心を込めて花束を
9月19日。
一見、何の変哲もなさそうなその日。
花屋の中で、腕組みをして考え込んでいるジェットの姿があった。
「うーん・・・」
一般の人々にとってはたいした意味のない今日の日であったが、今日はジェットにとって、一年で一番大切な日だった。
今日は・・・ハインリヒの誕生日。
自分より年上のはずなのに、信じられないぐらい可愛い彼の人に、愛を込めて花束をっ!!
というのが、今日のジェットの自己目標であった。
だが。
(花なんて贈ったコトねーし、どうすりゃいいんだ?ハインリヒは一体、どんな花なら喜ぶんだ??赤いバラとかか!?)
しかし、赤いバラはジェットにとって、ハインリヒのイメージではなかった。
他の花の名前もロクに知らず、途方にくれるジェットに、店員の少女が優しく声をかけてくれた。
「どの花がお好みですか?」
(俺の好みじゃなくって!!!)
煮詰まったジェットは、この少女に相談することにした。
一人で考えていたら、このまま頭がショートしそうだったから。
「恋人に、花束を贈りたいんだ」
「まあ!きっとお喜びになると思いますよv」
朗らかに笑う少女に、ジェットは続けた。
「でもオレ、花って良く分からなくてさ。どんな花を贈れば良いのか、悩んでる」
「好きな人からもらえる花束なら、どんな物でも嬉しいと思いますけど・・・?」
小首を傾げながら、少女は訊ねる。
「その女性って、どんな女性なんですか?」
(女性じゃねーんだけどな・・・)
思いながら、ジェットは意気込んで答えた。
「すっげーキレイでカワイイ人。髪の毛が銀色でサラサラしててさ、瞳は氷のような薄いブルーなんだ。色だって雪みたいに白いし、心も真っ白でキレイな人だ」
クスリ。
少女が笑いを漏らす。
本当のコトを言い過ぎた、と思い、ジェットは赤くなった。
「ご予算はどれぐらいですか?」
「金に糸目はつけないから、でっかい花束にして欲しい」
「分かりました」
少女は沢山の花が置いてあるガラス戸を開き、次々と花を取り出し始めた。
そして、簡単に花束の形にまとめて見せる。
「いかがですか??」
白い花々を中心に、ほんの少しだけ淡いブルーの花を散らした、白い花束。
まるでハインリヒのように、清楚でキレイな。
「・・・すごく、イイ」
ジェットがそう言うと、少女は嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃ、このまま形を整えてラッピングしますね」
大きな白い花束を抱え、ジェットはギルモア邸に戻る。
「ただいま〜」
リビングに顔を出し、ハインリヒがいるか否かの確認をすると。
フランソワーズが声をかけてきた。
「あら、ジェット。キレイな花束ね〜。ステキv」
「だろ?ハインリヒのイメージにピッタリだと思わねえ??」
「そうね、可憐で愛らしいところなんか、イメージピッタリかしらvv」
ニコニコと微笑むフランソワーズに、ジェットは訊ねる。
「ハインリヒは?」
「自分のお部屋よ」
「サンキュっ!」
素早く2階に駆け上がって行くジェットの後ろ姿を見送りながら。
フランソワーズの隣に座っていたジョーが舌打ちし、不満そうに鼻を鳴らした。
「フンっ!!」
そんなジョーの姿など眼中に無く(ジョーに対して背中を向けているのだから当然である)、ジェットは花束を後ろ手に隠し、ノックもせずにハインリヒの部屋のドアを開けた。
「ハインリヒ!」
ベッドサイドに腰掛けて本を読んでいたハインリヒは、眉をひそめてジェットに視線を走らせる。
「ジェット。いつも言っているだろう?人の部屋に入る時は、ノックぐらいしたらどうだ?」
「ハイハイ、分かってますって!」
ジェットは笑いながらハインリヒに近付き、その手から本を抜き取ってベッドの上に放り投げた。
「本当に分かってるのか?」
読書を中断され、不機嫌そうに立ち上がるハインリヒの目の前に、ジェットは花束を差し出す。
祝いの言葉と共に。
「誕生日、おめでとう」
色素の薄い氷色の瞳が、大きく見開かれ。
瞳から、怒りの色が消える。
そしてその瞳は、穏やかな優しい色に染まった。
「綺麗な花束だな・・・」
ジェットから花束を受け取ったハインリヒは、その花束をそっと抱きしめる。
(てゆーか!!)
その様子を見つめながら、ジェットは激しく思う。
(花なんかより、ぜってーハインリヒの方がキレイだぜ!!!)
そんなジェットの想いを他所に、ハインリヒは花々に顔を埋めるようにして静かに息を吸った。
「・・・良い香りだ」
視線の伏せ具合が、妙に色っぽい。
拳をグーにして、ジェットは更に激しく思った。
(目に鱗が100枚付いていると言われても構わない!ハインリヒは世界中で一番清らかで美しい、オレだけの天使だ!!)
いても立ってもいられず、ジェットはハインリヒを抱きしめようと腕を伸ばす。
しかし。
「待て、ジェット!」
ハインリヒの制止の言葉に、ジェットは不満そうに唇を尖らせた。
「どうして!?」
「この状態で抱きしめられたら、花が可哀想だろうが」
もう一度花束に顔を埋めたハインリヒは、ボソリと呟く。
「折角、お前から貰ったんだ。・・・綺麗に取っておきたい、って思うのが人情ってもんだろ?」
思いもかけぬその言葉に感激して、
「ハインリヒ!キミって本当に可愛いぜ!!!」
再度抱きしめようとすると、ハインリヒの指が素早く、ジェットの額を弾いた。
「いてっ!」
思わず額を押さえるジェットを、花束越しにハインリヒが睨みつける。
「バカッ!お前は人の話を聞いていないのか?オレは、花が可哀想、と言わなかったか??」
「・・・言いました」
「お前は本当に、見境いの無いヤツだな・・・」
呆れたようにそう言うハインリヒの手から、ジェットは花束を取り上げる。
そしてその花束を、ベッドの上にそっと置いた。
「これで文句なしだぜ、ハインリヒ?目の前にキミがいて、可愛いコト言ってくれて微笑んでるのに、抱きしめられないなんて拷問だ」
「お前ってヤツは・・・」
肩をすくめるハインリヒの腕を引き寄せ、抱きしめる。
「誕生日おめでとう、ハインリヒ」
白い頬に唇を寄せると、ハインリヒはくすぐったそうに笑い。
「・・・おめでとう、と言われる歳でもないぞ、もう」
氷色の瞳が、ジェットを優しく見つめた。
「そんなコトないって!大切な人の大切な日は、いつだってめでたいもんさ」
大真面目に、ジェットは答える。
「それにキミは・・・どんなに歳月が流れたって、世界中で一番キレイでカワイイ、オレだけのキミだから。だから歳なんて、全然関係ないね!」
「お前って・・・」
ハインリヒの頬が淡いピンクに染まる様を、ジェットは嬉しく眺めた。
「お前って、本当に恥ずかしいヤツだな。言ってて、照れたりしないのか?」
そう言ってジェットの腕の中で俯いたハインリヒの・・・艶やかな銀の髪が、サラリ、と流れた。
(やっぱり、めちゃくちゃキレイだよな〜)
思いつつ、
「照れたりなんかしないさ。だって、ホントのコトだろ?」
ニコリと笑って答えると、ハインリヒは、今度は耳まで赤くなった。
「・・・馬鹿・・・」
「キミがそうやって馬鹿って言う時って、照れてる時だもんな。言われ甲斐があるってもんさ」
「・・・・・・馬鹿」
窓から初秋の爽やかな風が吹き込み、白い花びらたちが優しく身を震わせる。
ハインリヒの銀の髪も・・・風に流れてフワリと揺れた。
その柔らかい髪を撫でながら、ジェットはもう一度言う。
「おめでとう」
腕の中のハインリヒを、優しく抱きしめながら。
「誕生日、おめでとう」
「・・・ありがとう・・・」
小さく小さく囁かれたその言葉を、ジェットの耳は確かに聞き取った。
返事の代わりに。
頬に穏やかな笑いを浮かべ、ジェットはギュッと力を込めて、ハインリヒを抱きしめるのだった。
まるでキミの心を映し出したような、白くてキレイな花束。
心を込めて、花束を。
キミに、両手いっぱいの、花束を。
〜 END 〜
終わった〜!!やっと書き終わったよ、私!!!
24でハインバースデーお祝いSSですvv
24同盟さんの24祭、今回は「誕生祭」ですが・・・に出品させていただいてる物です。
こちらでも同時アップさせていただきましたv
気合だけは入れて書きました。大本命カップリングですから!!
しかし、いつもながら気合が空回りしているような気が・・・。ハハッ。
何だか24書く時って、必要以上に気合が入って、逆効果になってることが多いです。
却って14とかの方が、気楽に書けて上手くかけたりとか・・・。
どうせ私は、好きな人への愛情表現が下手くそさ。
好きなカップリングほど上手くかけなかったりするのさ。
ま、いつもどおりいちゃいちゃベタベタなので、これでよし!