限りなく透明に近いブルー
【3】




 差し伸べられた手を取り、ひどく安堵している自分に気付く。
「オレは・・・アルベルト・ハインリヒ」
 向こうが名乗ったのだからと思い、自身の名を告げると、
「素敵な名前だね」
 そう言って、青年はニッコリと微笑んだ。
「助けてくれて、本当にありがとう。自分でも何が何だか分からなくてな・・・」
 ハインリヒの言葉に、ジョーと名乗った青年は不愉快そうに眉根を寄せた。
「彼ら、本当に性質が悪いったら・・・」
「あいつ等の事、知っているのか?」
「知ってるも何も。ジェットのコトなら、子供の頃から知ってるよ。あまり仲は良くないけれどね。キミを連れ去ろうとした彼らはジェットのお付きの面々さ」
「ジェット・・・。アイツは一体、何なんだ!?」
 苛立ちを込めてハインリヒが呟くと、ジョーはふうと溜め息を吐いた。
「ここら辺一体を仕切ってる・・・って言えばいいのかな?ま、早い話が、金にモノを言わせて好き放題してるってコトさ。キミ、目を付けられちゃったんだねぇ。可哀想に・・・。ジェットはしつこいよ?」
「そんなコト、知っている・・・!今日の出来事を考えれば、容易に判断が付くが・・・。オレは一体、どうしたらいいんだ・・・?」
 更にイライラと、ハインリヒは舌打ちした。
 相手は勝手に、自分の仕事場にまで、土足で足を踏み込んでくる。
 逃げられないのか??
 弱々しく、ハインリヒは考えた。
 けれども、力尽くの相手には決して屈したくなかった。
「ねえ、ハインリヒ?」
 名前を呼ばれ、ハインリヒはハッと、ジョーを振り仰いだ。
「済まない。少し考え事を・・・」
「ボクと、友達になってくれない?」
 突然の言葉に、ハインリヒの目が点になった。
「はあ・・・?」
「こういっちゃ何だけど、ボクの家もジェットの家と同様にお金を持っていてね。周りに集まってくる人間は、お金目当ての奴等ばっかりさ。もう、うんざりしている所」
 ジョーはハインリヒを見つめて、ニコリと笑った。
「でも、キミはとってもキレイな人だ。ここで出会ったのも何かの縁だし、ねえ、友達になろう??」
「オレがキレイ・・・?とてもそうは思えんが・・・」
「それはキミが自分を知らないだけ。キミの心は、とてもキレイだよ。ね、お願い・・・?」
 ハインリヒは小さく息を吐いた。
 まだこの国に住み始めたばかりのハインリヒには、友人という存在がほとんどなかった。
(年下の友人を持つのもいいかな・・・)
 そう考え、ハインリヒはジョーに向かって笑いかけた。
「お前さんがそう言ってくれるのなら・・・。こんなオレで良ければ、友人になろう」
「うわぁ、本当に!?嬉しいな、ありがとう!!」
 ハインリヒの手を握りしめ、ジョーが心底嬉しそうな笑みを見せる。
 その笑顔に、ハインリヒも何だか少し、嬉しい気持ちになった。
「今日はどうせ、仕事はお休みでしょ?友人になれた記念に、これからボクと出掛けようよv」
「・・・何処に?」
「ふふっ。それはナイショだよv」




 乗せられたジョーの車は、赤いスポーツカーだった。
「お前さん、車に乗るのか?」
「だってもう、18過ぎてるもん」
「それにしても・・・」
 18歳位の青年が乗るにしては、高級な車だった。
「あ、ボクね、こう見えてもレーサーだから。ちゃーんと自分で稼いで買ってる車だから、安心してね」
 ハインリヒの心の中を見透かすようにそう言って、ジョーは笑った。
 そんな会話を交わしている間に、車は目的地へと近付いているようだった。
「はい、到着〜!!」
 車から降りたジョーが、ハインリヒのためにドアを開けてくれた。
 外に出て、ハインリヒはギョッとした。
 目の前にある、その邸宅は・・・。
「ジョー!!」
「正解vジェットの家で〜す」
「お前さん、どういうつもりだ!?」
 詰め寄るハインリヒに、ジョーはサワヤカな微笑を返した。
「これは、キミのためなんだよ、ハインリヒ」
「オレのため・・・?」
「ボクとジェットは、子供の頃からの知り合いだって言ったでしょ?キミをボクの友人だと言って牽制しておけば、ジェットもキミに対して無理できないと思うけど?そう思わない??」

 若者の思考回路は、良く分からん・・・。

 それは、ハインリヒの正直な感想だった。
「そ、そういうものか?」
「そういうものなの!」
 キッパリと言い切られ、ハインリヒはジョーに腕を掴まれた。
 ジョーは当たり前のような顔をして、正門のベルを鳴らした。
「どちら様でしょうか?」
「島村です。ジェットに会いたいんだけれど・・・?」
「・・・どうぞお入り下さい」
 音も立てずに、正門が開く。
「さ、行くよ、ハインリヒ!!」
「オレはアイツにはもう二度と会いたくないんだ・・・!」
「ワガママ言わないの!」
 ズルズルとジョーに引きずられるようにして、ハインリヒは大邸宅の中に足を踏み入れた。


「で、ジョー。オレに何の用だ?」
 ジェットの冷ややかな視線に少しも動じず、ジョーはハインリヒをジェットの前に差し出した。
「紹介するよ。ボクの新しい友人、アルベルト・ハインリヒだ」
 食い入るように見つめられたが。
 ハインリヒはその強い視線に耐え切れず、ジェットから顔を背けた。
「てめーがオレに友人の紹介とは、珍しいじゃないか?しかもソイツは、オレが最初に目を付けた男だぞ?」
「イイかい、ジェット。よーく言っておくけれどね。彼はボクの大切な友人だ。今朝みたいなことがあったら、ボクが承知しないよ?」
「あぁ?んなコト、オレの勝手だろうが??」
 不機嫌のオーラを撒き散らしているようなジェットに向かっても、ジョーはニッコリと笑いかける。
 しかし、その笑みはどこか迫力のあるもので。
「彼はボクの友人なんだから、キミの勝手にはさせない、ってコトだよ。よく覚えておいて」
「・・・忘れたな・・・」
「・・・いい度胸だね、ジェット。キミがその気なら、ボクは受けて立つからね?」
 笑顔のままそう言い放ち、ジョーはハインリヒの腕を取った。
「ゴメンね、ハインリヒ。嫌な気分にさせたよね?でも、言うべき事はキッチリ言ったし、キミはもう、安心して大丈夫だよ。ボクが付いてる」
 ハインリヒに向けられている笑顔は、本当の笑顔で。
 少しだけ、ホッとする。
「さ、帰ろう」
 そしてジョーは、ジェットに別れを告げた。
「じゃあね、ジェット」
「もう二度と来るんじゃねえぞ・・・!」
「言われなくてもそのつもり」
 部屋から出て行き際、ジョーはさり気なくハインリヒの肩に手をかけ、ジェットを振り向いた。
 ニヤリ、と人の悪い笑みがその頬に浮かぶが、ハインリヒはそれに気付かない。
「チッ・・・!!」
 ジェットが強く、舌打ちをする音。
 その音に、ハインリヒはビクリと肩を震わせた。



〜 To be Continued 〜





ようやく続きを書いたと思ったら、全然24じゃありませんでした(笑)。
94になりつつありますよ(爆)。
ジョーはハインリヒを取り込むことに成功。
ジェットよりう〜んと要領がいいですね〜。
これからどうなるのかしら・・・?
って、考えろや自分!!





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