かわいいあなた
突然、ジェットがバイトを始めた。
ギルモア邸に、ただ世話になっているのに気が引けたらしい。
「お前にしては、至極真っ当な考えだな」
うんうんと、したり顔でハインリヒは頷いたのだが・・・。
「ハインリヒ!ジェットのバイト先に偵察に行こうよvvv」
思いっきり楽しそうなジョーからの誘いを受け、何故か今、ハインリヒはジェットのバイト先の和風居酒屋にいる。
「いらっしゃいませ!」
タイミング良く、ジェットが登場し、彼はギョッとしたように、二人に視線を走らせた。
「おい、ジョー!なんでハインリヒとこんなトコにいるんだよ?」
声を潜めながら尋ねるジェットに、ジョーが笑いながら答えた。
「え〜?ハインリヒと一緒に、ジェットが頑張ってる姿を応援に来たんだよvねえ?」
突然賛同を求められ、ハインリヒが言葉に詰まっていると。
「・・・嘘吐け。面白がってるんだろ?」
ジェットがジロリとジョーを睨み、ジョーは屈託なく笑った。
「そう言われるとそうかも知れないけどぉ〜。ま、どうでもイイじゃない。ハインリヒ、何飲む??」
「・・・ビールをジョッキで」
「あ、ボクもそれね!」
憮然とした表情でドリンクの注文を取り、ジェットは引っ込んでいった。
「ジェットの反応、思ったとおり楽し〜いvvv」
ジョーはキャッキャと無邪気に喜んだ。
間もなくビールが運ばれてきて、そのタイミングでジョーが素早く食べ物の注文をする。
「海鮮鍋を二人前!!」
「ハイハイ」
「メニューには載ってないけど、白いご飯も準備できる??」
「・・・大丈夫だと思うけど・・・」
ジョーがニッコリとハインリヒに微笑みかけた。
「やっぱり鍋には白いご飯だよね!!」
ジェットは再び引っ込んでいき、次に現れた時に、鍋とガスコンロを持ってきた。
「すぐに具をお持ちしますのでお待ちください」
などと言いながら、鍋をコンロに乗せ、火をつけようとしたジェットだったが。
カチカチと摘みをひねっても、火がつかない。
クスリとジョーが笑うと、ジェットは赤くなり、軽くジョーを睨んだ。
「出直してきます」
コンロに鍋を乗せたまま、ジェットは退場した。
「聞いた!?ねえ、ハインリヒ、聞いた!?出直してきます、だって〜!!」
ケラケラとジョーが笑う。
「まあ、そんなに笑うな。頑張ってるみたいじゃないか」
一応、ジェットをフォローしてやると、
「あ〜、ハインリヒってば、ジェットを庇うんだ?何せ、ハインリヒはジェットが大好きだもんね〜v」
そう言われて、ハインリヒはウッと言葉につまり、俯いた。
サカサカとジェットが舞い戻り、今度は無事にコンロの火をつけた。
鍋の具材を持ってきて、
「ダシの出る魚介類から先に入れます」
非常に、やりづらそうである。
それでもまあまあ無難に、鮭やホタテを鍋の中に投入した。
ジェットが操る箸が、ハマグリに伸び。
ポロリ、と、ハマグリが箸の先から逃げていく。
何度かジェットがトライするが、その度にスルスルとハマグリは逃げてしまう。
「おい、ジェット。手掴みで鍋に入れてもオレは構わんぞ?」
「いや!オレは頑張る・・・!!」
ハインリヒが助け舟を出してやったが、ジェットは必死でハマグリを掴もうとしている(箸で)。
長時間を要し、なんとかハマグリ二個が鍋に投入された。
「すり身もダシが出るので、先に入れます」
小分けにしながらすり身を鍋に入れていくジェットを見つめながら、ハインリヒはボンヤリと思った。
(海老と牡蠣は魚介類じゃないのか・・・?)
具材の皿に、海老と牡蠣が忘れ去られたように乗っている。
しかし、突っ込むのも可哀想に思えたので、言わないでおいてやった。
すり身まで投入を済ませるとジェットはどこか満ち足りた表情で二人の前を去っていった。
「ジェットは野菜の面倒までは見てくれないみたいだね。ボクが入れてイイ??」
「ああ、済まないな・・・」
慣れた手つきで、ジョーがヒョイヒョイと鍋に野菜を投入していく。
ジョーご所望の白いご飯も無事に運ばれてきて、二人はしばし、食事を楽しんだ。
「鍋を食べるのって、久し振りかも。温まるよね〜」
「そうだな・・・」
ジェットはどうやらこのエリアの担当らしく、先ほどから行ったり来たりを繰り返している。
何となくその様子を眺めていると、タイミング悪く、ジェットが女性グループに声をかけられている姿を目撃してしまった。
ハッと視線を逸らすと、ニッコリと微笑んでいるジョーと目が合った。
「あれぇ。ジェットったら、鼻の下が伸びてるねぇ」
(言うなよ!!)
心の中でジョーにツッコミを入れつつ、ハインリヒはジェットを呼び寄せた。
「デザートを食うぞ!オレはパンナコッタわらび餅だ!!」
「ボクもそれねv」
注文を取りにきたジェットを、ハインリヒは思いっきり険悪な目で睨みつけてやった。
「酒だ!酒も持って来い!!焼酎をボトルでな。お湯と梅干を忘れるなよ!」
ハインリヒがカパカパと酒を呷っていると、デザートが運ばれてきた。
「お待たせしました」
ジェットは、デザートスプーンをハインリヒに差し出したまま固まっている。
(置けばいいのに、何やってんだ、コイツは・・・?)
チラリとジェットを見やり、ハインリヒはぞんざいにスプーンを受け取った。
目の前で、プルプルと可憐に白い身体を震わせるパンナコッタ。
本来ならば、ハインリヒの目はハートになるハズだ。
しかし、
「フン」
面白くなさそうにハインリヒはデザートにスプーンを突き刺した。
「ハインリヒ?」
そんなハインリヒの様子にただならぬものを感じたのか、ジョーが恐る恐るといった体で名前を呼んでくる。
「あ〜ん?」
「そろそろ・・・帰ろうか?」
「帰らんぞ!」
力強く宣言しつつ、ハインリヒは空になったグラスに焼酎を注いだ。
「ジョー、帰りたいなら先に帰るんだな」
困ったようにジョーは笑った。
「フランソワーズが心配するし・・・」
「フン、大丈夫だ。ジェットと一緒に帰るから」
「え??」
「ジェットと一緒に帰ると言ってるんだ」
言い放って、ハインリヒはグラスの焼酎をグイッと呷った。
「ちょっと、ジェット!」
ジョーがジェットを呼びつけた。
テーブルに突っ伏して、ハインリヒは気持ち良さそうに眠っている。
「責任持って、ハインリヒを連れて帰ってきてよね?」
「へ?責任って・・・??」
「知らないよ!それじゃあね」
伝票を持って、ジョーがスタスタとレジに向った。
「ハインリヒ??」
呼びかけてみるが、ハインリヒはピクリともしない。
ふう、とジェットは溜息をついた。
「こんなになるまで飲んで・・・。どうしたんだ?」
クシャリと銀の髪を撫でてやり、ジェットは今日が早上がりであることにホッとした。
「そろそろ上がりの時間だし・・・。ハインリヒ、少しだけ待っててな」
恙無く(?)本日の仕事を済ませ、ジェットはハインリヒを抱き上げた。
眠っている身体は、普段よりも重く感じられる。
なんとか店の外に出たジェットは、ハインリヒを背負った。
「ハインリヒ。これから帰るからな」
言いながら歩き出すと、
「ジェット・・・」
掠れた声で名前を呼ばれた。
「気が付いた?大丈夫??」
「フン」
問いかけると、ハインリヒは面白くもなさそうに鼻を鳴らした。
「若い女性に囲まれて、ヘラヘラしてるんじゃねえよ、このバカ」
不機嫌そうな声。
ジェットは、不謹慎ながら喜んでしまった。
「もしかして・・・妬いてくれたの?」
「誰が妬くか、バカ。もうお前なんか・・・」
語尾が途切れ、クタリとジェットの肩にハインリヒの頬の重みがかかった。
「また寝ちゃったかな・・・」
クスクスと笑いながら、ジェットは呟いた。
背中の重みが、ひどく愛しく感じられる。
「何かオレ、今すごく幸せかも・・・v」
鼻歌でも歌いたい気持ちだった。
「キミって・・・本当に可愛いよ・・・」
鼻の下を思いっきり伸ばしてのジェットの発言は、ハインリヒの耳に届くことはなく・・・。
ジェットはハインリヒを背負ったまま、気分良く夜道を歩いた。
〜 END 〜
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先日、神咲ハヤト様と一緒にご飯を食べに行った際、
バイトの兄ちゃんが面白かったので、ジェットで再現。
再現だけにしとけば良かったのに、
結局バカップル24になってスミマセン(汗)。
これにて、宿題の提出完了!
・・・で、イイですよね、ハヤト様??
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