青い空の下で





「アルベルト・・・!!」
 名前を呼ばれ、読んでいた本から顔を上げる。
 パタパタと軽やかに自分に向かって走ってくる女性の姿に、ハインリヒは瞳を細めた。
 華奢な身体が、ポスンと腕の中に飛び込んできて。
 彼女の瞳が、ハインリヒを見つめた。
「ごめんなさい。待たせてしまった・・・?」
「・・・いや。オレも今来たばかりだ」
 腕の中の身体を、キュッと抱きしめた。



 ハインリヒは、心の中で、ある決意を固めていた。
 そして、この女性に対して、それを何時言い出そうかと悩んでいた。
 自分が持ち出そうとしているのは、とても、危険な賭け。
 彼女が同意してくれるのかも分からなかったけれども。
「ねえ、アルベルト。今日はいいお天気ね。アナタの瞳に空の蒼が映って、とてもキレイ」
 ハインリヒを見上げて、彼女が笑う。
「ヒルダ・・・」
 呼びかけると、優しい瞳がハインリヒの目を覗き込んだ。
「・・・ねえ、アルベルト。近頃、ずっと何かを考え込んでいるのね。私には言えないことなの??」
 白く優しい手の平が、ハインリヒの頬にそっと触れた。
 その優しい手に力を与えられ、ハインリヒは口を開いた。
「ヒルダ。オレはずっと、考えていた」
「何を?」
 注意深く辺りに人影の無い事を確認し、ハインリヒはヒルダの耳元に囁くようにして告げた。
「西へ、行こう。オレと一緒に、自由の国に・・・」
「決めたのね?」
「正直、成功するか分からない。けれども、キミが同意してくれるのなら・・・。きっと、成功させてみせる・・・!」
「アナタがそう決めたのなら、私は付いて行くわ」
 なんの躊躇いもなく、ヒルダはサラリとそう言った。
 そして、朗らかに笑った。
「信じよ。されば救われる・・・」
 悪戯っぽく小首を傾げ、ヒルダは歌うように言葉を紡ぎだす。
「でも、信じているのは神様ではないの。私が信じているのはね、アナタよ、アルベルト」
 神でも何でもなく、自分を信じていると言ってくれるこの女性に。
 いつでも、力を与えてもらっている。
「それじゃあオレは、キミが信じてくれているオレ自身を信じることにしよう」
「あら、それはいい考えね」
 胸のつかえが取れたような気持ちになり、ハインリヒも笑った。
「ありがとう、ヒルダ・・・」
 頭上に広がる青空。
 美しいその空を見上げ、ヒルダが呟いた。
「アルベルト。私、幸せよ。こんなに素敵なお天気で、隣にアナタがいてくれて。本当に、幸せ・・・」
 ハインリヒもまた、空を見上げる。
「本当に、いい天気だ・・・」
 青い空の中を羽ばたく鳥の姿が、二人の視線の中に入った。

 空を自由に羽ばたくこの鳥のように。
 キミを連れて、自由の世界へ・・・。
 キミを連れて・・・。

「ヒルダ・・・。愛してる・・・」
「アルベルトったら、何を突然・・・」
「愛してる・・・」
 くすぐったそうに、ヒルダは笑い。
 そして、笑みを絶やさぬまま、口を開いた。
「私も愛しているわ・・・」
 そして、ヒルダは少しだけ背伸びをした。
 柔らかな口唇が、ハインリヒのそれに重なり。
 そして、離れていった。
「愛してるわ、アルベルト。アナタの幸せが私の幸せよ。覚えていてね・・・?」
「それを言うなら、キミの幸せがオレの幸せだ・・・」
 ハインリヒが答え。
 二人、顔を見合わせて笑った。



 そのまま、二人で歩幅を並べて歩く。
 ただ、一緒に歩いている。
 それだけだけれど。
 二人は今、確かに幸せで。
 お互いに優しい気持ちで。
 一緒に、歩いた。



   〜 END 〜

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

47655ヒットを踏でくれた相方の田中一さんからの申請で、
お題は「ジェットのいないアルヒル」でした。
サイゼロではフォモばかり書いているので、難しいお題でした・・・。
幸せな二人を目指して・・・!
サイトアップ可という許しをもらいましたので、
こちらでアップさせていただきました。
一さん、いつもいつも本当にありがとうございます。
愛してます(いや、本当に)。
これからもどうぞよろしくお願いいたします〜。





ブラウザを閉じてお戻りください