ティータイムをあなたと




「ジェット」
 とてもとても柔らかく、ハインリヒが微笑む。
「茶を淹れてやる。少し待ってろ」
 コンロの上、シュンシュンと音を立てるケトル。
 まるで宝物でも手にしているかのように、大切に白い手の平に乗せられているお茶の缶。
「あ、それって・・・」
「この前、お前と一緒に買った茶葉だ。お前に茶の味など分からんだろうが、特別に味あわせてやる」



 数日前、ハインリヒ一緒に、街に買い物に出た。
 必要な買い物を済ませた後、どこかソワソワしているハインリヒに。
「行きたいトコ、あるのか?」
 尋ねると、小さく頷いて、
「ちょっと付き合え」
 スタスタと歩き出した。
 ハインリヒの行き先は、とある百貨店で。
 迷いのない歩幅でガラス扉を開け、スイスイと通路を歩いてエスカレーターに乗った。
 ジェットはただ、そんなハインリヒの後を追いかける。
 エスカレーターを降りると、そのフロアにはソファやテーブルなどの家具が満ち溢れていた。
 けれどもハインリヒはそれに見向きもせずに、奥の方に歩いていった。
「ハインリヒ・・・?」
「着いたぞ」
 振り向いたハインリヒの表情が嬉しそうで、ジェットはドキリとした。
「いらっしゃいませ」
 にこやかに微笑みながら、女性の店員が近づいてくる。
「本日は、何かお手伝いできる事がございますか?」
 ハインリヒが何かお茶の名を告げると、店員はクスリと笑いながら答えた。
「大変申し訳ありませんが、そちらは発売日が3日後になります」
 丸くなった瞳が可愛らしい。
 そんな事を思いながら、ジェットもクスリと笑った。
 ハインリヒは、バツの悪そうな顔をしている。
「夏のダージリンが入荷していますが、いかがですか?」
 おお!ナイスフォローだな、お姉さん。
「貴女のお薦めがあれば・・・」
「ピュッタボンがお薦めです。ちょうど試飲用のものがあるんですよ。召し上がりますか?」
「いただきます」
 答えながら、ハインリヒがチラリとジェットに視線を走らせた。
「ジェット」
「何??」
「ボンヤリしてないで、お前もこっちに来い」
 それじゃあと、ハインリヒの側近くに場所を移した。
「春と夏、飲み比べが出来るようになっているんです」
 言いながら、店員はプラスチックの小さなカップを二つずつ、二人に渡した。
 色の淡い方が春、らしい。
 ハインリヒは瞳を細め、カップを鼻先に近づけた。
 どうやら、香りを楽しんでいるらしい。
「うん、夏の方が流石に香りは豊かだな。春は春独特の、爽やかさを含んだ華やかさがイイが・・・。実はオレは、夏のダージリンはパンチが効きすぎていて、少し苦手なんです」
 ジェットにはあまり香りの違いが分からない。
 店員は、ニコニコしながら、ハインリヒに勧めた。
「今年の夏のピュッタボンは、春に近い華やかさで飲みやすいんです。どうぞ、飲んでみてください」
 ハインリヒが、夏のダージリンを口に含む。
 それから、春を口にした。
「春の方が、スモーキーな感じがしませんか?」
「確かに・・・夏の方が、優しくて華やかですね・・・」
 ジェットも、両方を飲んでみた。
 美味しくはあったが、味の違いが、やっぱり良く分からない。
「コレは、本当にお薦めですっ!!」
 力説する店員に、ハインリヒは実に嬉しそうに微笑みかけた。
 それは、ジェットが惚れ惚れするような極上の笑顔だった。
「今日は、それを一ついただきます。会計をお願いできますか?」
「はい!いつもありがとうございます」



 そんな経緯でハインリヒの手元にやってきた茶葉。
 これから、淹れてくれるという。
 ・・・ジェットのために。
 あ、何かオレ、今、すっごく幸せかもvvv
 ほわほわとした気持ちで、ジェットは思った。
 ハインリヒの指先が、軽やかに動いて。
 白いティーポットやカップを温めたりしている。
 茶葉の入っている袋の封を切った時、幸せそうに瞳を細めた。
 愛おしげに、銀のドザールで茶葉を掬って、ポットの中に入れた。
 ポットにお湯を注いで・・・。
「待つ時間が、また嬉しいもんだ」
 そう言って、ひどく嬉しそうに笑うものだから。
 ジェットは腕を伸ばしてハインリヒを抱きしめて。
 幸せに笑う口唇に、キスをした。

 ・・・・・・・・・・・・。

「タイムオーバーだ」
 スイ、と、ハインリヒがジェットから離れる。
「このタイミングを逃すと、出すぎで不味くなる」
 言いながら、慣れた手つきでカップにお茶を注いだ。
 コポコポと、小気味のいい音。
 ふんわりと立ち上る湯気と共に、華やかな香りがジェットの鼻先をくすぐった。
「おお!いい香りだvvv」
「香りは、ホットで淹れた方が良いな・・・」
 ティーカップが、ジェットの目の前に出された。
「どうぞ、召し上がれ」
「・・・いただきます」
 二人でほわほわと、お茶を飲む。
「これにプラスして、美味いケーキでもあれば幸せなんだがな・・・」
 ニッと笑うハインリヒに。
「気が利かなくてゴメン。今度、買ってくるよ」
 そういうと、やっぱり笑いながら首を振った。
「すまん、冗談だ。美味いお茶の一杯で、オレは十分幸せだ」
 その笑顔に、癒される。
「ホントに買ってくるよ。そしたらまた、美味しい紅茶を淹れてくれる?」

 ・・・オレのために。

「どうせ、忘れるだろ?期待しないで待ってるよ」
 上機嫌に笑いながら。
 ハインリヒは身を乗り出して。
 紅茶の味と香りがするキスを、ジェットに与えてくれた。


〜 END 〜



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お紅茶24〜!!!書きたかったんだ(笑)!!
相変わらずバカップルでスミマセン。
読んでくださった皆様が、少しでもバカップルに癒されていただければ。
先日、メールで温かなお気遣いのお言葉を下さった、某様へ。
よろしければ管理人の感謝の気持ちごとお受け取り下さい。







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