チャイム





 ある日の昼下がり。
 リビングの陽だまりの中で、フランソワーズはのんびりと読書を楽しんでいた。
 今日は珍しく、ギルモア邸には誰もいない。
 厳密に言うとイワンがいるが、可愛い赤子は現在、眠りの時間の真っ最中だ。
「平和でイイわねぇ」
 そんなことを言いながら、ふわあ、とフランソワーズが小さく欠伸をした時。
 ギルモア邸の敷地内に入り込んできた、車のエンジン音が聞こえてきた。
 よく聞き覚えのあるエンジン音の主は・・・。
「あらあら〜!」
 フランソワーズは楽しげに呟きながら、ソファから腰を上げた。
「お迎えをしなくちゃね」
 パタパタと廊下を駆けていると、玄関のチャイム。
「いらっしゃ〜いvvv」
 満面の笑みで、フランソワーズはドアを開いた。

 フラソワーズの思った通り、来訪者はシュヴァルツであった。
 開いたドアの向こう側で、彼は実に優雅な仕草で、西洋風のお辞儀をしてみせた。
「ご機嫌はいかほどかな、フロイライン・アルヌール?」
「アナタが着てくれたから、上々よv」
 言いながら、フランソワーズは家に上がるよう、シュヴァルツを促した。

 ぽかぽかと暖かなリビングに、シュヴァルツとフランソワーズの二人。
 互いにニコニコと笑い合っている。
 ハインリヒやジェット辺りが見たら、震え上がりそうな光景だった。
 リビングは、パッと花が咲いたように華やかな雰囲気だ。
 二人が、大輪の花々を背中に背負っているからである(イメージ)。
 テーブルの上、大きなガラスの花瓶にたっぷりと活けられているのは、シュヴァルツが持ってきた花だった。
「リビングが明るくなったわ。ありがとうv」
「フロイラインに気に入って貰えたのならば幸い」
 そんなことを言いながら、シュヴァルツが茶目っ気たっぷりに、フランソワーズの目の前に小さな箱を差し出す。
「前に、フロイラインがご所望していた店のケーキだが・・・。もう既に、お口に入ったかな?」
「とんでもない!我が家の男性陣に、そんな甲斐性はないわ。ありがたくいただくわね」
 ケーキの箱を手にして、フランソワーズは少女らしく嬉しそうに笑んでいる。
「一緒に食べましょう。お皿、お皿・・・。あ、ワタシ、アナタが淹れたお茶が飲みたいわ〜」
「喜んで」
 勝手知ったる他人の家。
 スタスタとキッチンに足を踏み入れ、シュヴァルツがケトルでお湯を沸かしている。
 慣れた手つきで収納棚の扉を開くと。
 とある一角に、茶葉が山ほど積まれている。
 この一角は、シュヴァルツに与えられた茶葉置き場であった。
「フロイライン。銘柄のご希望は?」
「ダージリン!あれば、春のがイイわ」
「御意に」

 白いカップ、白いポット。
 カップからは、ほわほわと白い湯気。
 ケーキのセッティングもバッチリである。
 二人はやっぱりニコニコと微笑みながら、ソファに腰掛けて。
 優雅な(?)ティータイムが開始された。
「で?最近は、どうなの??」
「ご存知の通り、アレはなかなか強情でな。フロイラインからも何とか言って欲しいのだが・・・?」
「あらぁ!ハインリヒがそうと決めたら、ワタシが言ったってダメよ」
「では、どうしたら?」
「ハインリヒはね、流されやすいの。だから、猛烈アタックがイイと思うわ!!ハインリヒがイヤと言えない位に、押して押して押しまくってちょうだいv」
 話の肴になっているのは、アルベルト・ハインリヒ(30)であった。
 本人が聞いたら卒倒しそうな会話が、ほかほかのリビングで繰り広げられている。
「かなりの勢いで押していると思うのだが・・・?」
「言い方が良くないんじゃない?あんまり高飛車に出てはダメよ。ハインリヒもムキになるし。好きになれ、を強制するんじゃなくて、アナタがハインリヒを好きvという部分を熱烈アピールした方がイイと思うわ」
「なるほど・・・。私がアルベルトに情熱の赤い薔薇の花束を捧げながら、愛の言葉の一つでも囁けば良いのだな?」
「そうそう!そんな感じよ〜v」
 ケーキをつつき、紅茶のカップを口元に運びながら。
 お前らはどこの女子高生だ、と思われるような会話である。
「好き好き好き好き。ってアピールしていれば、ハインリヒだって絆されるわ。頑張って!!」
「分かった。努力しよう。フロイラインには、いつもご助力感謝する」
「あらあら〜vイイのよ、そんなこと。いつもアナタにはお世話になってるんだもの。これぐらい当然よ〜。ワタシはいつでも、アナタを応援しているわっv」
 ホホホホホ、と、フランソワーズが高らかに笑う。
 それに唱和するように、ククククク、というシュヴァルツの笑い声が重なった。
 見目麗しい二人が機嫌よく笑っているというのに、その場に漂うどこか黒い雰囲気は何なのだろうか・・・?
 その後の二人は、他愛のない会話を続けながら、優雅にお茶を楽しんでいる・・・。





 ピンポン、と玄関のチャイム。
 今日のギルモア邸は、人が大勢だ。
 パタパタとフランソワーズは玄関に駆け、来客を迎えた。
「ふふ、いらっしゃ〜いvvv」
「アルベルトは在宅だろう?」
「在宅よ〜vさ、どうぞ」
 シュヴァルツを伴って、フランソワーズはリビングのドアを開ける。
「ハインリヒ〜vアナタのシュヴァルツさんがお見えよ」
 ギョッとしてソファから飛び上がるハインリヒ。
 その目の前にバサリと大きな薔薇の花束を差し出して。
「アルベルト。好きだ」
 シュヴァルツが一言告げると、ボン!と、ハインリヒの顔が赤くなった。
「なっ、ななななななな、何をイキナリっ!?」
「今更、何を驚く?知っているだろう?」
「お前がそんなだと気持ち悪いっ!あっちに行け!!」

 その様子を眺めながら、フランソワーズはクスリと笑った。
「バッチリ、脈ありねv」
 綺麗な綺麗な音で、シュヴァルツがハインリヒの心のチャイムを鳴らす日は、そう遠くないかもしれない。




  〜 END 〜




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サイゼロは、24以外にもうひとつリクをいただきました。
44前提で黒4と3の、対4共同謀議、というコトで、今回の話になりました。
ちゃんと謀議になったかしら・・・?と、一抹の不安がありますが、
めちゃくちゃ楽しんで書きました(笑)。
拙宅の黒4と3が揃うと、最強無敵な気が・・・v
リク下さった方と皆様の、お気に召したら嬉しいです。





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