サクラ(後編)
〜 The End 〜
サクラの花びらが、散る、散る。
男は古めかしい内装の部屋の中にいた。
紅の瞳が、その景色を映す。
「桜の花は・・・儚く散っていくからこそ、美しい」
唇を曲げて、男は呟く。
散り急ぐ桜の花びらの中には、彼のお気に入りの玩具が二つ。
男は面白そうに、彼の玩具の様子を眺めた。
ハインリヒの柔らかな銀の髪に付いた花びらを、ジェットが少し乱暴に、払う。
「ジェット?」
小首を傾げて、ハインリヒがジェットを見上げる。
「どうした、そんなに険しい顔をして?」
華奢な白い手を伸ばし、躊躇いがちにジェットの頬に触れた。
「・・・何でもない」
頬に触れる手を、ジェットはギュッと握りしめる。
「何でもないんだ」
そう言ってジェットはハインリヒの手を離して立ち上がり、自分の身に付いた薄紅色の花びらを、ポンポンとはたき落とした。
「さ、帰ろう」
ハインリヒに向かって腕を伸ばし、ジェットはそのまま、彼の身体を横抱きに抱き上げた。
「うわっ!?ジェット!!」
ハインリヒが、腕の中でもがく。
「放せ、こら!オレは一人でも歩けるぞ!!」
「ハインリヒ・・・」
何時になく真剣な声に、ハインリヒがハッとしたような表情になった。
「頼むから、このまま・・・。このまま、帰らせて欲しい」
「どうしたんだ、ジェット。お前、今日は本当におかしいぞ?」
ハインリヒの頬にキスを落とし、ジェットは優しく笑ってみせた。
「大丈夫。本当に、なんでもないから」
「しかし・・・」
言いかけた言葉をキスでふさいだ後、ジェットはやっぱり優しく笑った。
「キミは、何も心配しなくていい。ただ、オレは・・・」
「ただ?」
「桜の花が、キレイすぎて怖いんだ・・・」
「怖い?桜の花が??」
「キミが、攫われてしまいそうで・・・」
ハインリヒの氷の瞳が、ジェットの姿を映して揺れた。
「バカだな、ジェット。オレは、何処にも行ったりしないぞ?」
「分かってる。分かってるけど・・・」
「・・・馬鹿・・・」
視線を落とし、ハインリヒが呟く。
「オレは、ずっと側にいるから」
「うん・・・」
腕の中のハインリヒを、ジェットが確かめるように抱きしめた。
「相も変わらず、甘いコトだな・・・」
男の指先が、空を引き裂く。
引き裂いた空間から、男は褐色の手を伸ばし、ハインリヒの髪に触れた。
「!?」
「どうした、ハインリヒ?」
「今、誰かに髪を触られたような・・・」
桜の花びらに混じって、銀の髪が数本、ハラリと流れた。
ハインリヒの髪から手を離し、男はひどく陰惨な表情で笑った。
「愛しているからこそ、この手で壊したくなる・・・違うか?お前たちにも、今に分かる・・・今にな」
褐色の手が動き、男の目の前の空間が閉じられた。
空間を閉じ際、
「ククク・・・」
男は笑い、彼の玩具に向かって、優雅に一礼した。
「アルベルト。それでは、またの機会に・・・」
その笑いは風に乗り、二人の耳に届いた。
「誰かの笑い声が・・・」
「気のせいだ。早く帰ろう」
ジェットはハインリヒを抱きしめたまま、急ぎ足で歩き出した。
そんな二人を包み込むかのように。
桜の花びらが・・・散る、散る。
〜終〜
はい、黒44「サクラ」完結いたしました。
4月中に絶対完結!と言っておきながら、5月になってしまって・・・。
お待ちくださっていた方には、本当に申し訳ありませんでした(汗)。
少しでも楽しんでいただければ幸いなのですが・・・。
ウチの黒リヒ様って、神の様なお人で、色々と怪しい能力を持っています(笑)。
これからも、その素敵能力でハインを苛めてくださると思いますので、お楽しみにvvv
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