そこを動くな』と伝えろ!それから全員に、ハインリヒの所に行くように、と。通信回路は大丈夫か!?」
「ええ、妨害はジェットとの間だけのようです」
ピュンマは通信回路を開き、皆にハインリヒの許に向かうよう、指示を出した。
「ハインリヒのところへ?一体、どういうことなの!?」
不可解ながらも、ハインリヒがいるはずの場所に集ったサイボーグ戦士たちは、その場所に誰もいないことを確認した。
「位置は確かアルか?」
「ハインリヒはいない・・・」
「何だって!?」
ピュンマが叫んだ。
「スフィンクス!」
ギルモアが、再度指示をだした。
エアカーは、今度は別の場所を走っていた。
加速装置を使って、ジョーがその場に駆けつける。
だが。そこにも、ハインリヒの姿はなかった。
「ニセの映像じゃ!」
ギルモアが叫ぶ。
「スフィンクスが合成した、ニセのハインリヒの映像・・・。我々の全てを記録しているスフィンクスだからこそ、こんな芸当ができるんじゃ!!」
「ということは、本物のハインリヒは・・・!?」
ハインリヒは何も知らないまま、研究員と共に病院に向かっていた。
「さ、着きました」
研究員に促されるがままに、ハインリヒはその建物に足を踏み入れる。
その時。研究員の腕時計(緊急連絡装置)が、ピピピ、と音を立てた。
「すみません。急に別な仕事が入ってしまいました。ここから先は、お一人でお願いします」
そう言って、研究員は入り口にある青いボタンを押した。
「ゴヨウデスカ?」
現れたロボット看護婦に、研究員は指示をだした。
「市長のお客人だ。丁重におもてなしをするように」
それから研究員はハインリヒに、お辞儀をした。
「それでは、失礼します」
研究員を見送ってから、ハインリヒは看護婦に訊ねた。
「エッカーマン博士は、入院しているのか?」
「ハイ。博士ハ大変オ疲レデス」
疲れさせた原因の中に、自分の言動も含まれている、と思うと、ハインリヒは申し訳ないような気持ちになった。
だがハインリヒは、この未来都市があまり好きではなかったのだ。
人間の心を持たされた機械。
まるで、反転した自分たちを見ているようで・・・。
看護婦に案内されたのは、病院の応接間だった。
「市長ハスグニ参リマス。オ待チクダサイ」
そう言って出されたコーヒーを、一口飲んだ瞬間。
ハインリヒは強烈な眠気に襲われ、そのままソファーに倒れこんだ。
その頃、ハインリヒとジェットを除いたサイボーグ戦士たちは、中央制御室にいた。
「ハインリヒは既に・・・何処かに捕まっている!!」
「!?」
「スフィンクスは、心理回路を持っておる。つまり<感情>があるということだ!」
「だからつまり?」
「どういうことアルか??」
「スフィンクスは・・・ハインリヒに恋愛感情を抱いた!」
一同が、驚愕の叫びをあげた。
「コ、コンピュータが、ハインリヒに恋をしたアルか!?」
「そっ、そんなアホな!気色わりぃ!!」
「間違いない!だから、『ジェットだけ』が攻撃されている・・・!!」
ギルモアは、頭を抱えた。
「もっと早く気付くべきだった。あの登録の時の、原因不明の事故の時に・・・。アレは、人が理想の人物に出会った時にドキリとする・・・あの感情と同じだったのじゃ!」
「・・・一目惚れ!?」
フランソワーズが叫んだ。
ジョーが呟く。
「ジェットが恋敵ってワケか。そう言えば・・・ハインリヒがジェットに、誰かに見つめられているような気がする、と言っているのを聞きました」
「でも、それなら変じゃないの。我々全員も、狙われたんだぜ!」
「はじめのうちは、な」
グレートの疑問に、ギルモアが答えた。
「最初は『ハインリヒの側にいるもの』全てが狙われた。だが、データの分析が進んで・・・。ジェットがハインリヒの想い人だと分かったのじゃろう」
「だから、ジェットだけを抹殺しようと?たっ、大変だぞ。恋の嫉妬ほど恐ろしいものは他にないからな」
グレートが、焦りながら言う。
しかし。
「でも、打つ手がないぞ。この都市の全ては、スフィンクスに握られている」
「そして、ハインリヒも、だ」
サイボーグ戦士たちは、途方にくれた。
今回の戦いは、圧倒的に戦士たちに不利だった。
「でも・・・どうしてハインリヒが、スフィンクスに??」
フランソワーズがポツリと漏らした疑問は、ギルモアも持っていた疑問だった。
「そうなんじゃ。ハインリヒを理想のタイプと思う精神−感情を、スフィンクスの<心理回路>にプログラミングした人間がいるとしか考えられん。ワシの記憶によると<心理回路>を受け持っていたのは、確か・・・」
ふと気が付くと。
暗がりの中で、ハインリヒは一人だった。
彼の瞳が『誰か』を探して辺りを彷徨う。
いつでもハインリヒを暖かく支えてくれる人の存在を。
しかし、周囲に人の気配はなかった。
(ここは、どこだ!?)
ハインリヒは急に不安になり、再度、辺りに目を凝らした。
すると、視線の先に人影が見えた。
その人影は、徐々にハインリヒに近づいてくる。
そして、その姿は、ハインリヒが良く知っている人物の姿だった。
「ジェット!」
駆け寄って腕の中に飛び込むと、その人物は、ハインリヒを抱きしめてくれた。
が。
次の瞬間、ハインリヒはその腕の中から逃れようとしてもがいた。
彼を抱きしめた腕の感触が、ジェットではなく別人のものだったからだ。
ジェットの抱擁は、力強くて、優しくて、暖かくて。
どんなに不安な時でもハインリヒを安心させてくれる、そんな抱擁だったが。
今、ハインリヒを抱きしめている腕は、力強くはあったが、冷たかった。
ハインリヒの不安を煽るほどに。
ハインリヒは顔を上げ、その人物を睨みすえた。
「お前は誰だ!?」
「私は・・・カール・エッカーマン」
その顔に、ハインリヒはエッカーマン博士の面影を見た。
だが、彼の息子は死んだはずだった。
一年ほど前に・・・。
「フン。エッカーマン博士はエッカーマン博士でも、死んだはずの息子の方がお出ましという訳か?一体オレに、何の用だ?」
「アルベルト・ハインリヒ。君に・・・会いたかった。ただ、それだけだ」
カールは思い詰めたような眼差しでそう告げると、更にきつく、ハインリヒを抱きしめた。
「はっ、放せ!!」
押しのけようとしたが、それは無駄な抵抗に終わった。
急に頭がボンヤリとしてきて、ハインリヒはカールの腕の中でぐったりとなった。
「アルベルト。君は、私のものだ」
カール・エッカーマンの声が耳元で聞こえたような気がしたが。
その声もすぐに、ハインリヒの耳から遠ざかっていったのだった。
〜 後編に続く 〜
今回のお話は、原作の<未来都市(コンピュートピア)編>を、24でアレンジしたものです。
原作では完全な93話だったのですが、『私がスフィンクスだったら、絶対にハインリヒに惚れるっ!!!』
と激しく思った私が、勝手に妄想パワーを爆発させて書いた産物です。
今回、書きたかった24のラブラブシーンまで辿り着けなかったです(涙)。
しかも、訳分からなくなってきました(汗)。
やっぱり原作パロるには力量が足りないのでしょうか・・・。
いや、でも私はやるぞっ。次回こそ、ラブラブ24を目指してっ!!
という訳で、あと1話分、お付き合いくださいませ。