ふたつの鼓動


 海に行こう。
 誘ったのは、オレの方だった。
 まだ眠たげなハインリヒを車に押し込み、早朝のドライブ。
 一緒に、海に行こう。
 二人で、海が見たいから。
 キミの綺麗な瞳に、夏の色を映しに行こう。



 二人で歩く、波打ち際。
 波の音が、心に優しく響く。
 キミは穏やかな表情で、オレの隣を歩いている。
 色素の薄い瞳に、海の藍、空の蒼を映して。
 それは、とても美しい夏の色。
 キミは気付いていないかもしれないけれど、キミに、とても良く似合う色。
 潮風が、オレ達の間をそっと吹き抜けていった。
 サラリ、と、キミの銀の髪が揺れる。
 その柔らかな髪に、思わず手を伸ばしたら。
 キミはオレに視線を向けて、そっと微笑んだ。
 ・・・キミの全てが愛しい。



 胸の中に波のように押し寄せてくる、この想い。
 口に出そうとすると、『好きだ』とか『愛してる』だとか、そんな言葉にしかならないのが不思議だ。
 オレの心の中には、何時だってキミが溢れてる。
 ・・・もうオレは、一人じゃいられない。
 なんて言ったら、キミはいつものように、呆れ顔でオレを見つめるだろうか?
 でも、こんな想いは、キミの所為だ。
 キミは、オレのことをどう想ってる?
 言葉になんかしなくてもいい。
 見つめあう瞳と瞳で、分かるから。
 夏色に染まったその瞳で、オレを見つめてくれ。
 世界中でただ一人の、オレのハインリヒ。
「ハインリヒ」
 名前を呼ぶと。
 数歩前を歩いていたキミが立ち止まり、オレを振り返る。
 柔らかく微笑みながら。
「どうした?」
 その瞳の優しい揺らめき、愛情に溢れる輝きは、オレだけのもの。
 キミの優しさも、愛情も。切なさでさえも、オレのもの。
 ・・・キミの全ては、オレのもの。
 近付いて、白い頬にそっと触れたら。
 キミはくすぐったそうに笑って、オレの腕から逃れた。
 パシャリ。
 波が、小さく跳ねる。
 追いかけて、キミの腕を掴んだら。
「うわっ!?」
 バランスを崩して、キミの身体が傾いた。
「わっ!」
 オレの身体も一緒に傾いて。
 二人揃って、波に濡れた。
「馬鹿・・・イキナリ、手を引っ張るからだぞ!」
「ハイハイ、オレが悪うございました」
 立ち上がって、手を差し伸べると。
 キミはほんの少しだけはにかんだような表情になって、オレの手を取った。
 その手を引き寄せて。
 掠め取るように唇にキスをして、キミを抱きしめた。
「ジェット・・・!」
 まるで、キミの鼓動が聞こえてくるような。
 そんな気分になる。
 この腕の中に、確かにキミがいて。
 心の中には、やっぱりキミが溢れているよ。
「愛してる・・・」
 言葉にすると、ありきたりすぎるけれど。
 オレの心の中に、いつでもキミがいること。
 キミに伝えたくて。
 ふたつの鼓動が重なり合い。
 ただ、波の音だけが二人を包んだ。



 また、一緒に海に行こう。
 二人で、海に行こう。
 夏はまだ、終わらない。
 夏色に染まったキミを抱きしめて、オレは何度でも囁くよ。
「愛してる」
 何度でも。
 キミは何も言わなくてもいいから。
 ただ、オレだけを見つめていてくれ。
 キミの瞳が、キミの胸の鼓動が、オレのことを好きだと言ってくれているから。
 それだけで、オレは幸せだから。
 二人で、海に行こう。
 終わらない、二人だけの夏を探しに。
 二人だけの、新しい思い出を作るために。



  〜 END 〜




クサっ!?と思われた方が大勢いらっしゃると思います。
スミマセン、こんなに短編だというのに、自分で書いてて砂を吐きまくりでした(汗)。
海辺のロマンティック24を目指したのですが、ゲロ甘24になりました・・・。
でも、ジェット視点でハインを語るのって、本当に楽しくて♪
ハッキリ言って、ジェットに自分が乗り移ってますね(爆)。
ジェットはやっと、ハインと二回目のキスです。
しかも、触れるだけ(笑)。
イワンに後れを取りまくってます。
頑張れ、ジェット!!!我慢のしすぎは、身体によくないよ。
って、我慢させてるのは管理人ですね(笑)。



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