It Takes Two(後編)
「ジェット!!」
強く、その名前を呼んだ。
けれども。
ジェットは振り向きもせずに、ハインリヒに背を向けて駆け去っていく。
バタン!!
激しく、ドアが閉まる音。
そしてジェットは、ハインリヒの前から姿を消してしまった。
「馬鹿野郎が・・・!人の言うことは、ちゃんと聞けってんだ」
その場にはいないジェットに向けて、ハインリヒは低く、呟いた。
いつも突然に目の前に現れて。
何か言いたげな瞳で、じっとハインリヒを見つめている。
琥珀の瞳に浮かぶその色は、まるで、まるで・・・。
勘違い、しちまうじゃないか・・・。
そんな目で見つめられると、決まって居心地が悪いような気持ちになり、視線を伏せた。
それが合図のように、ジェットはハインリヒに背を向ける。
言いたい事があるなら、言えってんだ・・・!!
後姿を見送りながら、いつも、心の中でそう呟いた。
きつく、抱きしめられて。
身体が熱を持つ。
嫌では、なかった。
そして、耳元で熱っぽく囁かれて。
『好きだ』
と。
『キミが好きだ』
と。
顎に手をかけられ、自然に重なる口唇。
眩暈がして。
けれども、嫌ではなかったのだ。
「オレだって・・・」
想いは次第に、形を変えていった。
初対面の時は、その能天気さに苛立ちを感じて。
けれども、その明るさに救われている自分に気付いて。
仲間として、大切に想いながら。
一緒に、長い時を過ごしてきたのだ。
辛いときも、嬉しい時も。
一緒に。
仲間以上に想い始めたのがいつなのか、自分でも分からない。
誰よりも大切に想い始めたのが、いつなのか。
彼女の事は、決して忘れられないけれど。
同じように、大切に思えるようになったのは・・・。
いつからなのだろう?
『キミが、好きだ・・・』
仕事をしていても。
熱っぽい囁きが、グルグルと頭の中を回って。
落ち着かない。
・・・落ち着かない・・・。
「ああもう。一人で考えてたって、決着が付くわけないだろうが!!」
自分に言い聞かせるようにして。
ベッドサイドの電話に手を伸ばした。
彼の番号を、プッシュする。
ベルの音が、一回、二回、三回・・・。
ハインリヒは辛抱強く待った。
十回待って、諦めて電話を切ろうと思った時。
『・・・ハロー?』
元気のない声。
「ジェット、オレだ・・・」
受話器の向こうで、空気が震えたような気がした。
『ハインリヒ・・・?』
「そうだ、オレだ。お前、この間、何で・・・」
『忘れてくれって言ったろう!?』
キツいジェットの物言いにカチンと来て、少し声を荒げてしまう。
「そんな一方的に言われて、はいそうですかと引き下がれるか!あの時、オレは、お前を呼び止めたろうが!?」
『呼び止めて?オレを詰ろうとでも思ったのか・・・?』
自嘲するような声が、耳に痛かった。
「違う・・・!」
『じゃあ、何だってんだ!?』
「ジェット」
出来るだけ落ち着いた声を出しながら、ハインリヒは呼びかけた。
「この間のお前の気持ちが本当なら、もう一度、オレに会いに来い」
『・・・どういうつもりだよ・・・?』
「お前に、話がある。あんな事を言い出したのはお前なんだから、責任取って、お前がオレの所に来いよ。それとも、アレはお前のおふざけなのか?」
『違・・・っ!!』
「じゃあ、来いよな?」
『・・・・・・』
黙ってしまったジェットに、
「オレの言った事、忘れるなよ」
そう言い捨てて、一方的に電話を切った。
ジェットは、来るだろうか?
ボーっとしながら、ハインリヒは待った。
来たら来たで、何を言えばいいのだろう?
そんな事も考えたが。
なるようになると自分に言い聞かせ、ハインリヒは気持ちを落ち着かせるために、珈琲を淹れた。
芳しい香りが小さな部屋の中に漂い始めた頃。
玄関のベルが、音を鳴らした。
「思ったより、早かったな・・・」
ドアを開けてやる。
まともにジェットの強い視線を受け、ハインリヒは怯みそうな自分を叱咤しながら笑みを作った。
「入れよ。ちょうど、珈琲が入った所だ。飲むだろ?」
「・・・サンキュ」
小さな声で、ジェットが答えた。
あの日と、同じシチュエーションだ。
二人で向かい合って、リビングで珈琲を飲んでいる。
ジェットが何か言ってくれないかと思い、ハインリヒはしばし待ってみたが、彼が口を開く気配はない。
「ジェット・・・」
仕方なく口火を切ると、ジェットの瞳が熱っぽくハインリヒを見つめた。
「オレ達は長い間、一緒に歩いてきたよな?」
ジェットが、微かに頷いた。
「そしてオレ達は、お互いを仲間だと思ってた」
ジェットの表情が、歪んだ。
「今は・・・?」
尋ねたが、答えはなかった。
キュッと口唇を噛み締めて、ジェットはハインリヒを見つめる。
「お前は、オレを好きだと言ったな?それは、本心か?」
「オレは・・・」
ようやく、ジェットが口を開いた。
「キミが、好きだ・・・」
何度も何度も、繰り返す。
「キミが好きだ。好きだ、好きだ・・・。どうしていいか、分からないぐらいに・・・」
真摯な瞳に、身体がまた、熱を持った。
答えを、返さなければならないと。
それだけを思いながら。
「オレも・・・」
ハインリヒもまた、口を開いた。
「きっとオレも、お前のことが好きだ」
上手く言えたろうか?
声は、震えていなかったか?
ジェットの瞳が、大きく見開かれた。
「ハインリヒ・・・?」
「お前がいてくれるから、オレは歩いて行くことができる。ありがとう・・・」
ガタリ。
ジェットが、立ち上がる。
気が付くと、ジェットの腕の中に抱きしめられていた。
「もう一度、言わせてくれ・・・。キミが、好きだ・・・」
ジェットの背中に、腕を回した。
「好きになってくれて、ありがとう・・・。オレも、好きだぞ・・・」
それは、ハインリヒの心からの想いだった。
一緒に、歩いてきたから。
これからも一緒に、歩いていきたいから。
「ジェット、本当にありがとう・・・」
瞳に映る、ジェットは。
泣き出しそうな顔をしている。
「ハインリヒ・・・キス、させてくれよ・・・」
震える声が、愛しい。
少し回り道をしたかもしれないけれど。
これからも一緒に時を刻んでいきたいな・・・。
返事の代わりに。
ハインリヒはそっと、目を閉じた。
自然に重なる口唇。
ジェットの背中に回した手に、ハインリヒはキュッと、力を込めた。
〜 END 〜
ハッピーエンドで終わりました〜vvv
やっぱり24は両思いで幸せでいて欲しい・・・!!
というのが、私の切実なる願いです。
あんまり甘めにはなりませんでしたが、
皆様のお気に召していただけましたでしょうか?
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