限りなく透明に近いブルー
【1】




 その日、アルベルト・ハインリヒは、仕事でトラックを走らせていた。
 やって来てまだ日が浅い、その街で。
 街の地図に視線を走らせ、ハインリヒはトラックが行き着く先を確認した。
 仕事仲間から聞いた話によると、今日の仕事先は、かなりの大邸宅らしい。
 目的地に向かってトラックを走らせ続けると、大きな門構えの立派な邸宅が目に飛び込んできた。
「アレか・・・」
 誰に言うでもなく、一人呟いて。
 ハインリヒは、その門の前にトラックを止めた。
 豪邸の窓から人の頭が覗き、物色するようにハインリヒを眺めた。
 それからその人物は、軽く口笛を吹いたが。
 その音は、ハインリヒの耳には届くことはなかった。



 その日の無事に仕事を終え、ハインリヒは自宅に戻ってくる。
 住み始めたばかりのその部屋は、日当たりの良い部屋だった。
 太陽の日差しが部屋を暖かくしてくれて、戻ってくるとポカポカとしている。
「ふう・・・」
 ハインリヒは、小さくため息をついた。
 その瞳に、小さな影が宿ったが。
 ハインリヒはブルブルと首を振り、ベッドにポスンと身体を沈めて目を閉じた。
 一日の疲れが功を奏して、心地よい眠気が、ハインリヒを優しく包んでくれる。

 ピンポン。
 玄関のベルが鳴る。
 その音が鬱陶しくて、無視していると。
 ピンポン。ピンポン。
 諦め悪く、ベルが立て続けに音を立てた。
 何度もベルが鳴るのに根負けして、
「はい・・・?」
 いささか乱暴にドアを開けると、ハインリヒの目の前に、一人の男が姿を現した。
 どことなく軽薄そうな雰囲気を漂わせ。
 夕焼け色に近い茶の髪と、琥珀色の瞳を持ったその男は、ハインリヒにニコリと笑いかけたが。
 ハインリヒは、その笑顔を何故か不快に思った。
 男の第一声は。
「キミ、今日オレの家に荷物届けに来たろ?」
 だった。
「はぁ?」
「オレは、リンク家の一人息子。ジェットっていうんだ」
 そう言って、男はニヤリと笑った。
 リンク家・・・。あの大邸宅は、リンクというファミリーネームの家だった。
 そこのお坊ちゃまと言うわけか・・・。
 それが一体・・・。
「何の用だ?」
 用がないなら帰れと言わんばかりのハインリヒの目の前に差し出されたものは。
「忘れ物。届けに来た」
 白い、手袋だった。
 ハインリヒが運転する時に着用している手袋だ。
 どこかで無くしていたことに気付いたが、さして気にせずにいたその手袋。
 それをわざわざ持って来てくれた男・・・ジェットと名乗った・・・の好意に対して、ハインリヒは笑顔で答えた。
 思ったより、悪いヤツではなさそうだな・・・。
 そんな事を考えながら。
「・・・わざわざ、ありがとう・・・」
 素直に有り難いと思って、礼を述べると。
 その頬に笑みを浮かべたまま、ジェットが口を開いた。
「感謝の言葉なんて要らないんだ」
 彼は、微笑んでいるのに。
 やっぱり、嫌な気がする。
 背筋が薄ら寒くなるような、そんな気が。
「感謝の気持ちは、身体で示して欲しいんだけど?」
 それは、どういう意味だ・・・?
 口を開こうとしたが、言葉が出てこない。
 ハインリヒの目の前で、やっぱりニコニコと笑いながら。
「抱かせろよ。キミが、好きなんだ」
 ジェットが続けて発した言葉に、ハインリヒは頭を激しく殴られたような気持ちになった。
「オレ、キミをホントに気に入っちゃってさ。髪とか瞳とか、すっげーキレイだし。抱き心地良さそうだし」
「・・・断る・・・」
 声を絞り出すようにして、ハインリヒは答えた。
 しかし、ジェットは屈託なく笑い続ける。
「ふーん。そう。あ、タダじゃイヤってコトか?じゃあ、幾ら出せばオレに抱かれる??」
 人の心を踏みにじるようなその言葉にカッときて、急に周りが見えなくなる。
「ふざけるなっ!!」
 気がつくと、その横っ面をひっぱたいていた。
 赤くなった頬を長い指で撫でながら、ジェットは笑う。
 しかし瞳は全く笑っていない。
 背筋が、ざわついた。
「そんなに照れなくてもいいんだぜ?キッチリ気持ち良くしてやるよ・・・」
 自分に向かって伸ばされた手を、ハインリヒは思いっきり振り払った。
「触るなっ!」
 言いながら、ジェットの身体を玄関先から押し出した。
「手袋を届けてくれたことには礼を言う。だが、お前のようなヤツはまっぴらゴメンだ!二度とオレの目の前に現れるなよ!!」
「それは無理な話だな」
「黙れっ!そしてとっとと出て行け!!」
 その鼻先で玄関のドアを閉める瞬間。
 ハインリヒは、見たくもないものを見てしまった。
「絶対に、キミを抱くから」
 そう言って笑った、彼の一見穏やかな、けれどもほんの少し狂気を秘めたような瞳を。
 玄関のドアにもたれかかり、ハインリヒはズルズルとその場に崩れ落ちた。
「何なんだ、アイツは・・・」
 初対面の人間に向かって、『抱かせろ』だと?
 ああいう輩とはもう二度と顔を会わせたくないと強く思いながらハインリヒはベッドに横になったが、全く寝付くことが出来なかった。
 バカにしている。
 ゴロゴロと寝返りを打ちながら、ハインリヒはキュッと唇を噛みしめた。




〜 To be Continued 〜





H様、リクありがとうございましたv
出だしから、ちょっと凄い事になっているのですが、
こんな感じの話の始まりでOKですか!?
ジェットが私のイメージする黒島村さんのような人になっております(汗)。
金持ちジェットと聞いて、
『ロクデナシの放蕩息子』というイメージが浮かんでしまったので、
こんなジェットでスミマセン。
男も女も、金の力で思いのまま。
という感じで、欲しいモノは何でも手に入れてきたんで、
初めて拒絶されてプライド傷つけられちゃったりして。
一応、ハインリヒと触れ合っていくうちに、オトナの男になっていきますんで、なにとぞ。
一応プロットはあるのですが、これから続けていけるのかな・・・(笑)。
企画倒れになったらスミマセンっ!と、今から謝っておきますネ・・・。





HOME   創作部屋