白の吐息
ハインリヒの買い物に無理やり付き合わせてもらった帰り道。 街のざわめきは、今は遠い。 天気予報は雪だった今日は、かなりの寒さで。 日も暮れて暗くなった空を、灰色の分厚い雲が覆っている。 ぽつりぽつりと点在している街頭の灯りが、黒い地面に二人の影をぼんやりと浮かび上がらせていた。 「寒いな」 言いながら、ジェットは隣を歩くハインリヒに視線を向けた。 吐き出された息は、白く凍る。 コートのポケットに突っ込まれた両手。 左の脇下には、お目当てだった本が入っている紙袋。 「そうだな」 短く、ハインリヒが答えた。 「本当に寒い。早く帰ろう」 震える素振を見せて、肩をすくめたジェットの視線の先を。 ひらり、と白いモノがよぎった。 「あれ・・・?」 ひらり、ひらり。 「ハインリヒ、雪だよ!予報、当たったな」 透き通った青い瞳が、空を見上げた。 そして、コートのポケットから出された右手が、宙に差し伸べられた。 差し伸べられた白い手のひらに、ふわりと舞い降りた雪は。 ほんの僅かに、その形を崩しただけで溶けていきはしない。 その様を見て、ハインリヒは片頬を歪めて笑い、肩を竦めた。 ひらひら、ひらひら。 白い雪が同じように白い手のひらを彩っていく。 表情を消してその様子を眺めているハインリヒが、今にも泣き出しそうな気がして。 「・・・ハインリヒ!」 名前を呼んで、冷たい右の手を両手で囲うようにして。 ジェットはフウと、そこに息を吹きかけた。 白い粉雪が、見る間に解けて、水滴に姿を変える。 「大丈夫」 ぎゅ、とハインリヒの手を両手で包み込んだ。 自分の体温が、ハインリヒに伝わるように。 「大丈夫、キミが寒い時は、オレが暖めるから」 ほら、と、ハインリヒの手を離して。 ひらりひらり、と舞い落ちてくる雪。 白い手のひらの上で、じわじわと溶けていった。 「ほら、大丈夫だろ?」 「・・・バカ」 ボソリと呟かれた言葉。 言っていることはひどいが、口調に優しさが詰まっているから。 ジェットはニコニコと笑った。 「傘、フランに持たせてもらっといて、よかったな」 今日は雪の予報だから持って行きなさい、と、しっかり者のフランソワーズから一本、持たされていた傘。 ジェットは大きく、傘を開いた。 「傘は一本しかないし、相合傘しよう。ホラvvv」 「・・・お前、本当にバカだな」 「ん〜?そう??」 傘に入ろうとして、ハインリヒがジェットの方に身体の向きを変えた。 薄暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がっている雪が。 急に動いたコードの裾が巻き起こした風の動きで、ふわっと舞い上がって、それからまた、地面に落ちていった。 淡いブルーの傘の下、仲良く二人で並んで。 「本当に寒いな。早く帰って、フランに熱いお茶を淹れてもらおう」 やっぱり、息が白く凍る寒い夕刻。 二人で入るには、少し小さな傘。 ひらひら、ひらり。 「家に、帰ろう」 腰を抱くようにしながら、そう促して。 急ぎ足で、家路を辿る。 ひらり、ひらり。 舞い落ちてくる雪が、傘から僅かにはみ出た、ハインリヒの黒いコートの肩口を白く染めてしまう前に・・・。 〜 END 〜 |
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サイゼロリクのうちのひとつ、冬の24、でございます。
ちゃんと、冬らしさが出たかちょっと不安です。
短くて申し訳ありませんが、書きたいことは全て詰め込んだつもりです。
自分の芸風がいい意味でも悪い意味でも出ている作品かな、と。
リクを下さったフロイラインとお読みくださった皆様に、
少しでもお気に召していただけたのなら幸いです。
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