限りなく透明に近いブルー
【6】




 ジェットはイライラと、自室を徘徊した。
 自分が見たことの無い、優しい笑顔が脳裏に焼きついて離れない。
「くそ・・・!」
 手近にあったランプを引っ掴んで、投げ付けようとした時。
 クスクスという笑い声が頭の中に飛び込んできた。
「何ヲいらいらシテイルノサ?」
 ポン!と軽快な音がして、目の前に一人の赤ん坊が現れる。
 ふわふわと、宙に浮かびながら。
「うるさいぞ、イワン!」
 イワンは、父のシュヴァルツがいつの間にか連れて来て、側に置いている赤ん坊だ。
 子供として可愛がられているとかいう訳ではなく、歴とした仕事のパートナーらしい。
 この赤ん坊は俗に言う超能力者なのだ。
 信じ難いことだが、こうして実際に目の前に浮かばれたり、頭の中に話し掛けられたりしてしまっては信じるより他はない。
 そして性質の悪いことに、この赤ん坊はジェットをからかうのがお気に召しているようで。
 時折、ジェットの前に突然現れては、こましゃくれた事を言って、クスクスと笑うのである。
 しかし、ジェットはどうしてか、イワンとの会話は嫌いではなかった。
 その口調に、父からは決して与えられることのなかった愛情と親しみとを感じ取ることができるからかも知れない。
「何ヲかりかりシテイルノサ、じぇっとオ兄さま?」
 お兄さまと敬称(?)を付けながらも、イワンにジェットを敬う気持ちなど微塵もないことは分かっていて。
 ジェットは思わず、笑ってしまった。
「最近、ゴ執心ノ人ガイルミタイジャナイ。ぐれーとガ良イ傾向ダト喜ンデタヨ」
 長い前髪に隠れた瞳が、キラーンと輝いた。
「デ?ドンナ人?」
「お前には関係ないだろうが?」
「関係アルヨ〜。大好キナじぇっとガ気ニナル人ナンダモンvぼくダッテ気ニナルヨvvv」
「はいはい、左様ですか・・・」
 脱力しながらジェットが呟くと、どこか嬉しそうなイワンの声。
「教エテクレナイナラ、直接きみノ頭ノ中ヲ覗カセテモラウケド??」
「うわ〜!それはやめろって!!」
「ジャア、教エテヨv」
 完全に遊ばれている・・・。
 そう思いながら、ジェットは小声で呟いた。
「・・・態度のムカつくヤツだよ。いつか絶対にオレの前に跪かせて、オレに対してのその態度を後悔させてやる・・・!」
 クスリ。
 やっぱり、イワンが笑う。
「何で笑うんだよ?」
「きみ、ソノ人ノこと、好キナンデショ?」
「はあ!?バカなコト言うなよ!」
 笑いを含んだ声で、イワンが続ける。
「チョット覗カセテモラッタケド、きみノ行動、小学生ガ好キナ子ヲ苛メテルミタイダヨ?」
「ムカつくから、どうにかしてやりたいだけだろ!?つか、勝手に人の頭の中を覗くな!!」
「気付イテナイノガ、マタ笑エルネvでも、いいジャナイ。きれいデ優シソウナ人ダシ。ぼくハ応援スルヨ!!」
「だから、違うって言ってるだろうが!?」
 ジェットの言葉を軽く聞き流し、イワンは再度、瞳をキラーンと光らせた。
「素直ジャナイきみノタメニ、今、ソノ彼ガ何ヲシテイルカ見セテアゲヨウv」
「必要ない!!」
「マアマア、遠慮シナイデ」
 イワンの瞳の輝きが増し、部屋の壁に、ぼんやりと映像が浮かび上がった。
 映し出されたのは、ハインリヒの姿だけでなく。
 ジェットの眉が、ピクリと跳ね上がった。
 声は、聞こえない。
 ベッドの上、ハインリヒは身体を起こしている。
 覆いかぶさるようにして、ジョーの姿があった。
 その姿はキスをしているようにも見え、ジェットの目付きは険しくなった。
「オヤオヤ。悪イ場面ヲ出シチャッタミタイダネ」
 全く、悪びれないイワンの声。
 キッと宙に浮かぶ赤ん坊を睨み付けた後、ジェットは踵を返した。
「じぇっと、ドコニ行クノ?」
「決まってるだろうが」
「むかツク人ニ、ワザワザ会イニ行ッテ、ドウスルノ?」
 その突っ込みを、ジェットは尤もだと思った。
 けれども。
「うるさい!オレはオレの好きなようにするんだよ、口を出すな!!」
 言い捨てて、乱暴に部屋のドアを開けて、廊下に飛び出すと。
 笑いを含んだ声が、背中を追ってきた。
「ヤッパリ、きみハ彼ガ好キナンダヨ。チャント自覚シタラ?」
「うるさいって!」
「マア、トニカク。行ッテラッシャ〜イvvv」
 ポンと小さな音がして、イワンが姿を消したのが分かる。
「くそ!イワンのバカ野郎が・・・!!」
 悪態を付きながら、ジェットはハインリヒのアパートへと向かった。
 向かってどうしようというのか。
 自分でも、分からないままに、それでも。



  〜 To be Continued 〜





ようやっとイワソが登場。半ば無理矢理ですが。
イワソに背中を押してもらって、ハインさんに惚れていることに気付け、ジェット!!
そして、いい男になれ!!
まだまだ、ラブラブエンディングへの道のりは遠そうだよ・・・。







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