ティータイムをあなたと2
近所のスーパーでの買い物の折。
ふと、ティーパック入りの紅茶の箱が目に止まった。
値段も、なかなかお安い。
そういえば、ハインリヒが紅茶好きだったよなぁ・・・。
なんてコトを思い出し、思わず手にとってレジに持っていってしまった。
そんなこんなで、現在、ジェットの目の前には、ティーパック紅茶の箱がある。
よし!淹れるぞ!!
と気合を入れ、まずはヤカンでお湯を沸かしてみた。
適当なマグカップを出してきて、パックを一個、投入する。
お湯を注いで、箱に書かれた時間を待って。
カップからパックを取り出し、一口、すすってみる。
「・・・なんか、味が違う・・・」
うう〜ん、と、ジェットは眉をしかめた。
ハインリヒが淹れてくれたお茶は、もっと美味しかった。
「や、安かったから・・・かな??」
ハインリヒがギルモア邸で淹れてくれたお茶を思い出す。
「って、ハインリヒが淹れてくれたのって、葉っぱじゃん!!」
まず第一に、そこが間違っていたのだと、ジェットはガックリと肩を落とした。
葉っぱを入手した経緯も思い出してみる。
「あー、何か、専門店っぽいトコに行ってたよな・・・。値段もそれなりというか、高かったような・・・」
オレ、全然ダメじゃん・・・!!
そう思うと、何だか少し悔しくなった。
「よーし!今度ハインリヒと会うまでに、絶対に美味いお茶を淹れられるようになってみせる!そしてハインリヒをギャフンといわせるぞ!!」
美味しいお茶を淹れられるようになれば、ハインリヒはギャフンなどいわずに大喜びするはずだが、ジェットは何故かギャフンといわせるつもりで、ちょっと真面目に紅茶を淹れる訓練をすることにした。
とりあえず、ジェットの紅茶道は、茶葉(ジェット曰く葉っぱ)を購入する事から始まった。
パックを購入した近所のスーパーでは葉っぱは置いておらず、ジェットは一人、途方に暮れた。
専門店なんて、分からない!!
ギルモア邸に帰って、フランから淹れ方を教わろうかな・・・。
などいう反則技を発動させ、ジェットは日本へと飛んだ。
そして、ギルモア邸で数日・・・。
フランソワーズの厳しい(?)指導の下、紅茶を淹れる特訓をしたジェットはハインリヒを待っている。
玄関のドアが開き、
「ただいま・・・」
耳に心地好い声が聞こえてきた。
「ハインリヒ・・・!!お帰り、元気だった?」
玄関まで出迎えて、荷物を持ってやり、部屋に運んで。
ニッコリと微笑みながら、ジェットは言った。
「疲れたろ?キミの好きな紅茶を淹れるよ」
淡いブルーの瞳が、丸くなる。
「お前が?」
「そう、オレがv」
胸を張って答えると、
「そうか・・・楽しみだな」
ハインリヒがゆっくりと笑んだ。
荷物を置いて、少し落ち着いてから、二人でリビングへ。
「しかし、お前は一体なんだって、紅茶を淹れられるようになろうなんて思ったんだ?」
「キミが好きだったな、って思って、ティーパックのお茶を買って飲んだんだけど、キミの味と全然違ってさ。なんか、ガッカリしちゃったワケだ。で、ちょっと美味しい紅茶の淹れ方に目覚めてみたわけ」
「そうか・・・」
ハインリヒの視線が、ジェットの手元に向いた。
「そうだ、何飲みたい?フランに付き合ってもらって、キミの好きそうなの、いくつか選んできたよ」
紅茶の缶を、いくつかテーブルに並べる。
オーソドックスなものからフレーバーティーまで。
「美味い紅茶を淹れてくれるというなら、オーソドックスだな・・・。そろそろ、秋のダージリンが出てるんじゃないのか?」
「オーケイ。お任せv」
淀みない手付きで、ジェットはカポンとお茶の缶を開けた。
以前、ハインリヒが夏のダージリンを淹れてくれた時、缶の中のお茶の袋を開けて、とても嬉しそうな顔をしていた。
その気持ちが、今なら少しは分かる。
封を切ると、新鮮なお茶の香り。
ジェットは微かに、長い鼻をうごめかせた。
「いい香りだ・・・。ジェット、お前、なかなかいい趣味してるぞ」
ハインリヒの言葉に、ジェットは破顔して。
温めたポットに、茶葉を投入した。
テーブルの上、頬杖をついて。
ハインリヒがじっと、ジェットが茶を淹れる様を見つめている。
いささか緊張しながら、ポットにお湯を注いだ。
蒸らしは指定された時間通りにキッチリと。
その間に、カップを温めたり。
やがて、ジェットが手にしたポットから、白いカップへと淹れたての紅茶が注がれた。
カップの中で、琥珀色の液体がゆらりと揺れた。
「どうぞ、ハインリヒ」
ソーサーごとスッと差し出すと、ハインリヒがゆっくりとカップの取っ手を持った。
キレイな持ち方をするよなぁ・・・。
と、ジェットはポーッとしながらその様を眺めた。
ゆっくりと、ハインリヒがカップを口元に近づける。
瞳が細まり、その頬が緩む。
「いい香りだ・・・」
カップに口をつけて、お茶を一口。
ドキドキしながら、ジェットはハインリヒの言葉を待った。
カタリと、ソーサーにカップが戻される。
「ありがとう、ジェット。お前が淹れてくれた紅茶、とても美味しい」
その言葉と満面の笑みは、ジェットへの最高のご褒美だった。
「オレさ、美味しい紅茶を飲んでる時の、キミの笑顔が好きなんだ。だから、美味しいって言ってもらえて嬉しい」
「そうか・・・」
優しくジェットを見つめ、ハインリヒが笑う。
「明日はさ、ケーキを買いに行こう。それで、さ」
「ん?何だ・・・?」
「今度はキミが、オレのためにお茶を淹れてくれる?キミのお茶が飲みたいな〜、なんて・・・」
「喜んで・・・!」
ああ、なんて極上の笑顔。
ほわほわ〜、と、リビングが幸せ色に彩られた。
ニコニコと笑いながら。
ジェットは自分のカップを取って、お茶を楽しんだ。
二人の笑顔に加えて、お茶の香もほわほわと、リビングに優しく漂った。
〜 END 〜
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
お紅茶24を先日書いたところ、とあるフロイラインから、
「ジェットが紅茶道を歩み、淹れる練習」のネタを頂戴しました。
書かせてください〜!!とお願いして、今回書かせていただきましたvvv
ありがとうございます!!
ちょっとギャグっぽくなってしまいましたが、
お気に召していただけるような出来になっていればと思います。
ブラウザを閉じてお戻りください