瞳の住人




 365日。

 指折り数えれば、とても長いような。
 けれども、ほんの少しにも思えるような歳月が流れて。
 また、キミの生まれた日が巡ってくる。

 飛んで行くよ、キミの許へ。

 年に一度だけの、大切な日を祝いに。



 透明なブルーの空は、まるで、キミの瞳の色。
 優しく見つめられているようで、オレにはそれが嬉しい。

 向かう先は、ドイツ。
 キミの故郷。
 初秋に入って、少し肌寒いような、けれどもキレイな風に吹かれる。

 キミの家が近づくと、胸がドキドキする。
 もうすぐ、キミに会える。



 コツコツと叩く、キミの窓。
 キミの視線が、フッとオレを向く。
 クリスタルの瞳に、オレが映った。

 口唇が、パクパクと動く。
 どうやら、玄関に回れと言っているようだ。

 オレは玄関から入るより、キミの窓から入るのが好き。

 窓を叩いた時。
 振り向くキミの瞳に、オレが映って。
 キミが驚いたような顔をして、それからそっと微笑む、その表情が好き。

 だから、キミの窓を叩くよ。

 ちょいちょいと、指でキミを招き寄せる。
 少し呆れたような表情で。
 キミが、窓辺に向かってくる。

 鍵の開いているガラスを開けて。
 ヒラリと部屋の中に入り込んで。
 腕を伸ばして、抱きしめた。

 温かな、キミの香り。
 確かめるように、ギュッと抱きしめる。
 腕の中の身体が身じろいで。
 肩先にポスンと、キミの頬が置かれた。

 可愛くて、キレイで、優しくて、少し切ない。
 オレだけのキミ。

 好きだとか、愛してるとか。
 どれだけ言っても、言い足りない。

「好きだよ・・・」

 キミにしか、言わない。



「というワケで、出掛けようぜ?」
「はあ?何がどうなって、そういう話になるんだ!?」
 華奢な身体を抱き上げて、開いた窓から、空へとダイブ。

 ほら、空を見上げて。
 キレイな、キレイな蒼。
 空よりもっとキレイなキミを乗せて、どこまでも飛んで行くよ。

「ハッピーバースデイ」

 耳元で、囁く。
 キョトンとした顔で、キミがオレを見つめる。

「好きなところに連れてってやるよ。・・・何処に行きたい?」
「・・・え??」

 赤くなって、可愛い・・・。
 食べてしまいたいぐらい。

 そして、小さな声が、耳に届いた。

「・・・ティーアガルテン」
「え?」
「・・・公園に、散歩に連れて行け・・・」
「それだけでイイの?」
「・・・オレが、そうしたいんだ」
「了解」

 キミを乗せて、飛ぶよ。
 望みのままに、どこまでも。

「・・・人目の付かないトコロで下ろせよ」
「分かってるって」



 木々の緑が、紅く色づき始める季節。
 二人で、公園を歩く。
 普通の恋人みたいに、手を繋いで。

 ひどく穏やかな色彩に彩られたキミの瞳に、吸い込まれてしまいそうで。
 口元に浮かぶ、柔らかな笑み。

 オレを見上げて、笑う・・・。
 とてもとても、キレイに。

 ふわりと、銀糸のような髪が、風に揺れた。

 キミの側で、ずっとキミの笑顔だけを見つめていたいよ。

 愛してる、愛してる、愛してる・・・。

 馬鹿みたいに、心の中で繰り返しながら、キミだけを見つめていたい。
 オレの瞳の中には、いつだってキミがいる。
 キミが側にいない時だって、いつでも。

 だから。
 キミのキレイな瞳の中にも・・・。
 どうか、このオレを住まわせてくれ。

 側にいられない時でも、ずっと。
 ずっとずっと、キミの瞳の中に住んでいたい。
 オレが側にいない時でも、キミの瞳に、オレを映してよ。

 繋いだ手を、ギュッと握りしめると。

 キミの手にもキュッと力が入って。

 二人で、顔を見合わせて笑った。



 キミの大切な日。
 もっと気の利いたことをしてあげたいけれど。

「ハインリヒ。折角の誕生日だぜ?何かオレに、おねだりとかないのか?」
「・・・・・・・・・」

 クスリと笑って、キミは空を見上げた。

「何も、いらない・・・」

 キレイな口唇から、零れ落ちた言葉。

「お前がこうして側にいてくれる。それだけで、いい・・・」

 そんなにキレイに微笑んで。
 これ以上、オレをキミに夢中にさせて、どうするつもり?
 ああもう・・・。

「キミって、可愛すぎ・・・」

 ボソリと呟くと、

「三十路の男に向かって、可愛いとは失礼だぞ?」

 少しむくれて、口唇が尖る。
 ・・・だから、可愛いんだって・・・。

「ホント、おめでとう・・・」

 そっと抱き寄せて、キスを贈る。
 オレの限りない愛なら、いくらでも捧げられるよ。

 キミの瞳に、オレが映る。
 その様が、とてもとても好き。

 キミの笑顔が好き。

 ・・・オレだけのモノだ・・・。



 これから先もずっと、キミの笑顔を見つめて。
 キミの瞳に、オレの姿を映して。
 ずっと、ずっと、ずっと先まで。

 祝わせてよ、キミの、特別な日。

 誰よりも、オレに。

 何でもしてあげるよ。
 キミのためなら。

 連れ出してあげるよ。
 キミの好きな場所へ、キミを乗せて。

「おめでとう。キミが生まれてきてくれて、嬉しい・・・」

 何度も何度も、繰り返す。

 おめでとうと、キスの嵐。

 キミが、嫌がるまで、何度でも。

 愛してるから、大切だから、好きだから。



 キミが生まれてきてくれて。
 オレに出会ってくれて。

 ・・・オレを愛してくれた・・・。

 そのことを、嬉しく思う。


「愛してる」


 平凡な言葉だけれど。

 キミの瞳の中のオレは、ひどく真面目な顔でそう告げて。

 そしてやっぱり。

 キミはとても、キレイに微笑んだ。




〜END〜






−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ハイン聖誕祭に出した、お誕生日24ですv
あまり誕生日っぽくなくてスミマセン(汗)。
ラ○クの「瞳の住人」がイメージソングです!!
この曲を初めて聞いた時から、ずっと24でやりたいと思ってたんで、
念願叶って嬉しいですvvv

遅くなりましたが、ハインリヒ、お誕生日おめでとう!!
いつまでもいつまでも、貴方が貴方の大切な人と共に幸せでありますように。





ブラウザを閉じてお戻りください