いばらの涙
一度は逃げ出してきたはずのその場所に、再び舞い戻ってきた。 どんよりと曇った雲の所為か、空は低く、低く。 今にも、堕ちてきそうだ。 そんな空の下で、一人、立ち尽くす。 男の居城は、目の前だ。 けれども・・・そこに向かっての一歩を踏み出すことが出来ない。 逃げ出したのだ。男から、この場所から。 おめおめと戻ってきて、一体、どんな顔をして・・・? あの時、男は追っても来なかった。 気に入った玩具を失くしてしまったと、きっと、その程度にしか思ってはいまい。 自分は、心の奥底に隠していた想いに、気付いてしまったのだ。 逃げ出してみて、初めて。 空は暗く湿っている。 その灰色に、何もかもが終わってしまったような気持ちになった。 「シュヴァルツ」 祈るような気持ちで・・・名前を、口唇に乗せてみる。 自分の目の前で、城はただ、静かに佇んでいる。 その中からは・・・誰も、出てくることはない。 まるで、祈りさえも奪われたような・・・。 天が、堕ちて来た。 突然降り出した激しい雨。 髪を、頬を、大きな水滴が打ちつける。 「シュヴァルツ・・・!」 声を上げて、名前を呼ぶ。 どうしたら、許される? 濡れた大地にひれ伏して、愚かな己を悔いればいいのだろうか? 全身ずぶ濡れになりながら、それでも全く、寒さは感じない。 まるで荊に捲かれたようにグルグルと心を縛り付けられたような。 胸の中で燃え盛る想いに、身も心も、焼き尽くされてしまう。 気付いてしまったから、もう、この想いを殺す事はできない。 溢れ出す想いは、燃えて燃えて、この身が灰になってしまいそうだ。 パシャ。 自分ではない誰かの足音。 ふ、と、顔を上げると、視線の先に、黒い影。 激しい雨に邪魔されて、はっきりとその姿が見えない。 けれども・・・。 身体が、震えた。 近づいて来たその男の、漆黒のスーツは水浸しで。 いつも優雅に流れているマントは、ベッタリとその背に張り付いている。 「アルベルト」 震えて震えて、仕方ない。 この、身体が。 「何故・・・戻ってきた?」 お前への想いを・・・知ってしまったからだ。 「お前がまだ、少しでもオレを必要だと思ってくれているのなら・・・」 声も、震えてしまう。 「オレを連れて行ってくれ。そして・・・」 男に向かって、両手を差し伸べた。 どこもかしこも震えている。 神に許しを請う罪人は、きっと、こんな気持ちを味わっているのだろう。 「お前の手で、オレを抱いてくれ・・・」 紅い瞳が、言葉の真意を確かめようとするかのように、物も言わずに見つめてくる。 「・・・抱いてくれ」 男の表情が、和らいだ。 「アルベルト」 空からは、雨が滝のように落ち続けている。 広げられた腕の中に飛び込んで、ギュ、としがみついて。 濡れた肩口に、顔を埋めた。 抱きしめ返してきた腕の温かさが・・・狂おしいほどに愛おしくて・・・。 〜 END 〜
|
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
某レディが、カラオケで私のために(←違います)、
「いばらの涙」を歌ってくれました。
はわ〜!やっぱ、この歌44じゃん、44!!ハインさん切ない〜!!!!
と激しく思い、パチパチとワープロしたのがこの話です。
短いので、これなら日記の小話にしても良かったかも・・・(汗)。
最後はちゃんと、ハッピーエンドですよね?
と、管理人的には思っています。
最近すっかり、44スキーでスミマセン(汗)。
だって、004が二人なんだもん・・・。
ブラウザを閉じてお戻りください