キミがいる




 カーテンの隙間から差し込む、眩しい太陽の光。
 ベッドの上、パチリと目を覚ましたジェットは、隣にハインリヒの姿を認め、瞳を細めた。
 長い指を伸ばし、サラリと柔らかな銀の髪に触れる。
 サラサラと音を立て、指の隙間から、零れていく。
 その一房に口唇を押し当てて、ジェットはスルリとベッドから滑り降りた。
 さっと、カーテンを開くと、部屋の中に、光が降り注ぐ。
 窓を開ける。
 真っ青な空、澄み切った空気。
「ん・・・。ジェット・・・?」
 モソモソと、ハインリヒの身体がベッドの上で動いた。
「ゴメン、起こした?もう少し寝ていてイイよ。な?」
 クシャリと髪を撫でると、ハインリヒはブランケットの中に潜り込み、ウトウトとまどろんでいるようだった。
 その様子を見て笑った後、ジェットは手早く衣服を身に付け、キッチンへと向かった。

 冷蔵庫の中を物色する。
「オレでも作れそうなものは、スープとスクランブルエッグぐらいか・・・?」
 フライパンやら鍋やらを取り出して、ジェットは食事の支度を開始した。
 キャベツとオニオン、キャロットを軽く炒めて、コンソメスープで煮込む。
「トマトも切ろうかなぁ」
 独り言を言いながら、まだ少し青みのあるトマトを手の平で転がしていると。
「・・・ジェット」
 起き抜けで、まだ少しボンヤリとしているその人に、ジェットはニッコリと笑いかけた。
「おはよう、ハインリヒ」
「ああ、おはよう」
 互いに交し合う『おはよう』の挨拶。
 いつの間にか、当然のことのようになっている。
 当然になっているその事が、どれだけ嬉しいか・・・。

 キミは、分かってくれている・・・?

「お前が飯を作るなんて、珍しいな」
「たまには・・・な。昨日はキミに無理させたし」
 悪戯っぽくウインクすると、ハインリヒの頬が微かに赤くなった。
「身体、大丈夫・・・?」
「・・・聞くな・・・」
 ボソリと呟いてから、ハインリヒは食器棚へと向かった。
「皿を出してやる。メニューを言え」

 食事をしながら、ジェットがニコニコと笑うと、ハインリヒは怪訝そうな顔をした。
「何がそんなに楽しいんだ?おかしなヤツだな・・・」
「ん?だってさ・・・」
 ジェットは、ハインリヒに向かって手を伸ばした。
 そっと白い頬に触れると、ハインリヒが思いっきり身体を後ろに引いた。
「食事中に何しやがる!?」
「だって、ホラ・・・」
 手を伸ばせば・・・そこに、キミがいるから。
「嬉しいだろ?な??」
「だから何がだって聞いてるだろうが・・・」
 ハインリヒの呟きに答えることはせず、ジェットはただ、笑った。



 後片付けまで済ませ、いつもの散歩コース。
 初冬の風は少し冷たいが、澄んでいる。
 キレイな風に吹かれながら、二人で並んで歩く。
 いつの間にか、当たり前になってしまったそんな習慣。
 その当たり前が、やっぱり嬉しい。
「ハイ〜ンリヒv」
 おどけたように、名前を呼ぶ。
「・・・何だ?」
 少し前を歩いていたハインリヒが、ジェットを振り向いた。
「って、お前なぁ・・・。鼻の下が伸びてるぞ。今日は一体、何なんだ・・・?」
 ありふれた毎日、当たり前の毎日。
 それが、とても幸せに感じられる。
 その理由は、ただ一つだけ。
 今更ながらに、そう思う。
「だって、ホラ・・・」
 今ここに、キミがいて。
「手を伸ばせば・・・」
 柔らかな日差しにきらめく銀の髪、空の蒼を淡く映し出すクリスタルの瞳。
「手を伸ばせば、ここにキミがいて、キミに触れることが出来る」
 言いながら、ハインリヒの身体を腕の中に攫った。
「誰よりもキミに・・・側にいて欲しいよ・・・」
「・・・バカ・・・」
 腕の中、くすぐったそうにハインリヒが笑う。
「お前が泣いて頼んだって、離れてやらんぞ」
「それは光栄だな」

 ありのままの自分を見せることが出来る人。
 弱さでさえも、抱きしめてくれる。

 ずっとずっと、望みは一つだけ。
 手を伸ばせば・・・。
「ここに、キミがいる・・・」
 腕の中のハインリヒがジェットを見上げ。
 眩しそうな表情をして笑った。



〜 END 〜







2005年の11月22日(いい夫婦の日)記念SS。
まるで長年連れ添った夫婦のようにナチュラルに一緒にいる24。
それが、テーマだったはずなのに・・・(汗)。
思惑から外れた話になりました。
けみちゅとりーの同名の曲が、モロにイメージソングになってますv






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