ケーキ。


*注意*
このお話のハインリヒは、少し大人気ないです。
つーか、子供です。
そんなハインは見たくない、という方は、
ご覧にならないことをお勧めします。




 今日は、クリスマスだから。
 そう言って、フランソワーズがケーキを焼いた。
 真っ赤なイチゴが乗っている、真っ白な生クリームのケーキ。
 張々湖が作ったご馳走を食べてお腹が一杯になっているというのに、皆、食べる意欲満々である。
「はーい。それじゃ、切り分けるわねv」
 ケーキに、スッと包丁が入る。
「えーっと、10等分ね」
 まず半分にケーキを切ってから、半分になったケーキを5等分に分けていく。
 ハインリヒはじっと、その様を見ていた。
 何を隠そう、ハインリヒは甘いモノが大好きだ。
 氷色の瞳が嬉しそうに輝く。
 普段は落ち着いているのに、ソワソワとした動きを見せる。
 そんなハインリヒの気持ちを知ってか知らずか、フランソワーズは、一番最初にハインリヒにケーキの皿を配ってくれた。
 イチゴが、丸々一個乗った、ケーキの皿を。
「ハインリヒ、どうぞ」
「・・・ありがとう」
 こうしてケーキを食べるのも、久し振りだ・・・。
 そう思うと、何故か感動を覚えた。
 甘い物好きだという事を他のメンバーに隠しているため(笑)、普段はなかなか、ケーキを食することの出来ないハインリヒであった。
 今すぐにもケーキをパクつきたい衝動に駆られながらも、ハインリヒはじっと我慢した。
 ケーキの皿が、最後にフランソワーズの前に置かれ、
「では、いただくかのう・・・」
 ギルモア博士がそう言うと同時に、ハインリヒのフォークが、ケーキに突き刺さった。
(美味いっ!!!)
 一口食べてそう思い、ハインリヒは感動に打ち震えた。
 スポンジはしっとりしていて甘すぎず。
 肌理も細かい。
 クリームも、上品な甘さだ。
「はあ〜vvv」
 ハインリヒは、満足げなため息をついた。
 ケーキを攻略しながら、ハインリヒは、考えた。
(イチゴはどうしよう・・・??)
 イチゴショートの上に乗っているイチゴも、ハインリヒの大好物だった。
 ケーキを攻略する手を止め、ハインリヒはしばし考えた。
(・・・やっぱり、一番最後だな)
 そう結論を出し、ハインリヒはケーキの上のイチゴをそっとフォークの上に乗せ、皿の隅にやっぱりそっと置いた。
 黙々とケーキだけに集中しているハインリヒを他所に、他のメンバーたちは談笑しながらケーキを食している。
 ほんの少しだけ、時間が過ぎて。
 ハインリヒの隣に座っていたジェットが、
「おっ!?」
 素っ頓狂な声を上げた。
「何だよ、ハインリヒ。皿の隅っこにイチゴを置いちまってさ。嫌いなのか?だったら、オレが食ってやるよ」
「ジェッ・・・」
『ジェット、違うっ!!!』
 そう叫ぼうとしたハインリヒだったが。
 叫びきる前に、ジェットのフォークがキラリと光り、ハインリヒのイチゴにぐさりと刺さった。
「いっただきまーす」
 大きく口を開けてイチゴを食してしまったジェットを見て、ハインリヒの口がパクパクと動いた。
 まるで、水から出された魚のように。
「ば、ば、ばっ・・・」
 ここで怒れば、自分がケーキのイチゴが大好きだという事がバレバレである。
「あーん?何だ、どした??」
 でも、絶対に許せなかった。
「このっ!大馬鹿野郎〜〜〜っ!!!!!!」
 鋼鉄の右手でグーを作り、ハインリヒはジェットの頬を思いっきりぶん殴った。
「なっ、何するんだよ、ハインリヒ!?」
「うるさいっ!食い物の恨みは恐ろしいと思い知れっっ!!!!」
 思わず涙目になるハインリヒを見て、ジェットがハッとしたような表情になった。
「もしかして・・・好きだった??」
「フンッ!」
 大人で、しかも三十路の自分が、こんなにまでケーキ(と、その上のイチゴ)にこだわるなんて、可笑しいかも知れない。
 でもハインリヒは、好きなのだ。
 最後に食べようと思って、大切に大切にとっておいたイチゴを、デリカシーの全くないアメリカ男(酷い言い様である)に食べられてしまったのだ。
 今、誰かに聞かれたら、ハインリヒは答えるだろう。
『イチゴケーキとジェット、どっちが好き?』
『ケーキだっ(キッパリ)!』
 それなのに、それなのにっ!!
(オレはコイツを、絶対に許さないっ)
 拳を固く握りしめ、プルプルと震えながらそう決意する、アルベルト・ハインリヒ(30)であった。
「もう寝るっ!」
 拗ねた子供のようにそう言って、ハインリヒはリビングのソファから身を起こした。
「ハインリヒ、待てよ!」
 ジェットが追いかけてきたが、ハインリヒは構わずに、ずんずんと歩いた。
「ハインリヒ!」
「・・・うるさいっ。オレに近づくと、殺すぞ!!」
 追いすがるジェットの鼻先で、バタンと激しくドアを閉める。
 イチゴを食べ損ねてしまった悲しい気分と、こんなくだらないことで腹を立てている自分に対する嫌悪感がごちゃまぜになり。
 ハインリヒはベッドに飛び込んで、一人で泣いた。



 翌朝。
「ジェット・・・ハインリヒの様子はどう?」
 心配そうに訊ねるフランソワーズに、ジェットは悲しげな瞳で答えた。
「・・・ダメだ。全然部屋から出てくる気配がない」
「あらあら。ハインリヒったら、そんなにイチゴが好きだったのねぇ。それを、ジェットに食べられちゃって、さぞかしショックだったでしょうねぇ」
 ふう、ため息をつくフランソワーズ。
「だからっ!こーやって反省してるだろうが!?」
 ムキになって言い募るジェットに、冷ややかな声がかけられた。
「ジェット。キミ、とうとうハインリヒに見放されたんじゃない?」
 そう言って。
 クスリ、と意地悪く笑ったのは、ジョーだった。
「これでボクにもチャンスが巡ってきたかな?ハインリヒを美味しいケーキ屋さんに誘って、ラブラブデート??」
「・・・ジョー」
「何?」
「オレのハインリヒに手出ししようなんて、考えるんじゃねーぞ?」
「聞こえなーい」
 ジョーは、ジェットにペロリと舌を出して見せた。
 たかが、ケーキの上のイチゴを食べただけでっ!!!
 ジェットは、泣きたい気分になった。
「はあーあ。ハインリヒは食事にも出てこないし、困ったわ」
 フランソワーズからも、追い討ちをかけられる。
「分かったよっ!」
 ジェットは叫んだ。
「つまり、オレの所為だって言いたいんだろ、みんな!!」
「へえぇ〜。良く分かってるじゃない?」
 ジョーからまたもやイヤミっぽくそう言われ、ジェットは頭に血が上る。
「まあ、まあ」
 そんなジェットを宥めたのは、ピュンマだった。
「ジェット。ボク、思ったんだけどね。お詫びにキミからハインリヒにケーキを買ってあげれば?ハインリヒの好きな、イチゴショートをさ」
 そう言って、ピュンマはジェットに一枚の紙切れを差し出した。
「はい、これ」
「・・・何だ?」
「美味しいイチゴショートの売ってるお店の地図。昨日、ネットサーフィンして見つけたんだ」
「・・・ピュンマ・・・」
 ピュンマがイイ奴だというコトは十分に分かっていたはずだったが、更にそれを再確認したジェットであった。
「サンキュ、ピュンマっ!友情って素晴らしいぜ!!!」
 思わずギュッとピュンマを抱きしめると。
「そんなコトしてる暇があったら、早くケーキを買ってくれば?」
 呆れたような声で、そう言われた。
「うっし!行ってくるぜっ!!」
 自慢のジェットエンジンに点火すると、ジェットは窓から外に飛び出していった。
「・・・ピュンマ?」
「なっ、何、ジョー??」
「どーしてキミは、恋敵に塩を送るのかなぁ?」
「別に、ボクはハインリヒ狙いじゃないし・・・」
「へえーえ。あっそ」
 ピュンマがジョーに苛められている事も知らず、ジェットは呑気に、空を飛んだ。



 30分程が経過した頃。
「ただいま〜」
 意気揚々と、ジェットがギルモア邸に戻ってきた。
「おかえりなさーい」
「おかえり」
 フランソワーズとピュンマに迎えられたジェットは、ケーキの箱をフランソワーズに手渡す。
「フラン、コレ、みんなの分な」
「えーっ!イイの、ジェット!?」
 ジェットから渡されたケーキの箱を抱えて、フランソワーズは嬉しそうだ。
「おう、みんなで食べてくれよ。で、フランソワーズ。物は相談なんだけどな・・・」
「あら、何?」
「ハインリヒのために、美味しい紅茶、淹れてもらっていいか?」
「お安い御用よ♪」
 ウキウキとした足取りでキッチンに向かうフランソワーズ。
 ジェットはその後ろに大人しく付き従った。
 そして、彼女がティーポットからコポコポと紅茶を注ぐ様を見て思った。
(オレには出来ない・・・)
「ハイ、どうぞvvv」
「サンキュっ」
「それじゃワタシ達は、リビングでジェットからのケーキを食べてるから」
「分かった」
 フランソワーズから受け取った紅茶と、買ってきたケーキを二人分お盆に乗せ、ジェットはハインリヒの部屋へと向かった。
「おーい、ハインリヒ?入ってもいいか??」
 呼んでも返事がない。
 どうやら、まだご立腹のようだ。
「ハインリヒ、ホントにゴメンな。キミがそんなにイチゴが好きなんて知らなかったんだ」
「・・・・・・」
 やっぱり、返事はない。
(オレのお姫様は、ホンットに強情だな・・・)
 心の中でため息をついてから、ジェットは最後の手段に出た。
 これでハインリヒが出てきてくれなかったら、もうお仕舞いだ。
「あーあ。折角、ハインリヒのためにケーキ買ってきたのになぁ。ピュンマの見つけてくれた店で買ったから、美味いだろうなぁ。でも、ハインリヒ、食べてくれないしなぁ。仕方ないから、オレ一人で食べるとするか」
 カタリ。
 部屋の中で、音がした。
「・・・入れ」
 ドアの向こうから声が聞こえて、ジェットはニヤリと笑う。
 そして、心の中でクスリと笑った。
(よっぽど、イチゴケーキが好きなんだな・・・カワイイぜv)
 部屋の中に入ると、ハインリヒはベッドの上で突っ伏していた。
 ベッドサイドのテーブルにケーキの乗ったお盆を置き、ジェットはハインリヒに近寄る。
 そして優しく、銀色の髪を撫でた。
「ハインリヒ。本当にゴメンな。お詫びに、ケーキを買ってきたからさ。食べてくれよ」
 チラリとハインリヒがジェットに視線を走らせる。
 その瞳は、まだ拗ね気味だ。
(こんなハインリヒが見られるなんて・・・マジでカワイイぜっ!!!)
 ジェットのアホな感動を他所に、ハインリヒがベッドから身を起こし、テーブルの上のケーキを見た。
 その瞳が、キラリと輝く。
「・・・お前が買ってきたのか?」
「そう。キミのためだけにね」
 ハインリヒは、黙って椅子に腰掛けた。
 ジェットも、それに習って椅子にかける。
 そして、ハインリヒの銀色のフォークがケーキに突き刺さる様を、ドキドキしながら見守った。
(不味い、とか言われて、もっと機嫌悪くしたらマズイよな〜)
 ケーキの最初の一口が、ハインリヒの口の中に入った。
「・・・・・・」
「あの〜、ハインリヒ?お味の方は、どうかな〜、なんて」
 ハインリヒの氷色の瞳が、ジェットを見つめた。
 その瞳が優しく微笑んでいることを確認し、ジェットはホッとする。
「美味い」
 一言だけそう答えると、ハインリヒは黙々とケーキを食し始めた。
 昨日と同じように。
 イチゴを、皿の隅に寄せて。
 安心して自分の分のケーキを食べ始めたジェットだったが。
「ハインリヒ」
 ケーキの上のイチゴを自分のフォークに刺すと、ハインリヒの名前を呼んだ。
「???」
 ジェットの方に視線を向けるハインリヒに、
「イチゴ、食べる?」
 そう、訊ねると。
 ハインリヒは、コクリと頷いた。
「はい、それじゃ、あーんvvv」
 殴られるかな、と思いながら、冗談のように言ったのに。
 パクリ。
 ハインリヒは、ジェットのフォークからイチゴを食べた。
 幸せそうに。
「ハっ、ハインリヒっ!!!」
 感動してもう一度名前を呼ぶと、口をもぐもぐと動かしながら、ハインリヒがジェットを見た。
 たまらなく可愛らしい表情で。
 椅子から身を乗り出し、ジェットは思わず、ハインリヒにキスをしてしまう。
 ・・・ハインリヒの唇は、イチゴの甘酸っぱい味がした・・・。
「ジェットっ!!!!」
 ハインリヒが叫んだが、口の中のイチゴをもくもぐごっくんしてからのその叫びは、全く迫力がなかった。
「ゴメンっ、反省してるっ!オレの分もあげるから、許してくれ!!」
「・・・フン・・・」
 ハインリヒの手がスーッと、ジェットのケーキの皿に伸び。
 ジェットは、自分が許されてしまったことを知った。
(普段なら、絶対に殴られるのに・・・)
 その瞬間、ジェットの頭の中でよからぬ考えが頭をもたげた。
(もしかして・・・無理矢理XXしちゃっても、あとからケーキをあげれば許してもらえるのか・・・???)
 そんな不埒なことを考えて、ジェットはブルブルと頭を振った。
(ダメだ、オレっ!そんなコト考えるなんて、ダメだっ!!!)
 ハインリヒの方を伺い見ると。
 やっぱり幸せそうな顔で、ハインリヒはケーキを食べている。
「ジェット」
「なっ、何!?」
 名前を呼ばれて、不埒な考えがバレたかと青くなるジェットに、ハインリヒはニコリと微笑みかけた。
「お前の分、本当に食べてもいいのか??」
「(くう〜っ!なんて可愛い笑顔なんだ〜っっ)・・・もちろんっ」
「そうか・・・では、いただこう」
 幸せそうに微笑みながらケーキを食べるハインリヒを、ジェットもやっぱり、幸せな気持ちで見つ
めるのだった。



 その後。
 ハインリヒに頼みごとをする時、またはハインリヒのご機嫌取りをする時の必殺のアイテムとして。
 00ナンバーたちの間で、ケーキが多用されたことは言うまでもない。



  〜 END 〜





平成14年最後の24デー用に準備した創作です。
テーマは、大好きなケーキのイチゴをジェットに取られて拗ねるハイン(爆)。
信じられないことに、クリスマス創作よりかなり長めのお話になりました(滝汗)。
ふみふみ、自分に嫌気が差してます。
でも、正直に申し上げますと、短時間で長々と書いた割には楽々と書けましたっ。
ちょっとお笑い系の話にしたからか、お笑い系にっ!?
クリスマス創作よりこっちの創作の方が欲しい、
という方がもしいらっしゃったら、どうぞお申し出下さい。
クリスマス創作が短かったことが、かなり気になってますので(汗)。
管理人の自己満足話でございましたが、楽しんでいただけたら幸いです。



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