限りなく透明に近いブルー
【2】
結局、その夜は不愉快な気持ちを抱えたまま、ほとんど眠ることができなかった。
カーテンの隙間から明るい朝の日差しが差し込んでくる。
いつもなら、天気が良いと少し気分が浮き立つような気がするが、この朝は全く、そんな気分にはなれなかった。
なんでこんなに苛立つのだろうかと考えたが、ますます気持ちが乱れる一方だ。
ノロノロとベッドから降り、冷たい水で顔を洗った。
そして、ホッと息をつく。
少し、頭がスッキリしたような気がしたのだ。
寝不足であろうがなんだろうが、とにかく仕事に行かなければならない。
ハインリヒは軽い朝食を済ませ、アパートを出た。
すると。
どこからともなく黒塗りの車が現れ、スーっとハインリヒの横に止まった。
車のドアが開き、中から、車と同じく黒いスーツ姿の男が出て来る。
「アルベルト・ハインリヒ様ですね?お迎えに上がりました」
ハインリヒは眉を顰めた。
「オレは、迎えに来てもらうような覚えは全くないが?それに、これから仕事なんでな」
そう言って、男を無視して立ち去ろうとすると、穏やかな声が背中を追ってきた。
「ご心配なく。本日は、休暇扱いとなっております」
「なっ・・・・・・!?」
驚き、振り返るハインリヒに、男はニッコリと笑いかけながら続けた。
「もちろん、有給休暇となっておりますので、ご安心ください」
「オレは、そんなコトを言いたいんじゃない!」
ハインリヒはカッとして、男を怒鳴りつけた。
しかし、男は平然とした顔で、ハインリヒに尋ねた。
「では何を?」
「勝手に人の予定を決めるのはやめてもらおうか!!」
頬に笑顔を絶やさぬまま、男は言う。
「ジェット様のご命令ですので、悪しからず」
そして、車に向かって声をかけた。
「ハインリヒ様をお連れしろ」
ジェットだと!?
ハインリヒの脳裏に、昨日の不愉快な青年の姿が浮かんだ。
野郎、あれだけ言ったのに、まだ諦めてないのか・・・!?
車の中から、体格の良い大男が出てきて、ハインリヒの腕を掴んだ。
「放せっ!!」
「やれやれ、聞かないお方だ」
肩を竦めながら、細い方の男が告げる。
「もう一度、申し上げます。ジェット様の命令は、絶対です」
薄い笑いと。
不愉快な言葉。
『抱かせろよ』
嫌悪感で、背筋がゾッとした。
「ふざけるな!誰があんなロクデナシの言いなりになるか!!」
抵抗したが、大男の力には敵わず。
車の中に、押し込まれそうになってしまう。
「放せと言っているだろうがっ!!」
その時。
「やめろ!!」
毅然とした声が、あたりに響いた。
男達が、声の主を振り返る。
「嫌がっているじゃないか!」
ハインリヒもまた、その人物に向かって視線を投げかけた。
視線の先には。
栗色の神の青年が立っていた。
「その人から、手を放せ!!」
細身の男が、小さく舌打ちをした。
「仕方ないな・・・。ジェロニモ、いったん、引き上げだ!」
「・・・分かった」
コクリと大男は頷き、ハインリヒから手を放した。
そして男二人は素早く車に乗り込み、その場を立ち去った。
大男から手を離されたことにより急に身体の自由が利くようになった。
安堵したハインリヒは、ヘタヘタとその場に座り込んだ。
「大丈夫!?」
慌てて駆け寄ってくる青年に、ハインリヒは力なく笑いかけた。
「ああ、助かったよ・・・」
ハインリヒに手を差し伸べながら、青年はひどくサワヤカに自己紹介をした。
「ボクは島村ジョー。キミは?」
琥珀色の瞳が、苛立ちの色を含んで、二人の男を一瞥した。
「何だと?もう一度言ってみろ」
「アルベルト・ハインリヒ様をお連れ出来ませんでした」
細身の男の方が、悪びれる様子もなく答える。
「グレート。お前とジェロニモ、二人がかりで男一人連れて来られないとは、どういうワケだ?」
「島村様の邪魔が入りまして」
グレートと呼ばれた細身の男がサラリと答えると。
ジェットは不愉快そうに顔を顰めた。
「ジョーの野郎、一体何を考えてやがる?」
「それは、何とも・・・」
小さく舌打ちした後、ジェットはグレートとジェロニモに向かって、手を振って見せた。
「ジョーの邪魔が入ったんじゃ仕方ない。今日はもういい。下がれ」
「失礼します」
ジェットは自分のターゲットであるアルベルト・ハインリヒに思いを馳せた。
これほど欲しいと思うモノに出会ったのは、初めてだった。
今までの人生の中で。
望んで手に入れられないものはなかった。
物はもちろん。
男も女も。
何もかもを思いのままにして。
ジェットは、ハインリヒに叩かれた左の頬をそっと押さえた。
赤みはとうに引いていたが。
叩かれた場所がまだ、ひりひりと痛むような気がした。
「オレは、アイツが欲しい」
生まれて初めて、ジェットに手を上げた人物だった。
そして、思いのままに出来なかった人物。
そのことにひどく苛立ちを感じるが、心の奥底で、他にもワケの分からない感情が渦巻いているような気がした。
「絶対に、手に入れてやる。・・・どんな邪魔が入ったとしても、だ」
手に入れて、抱いて。
跪かせてやる。
「オレに逆らったことを、後悔させてやるさ」
どす黒い感情の流れるままに。
ジェットは一人、虚空に呟いた。
〜 To be Continued 〜
待ってくださっている方がいらっしゃるかは謎ですが、
24パラレルの続きをようやくアップ。
念願の黒島村様を登場させることが出来て、幸せ〜vvv
島村様はジェットと敵対している仲です。
あとはイワソ!!
イワソを何処かで出さないと〜vvv
と、やりたい放題やろうとしておりますよ、この人・・・。
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