とある古城の中庭には、城の持ち主の背よりも少し高いもみの木が立っている。
冬のある日、その木をじっと見上げている、ハインリヒの姿が目に入った。
「アルベルト。一体、何をしているのだ?」
声をかけると、ハインリヒはシュヴァルツを振り向きもせずに、呟いた。
「せっかくもみの木があるんだから、飾りつけでもしたらイイんじゃないかと思ってな。クリスマスも近いんだし」
ああ、クリスマス間近だから、この木をツリーにしたいのだな・・・。
合点が行って、シュヴァルツはパチンと指を鳴らした。
「フン。木を飾り付けるなど、造作もない」
あっという間に、色とりどりのランプやらモールやら、様々な飾りがもみの木を飾り立てた。
「満足か、アルベルト?」
フフンと些か誇らしげにハインリヒに尋ねると、ハインリヒはようやくシュヴァルツを振り返ったが・・・その視線は、どこか非難がましいものだった。
「・・・情緒が足りないだろうが・・・」
「は?」
望みを叶えてやったというのに、この男は何を言っているのだろうか?
思わず僅かながらに目を丸くしたシュヴァルツに、ハインリヒはビシッと指先を突きつけた。
「もみの木は、ちゃんと手で飾り付けてこそ、ツリーになれる!!やり直せ!」
言い終えるが早いが、ハインリヒはわしわしとツリーの飾り付けを取り外して。
「シュヴァルツ、手を出せ」
そう言って差し出させた腕の中に、バサバサと飾りを乗せた。
「アルベルト・・・!」
「キレイに飾っとけよ」
笑いながら、ハインリヒは城の中に消えていった。
クリスマス飾りと共に取り残されたシュヴァルツは・・・。
兎にも角にも、もみの木を飾り付けなければならないと、一種の使命感に駆られながら、もみの木に対するデコレーションを真剣に考え始めた。
「よし!パーフェクトだ。流石は私。素晴らしいぞ・・・!!」
自画自賛しながら、シュヴァルツは飾り付けの終わったもみの木を眺めた。
もみの木は今や、立派なクリスマスツリーの佇まいである。
全て、シュヴァルツの手ずから飾り付けたものだ。
「アルベルト・・・!アルベルト!!」
声を大きくしてハインリヒを呼んだが、返事がない。
業を煮やして城内に戻ると、何だか甘くて優しい匂いがした。
キッチンだと当たりをつけて、その場所を覗くと。
「ちゃんと、ツリーを飾ってきたか?」
尋ねながら、ハインリヒがフライパンから丸い物体を皿にポンと落とした。
「・・・何だ、それは?」
焼きたてのパンに少し似た、けれども甘い香りだ。
「ホットケーキだ。食べた事、ないか?」
「ないな」
白い皿の上、二枚、三枚と、ホットケーキなるものが重ねられていく。
ダイニングテーブルに掛けるように目線で合図され、シュヴァルツはトスンと椅子に腰掛けた。
シュヴァルツの肌より明るい茶色の物体の上に、ひと固まりのバターを乗せて。
それから、琥珀色した蜂蜜が、とろとろとかけられた。
「食べてみろ」
ナイフとフォークを渡されて、その物体を切り分けて、口に入れてみる。
ほんわりと、素朴な甘さが口いっぱいに広がっていった。
「・・・素朴な美味さだな」
「食べたことがない、という事がオドロキだぞ、オレは」
肩を竦めながら、ハインリヒが紅茶のポットを取り上げて。
シュヴァルツの目の前にカップを置いて、コポコポとお茶を注いでくれた。
「ホワイトクリスマスだぞ」
カップの中のお茶もふんわりと甘く香って、シュヴァルツは何だか、じんわりと胸の奥が温かくなるのを感じた。
シュヴァルツの隣の椅子に腰掛けて、ハインリヒもホットケーキとお茶を楽しんでいる。
「後で、お前が飾ったツリーを見に行こう」
「私が手ずから作業したのだからな。完璧な出来だぞ。驚くがいい」
「それは楽しみだな」
甘い匂いが漂う暖かなキッチンで、ハインリヒがニコリと笑った。
その笑顔も甘いな、と思い、切り分けたホットケーキを口元に運びながら、シュヴァルツもまた頬を緩めて笑った。
ほわほわと甘い香りの中、過ぎていく時間も、微かに甘い。
〜 END 〜
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短いし、あんまりクリスマスらしくないなぁ。アハハ・・・。
何だかいつもと立場が逆転して、ハインさんがお母さんみたいです(汗)。
しかも、ちょっと黒様が可愛すぎかな〜。
もっとオレ様な黒様の方が皆様お好みでしょうか?
ネタを下さった某フロイラインへvvv
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