独占欲
古びたアパートの窓から、ジェットは黙って空を見上げた。 月が、美しく夜空に浮かんでいる。 ふと思い出すのは、遠く離れた場所にいる、世界中で一番大切な人のことだ。 彼は、夜空に浮かぶ月のように美しい。 プラチナシルバーの髪は、月の雫を溶け込ませたかのように柔らかく輝く。 瞳は、月明かりのように透明でキレイだ。 「あんまり月がキレイだから、思い出しちまったなぁ・・・」 電話をしても、そっけない彼。 料金が勿体ないから早く電話を切れと、いつもそればかりだ。 それは、彼なりの思いやりだとは分かっているけれど。 声でなく、顔が見たい。 どうしようもなく、急に、会いたくなる。 会って、抱きしめて、キスがしたかった。 ジェットは、部屋の窓を開けて。 その窓からフワリと、夜空に身を浮かべた。 彼の人が住む国に着いたのは、翌日の昼頃だった。 聞いていた住所の、事務所の方に顔を出す。 事務所には、物慣れた感じの女性しかいなかった。 ハインリヒから聞いたことのある、マグダ、という女性だと思った。 「何か御用ですか?」 「アルベルト・ハインリヒの知り合いです・・・。今、いないんですか?」 慣れない敬語を使い、舌を噛んでしまいそうだったが。 これもハインリヒに会うためと、ジェットは堪えた。 「所長は、昼食を取りに外に出ました。先程出たばかりですから、追いつけるかもしれませんよ」 事務の女性に教えてもらい、ジェットはブラブラとフランクフルトの街を歩き出す。 ハインリヒがいれば、すぐに分かる自信があった。 あの柔らかく光を放つ美しい髪を、見つけられないはずがない。 なんとなくだが、ジェットは会社の近場にあるレーマー広場の方に向かった。 美味しい店がある、と、いつかハインリヒに聞いたような気がしたからだ。 急ぎ足で広場足を踏み入れると。 ・・・陽光に輝く、プラチナシルバーの髪を見つけた。 「ハインリヒ・・・!」 名前を呼んで、駆け寄ろうとしたが。 「所長!」 ジェットより先に、ハインリヒを呼んだ男がいた。 長身で、長い髪を後ろで軽く束ねている。 ジェットも人のことは言えないかも知れないが、少し危ない雰囲気のする男だと思った。 「ああ、エルンストか・・・」 男を振り返り、ハインリヒが穏やかな瞳で微笑む。 ・・・本当なら、今、ハインリヒのその瞳で見つめられているのは、自分だったはずだ。 「マグダから、所長が昼飯に出たって聞いてな。俺も一緒に行ってイイか?」 「別に構わないが・・・」 そして、男とハインリヒは、並んで歩き出した。 ・・・今、ハインリヒと一緒に歩いているのは、自分だったはずだ。 ジェットには分からないような会話を交わしながら、二人は歩く。 不意に、ハインリヒの身体が、クラリと傾いた。 「所長!?」 男の腕が、ハインリヒの身体を支えた。 ・・・身体を支えるその腕も、自分のものでなければならないはずだった。 「大丈夫か!?」 「ああ・・・大丈夫だ、大したコトはない」 男は、形のいい眉根をひそめた。 「アンタ最近、仕事ばっかでロクに寝てないだろ?疲れが溜まってんだよ」 「しかし。だからと言って、仕事をおろそかにはできないだろう?」 ハインリヒの言葉に、男は軽く、舌打ちした。 「アンタって、ホントに真面目だよな・・・」 男は、ハインリヒの腕を掴む。 「来いよ」 「え?」 「今日の昼飯は、俺の奢りだ。アンタが栄養つくように、イイ店に連れてってやるよ。」 「なっ!?」 目に見えて、ハインリヒが動揺した。 「そんな、部下に奢ってもらうなんて、ゴメンだ!!」 「イイじゃん、別に。俺、こう見えて、結構給料高いんだぜ?所長一人ぐらい、充分養ってやれるけど??」 「だっ、誰がお前なんかに養ってもらうか!!」 男は、ハインリヒに向かって、ニッと笑いかけた。 「まあそれはモノの例えとして、だ。とにかく昼飯は、オレが奢ってやる。アンタは黙って付いて来な」 男がぐいっと、ハインリヒの背中を押した。 ・・・他の男に、触らせたくなかった。 さり気なく口説かれていることに、ハインリヒは気づいているのか? 二人が街の雑踏の中に姿を消していくのを、ジェットはジェットらしからぬ冷たい瞳で見送った。 「ただいま・・・」 夜も更けた頃、誰もいない部屋に、ハインリヒは戻ってくる。 マグダから、昼に知り合いが訪ねて来たと聞かされて、もしかしたらジェットではないかと都合のいい想像をしたが、部屋は真っ暗で、誰の気配も無いように思えた。 ジェットの明るい笑顔が、瞼の裏に浮かんだ。 その微笑みに、どれだけ自分が助けられてきたことだろう。 部屋の明かりをつけようとしながら、 「会いたいな・・・」 呟いたハインリヒの目に、闇の中からスッと自分に向かって伸びてくる2本の腕が映った。 「!?」 警戒心も露に飛びのいたハインリヒの耳に、 「ハインリヒ」 低い声が、届いた。 聞き覚えがありすぎる、声。 会いたいと思っていた人の声だ。 けれども、いつもと声のトーンが違う。 「ジェット・・・?」 喜びと戸惑いで、声が震えた。 「いきなり、どうしたんだ?」 ハインリヒの問いかけには答えず、ジェットは痛いぐらいにハインリヒの肩を掴んだ。 「・・・っ・・・」 ハインリヒの表情が、歪んだ。 「来いよ」 ものすごい力で肩を掴まれたまま、引きずり込まれるように自室に連れて行かれた。 乱暴に、ベッドの上に放り投げられる。 ・・・こんな手酷い扱いを受けたのは、初めてだった。 「ジェット?」 困惑を隠せないまま、名前を呼んだ。 カーテンの隙間から月光が一筋、部屋に入り込み、ジェットの顔を照らした。 その表情を見て、ハインリヒはギョッとした。 いつものジェットとは全く違う。 どこか褪めて見える、感情のない顔。 「ハインリヒ」 静かに、名前を呼ばれる。 その声は、無機質だ。 その時ハインリヒは、ジェットに恐怖を感じた。 ジェットの腕が伸び、ハインリヒのシャツに手が掛かった。 そのまま乱暴にシャツを引っ張られ、ボタンが、弾けた。 「ジェット!?」 「昼間、キミはオレの知らない男と一緒にいただろう?」 エルンストのことだ、と、思った。 「アイツは、部下のSEで・・・」 ジェットは冷たく、鼻で笑った。 「部下だって?フン、よく言うぜ。どう見たって、上司と部下って関係以上に見えたぜ?」 ハインリヒは、苛立った。 せっかく目の前にジェットがいてくれるのに、どうしてこんなことになっているんだ? 欲しいのは、いつもどおりの優しいキスと抱擁だ。 そして、与えたいのは自分自身。 「ジェット」 ジェットの瞳を覗き込むようにして、ハインリヒは言った。 「エルンストは、オレの部下だ。それ以上でもそれ以下でもない」 「どうだか・・・。アイツ、キミを養うって言ってたな?キミ、口説かれてるぜ」 もう、何だか分からなかった。 ただ、エルンストと一緒に食事に行っただけなのに。 「何て言えば分かってもらえる?アイツは、ただの部下なんだ」 「身体を触らせてただろ?キミって普段、人に触られるのを嫌がるのにさ」 ジェットは、どうしてこんなにも突っかかってくるのだ? あれは、倒れそうになった自分を助けてくれただけなのに。 「・・・もう、いい」 泣きたいような気分になって、ハインリヒはジェットから顔を背けた。 「キミが良くても、オレは良くないな」 ベッドの上で押し倒され、そのまま乱暴に唇を重ねられた。 まるで、嵐のように暴力的なキス。 「・・・んっ」 腕の下で身じろぎすると、 「逃げようったって、ムダだぜ?」 冷たい笑いを含んだ声で、囁かれた。 「キミは、オレだけのキミだ」 声とは裏腹に熱の篭った瞳に、ハインリヒは自分の身体が熱くなるのを感じた。 こんなに手荒に抱くのは、初めてだった。 首筋に、噛み付くようにして吸い上げ、キスマークを残す。 ハインリヒがキスの痕を残されるのを嫌がることは知っていたが、どうしてもそうせずにはいられなかった。 自分の痕跡を、残したかった。 破れたシャツから覗く胸の突起に下を這わせ、歯を立てると。 「!!」 ベッドの上で、ハインリヒの身体が跳ねた。 手の平で唇を塞ぎ、声を出さないようにしている姿にイラついた。 「声・・・聞かせろよ」 ハインリヒのシャツを、器用に剥ぎ取り。 そのシャツで、腕を縛り上げた。 「ジェット、やめろっ!」 泣き出しそうな顔で、ハインリヒがジェットを見上げたが、許してやる気は全くなかった。 「キミが、悪いんだからな」 乱暴にズボンを脱がせ、うつ伏せにして腰を上げさせて。 慣らしもせずに、そのまま自分自身を突っ込んだ。 ハインリヒが、後ろからされるのがキライだと知っていたが、わざと、そうした。 「っつう・・・!」 ハインリヒが苦痛の声を上げたが、そのまま強引にねじ込んだ。 「すぐに良くしてやるよ」 全く慣らさなかった所為か、中は痛いぐらいにキツい。 動けば、壊してしまいそうだ。 それでも構わずに、ジェットは腰を動かし始めた。 ジェットの下で、ハインリヒが切なく、身体を捩った。 「ジェット・・・やめっ・・・」 「ダメだ」 なおも、激しく動かすと。 ハインリヒの唇から、悲鳴のような声が漏れたが、すぐにその声は聞こえなくなる。 代わりに聞こえてきたのは、くぐもった声。 シーツに顔を押し付けて、声を押し殺している。 イライラして、ハインリヒの細い腰を強く引き寄せ、激しく突き上げる。 「〜っ!!」 押し殺した悲鳴が聞こえたが。 ジェットを受け入れている部分が少しずつ濡れてきたのは、ハインリヒが感じている証拠だ。 シーツから漏れる声が、喘ぎ声に変わっていく。 いつものように、ちゃんと声が聞けないことに、ジェットはますます苛立った。 その苛立ちをぶつけるように、ジェットはハインリヒに腰を打ちつけ。 自分でもワケが分からないうちに、彼の中に自分の熱を放った。 後ろからされるのは、嫌いだった。 顔が、見られないから。 キスしてもらえないから。 ジェットは、それを知っているはずだった。 嫌いな後ろから、ひどく、乱暴に抱かれた。 快楽よりも、苦痛の方が勝る抱かれ方だった。 けれども、怒りは全然湧いてこなくて。 ジェットの苛立ちと切なさを感じて、自分まで悲しくなった。 激情の中に、深い愛情が隠されているように感じられて。 せっかく会いに行って、もしジェットが他の人間と一緒にいたら。 そうだ。 自分だって、嫉妬してしまう。 きっと。 終わった後、顔が見たいと思ったが、うつ伏せにされていて、見ることができない。 何だか切なくなってしまい、ハインリヒはシーツに顔を押し当てて、深く、息を吐いた。 まだ、ジェットは自分の中にいる。 そのまま、クルリと身体をひっくり返された。 ゾクリとして、思わず声を上げてしまう。 「ふあぁっ」 「ん。イイ声。声、聞かせろって言ったろ?」 ジェットの表情は、今は険しい。 しかしハインリヒは、顔を見ることが出来てホッと安心した。 「ジェット」 自分でも驚くほどに掠れた声で、ジェットの名を呼ぶ。 「やっと・・・顔が、見れた・・・」 一瞬、ジェットが固まったように見えた。 「ジェット・・・」 ハインリヒは、もう一度名前を呼んだ。 「お前の好きなようにしていいから。だから、顔を見せていてくれ。そして・・・キスしてくれ」 本当は、ジェットの広い背中に腕を回したいのに。 頬に触れたいのに。 縛られている腕が恨めしかったが、ハインリヒはそのことには触れなかった。 「こんなコトをさせるのは・・・世界中で、お前一人だけだ」 黙り込んでしまったジェットに、ハインリヒは囁くように告げた。 「オレは、お前だけのオレなんだぞ?」 「・・・ハインリヒ」 ジェットの顔が間近に見え、キスをされるのだと思い、ハインリヒは瞳を閉じた。 キスは激しかったが、最初のキスと比べると、格段に優しいキスだった。 「んっ・・・ふっ・・・」 ジェットの舌がハインリヒのそれを絡め取り、音を立てた。 唇が離れ、両足を持ち上げられる。 「・・・ああっ」 ジェット自身は、ハインリヒの中で力を取り戻していた。 ハインリヒの中で、ジェットが動く。 「やっ、ああぁ!・・・はぁっ!!」 シーツで声を押し殺すことも出来ず、ハインリヒはジェットの腕の中で身体をしならせ、嬌声を上げた。 「ジェット・・・」 もっとずっとジェットを受け入れたくて、ハインリヒは自ら、腰を動かした。 「・・・ジェット、ジェット・・・!」 熱に浮かされたように、何度も愛しい人の名を呼ぶ。 ジェットの熱い吐息が頬にかかり、ついばむようなキスを、何度もされた。 「ジェット・・・!うああっ・・・んはっ・・・!!!もうっ・・・」 「ハインリヒ・・・ゴメンな」 「??」 一際激しく突き上げられて、ハインリヒの身体は、ビクビクと震えた。 「やっ、あああっ・・・!!あっ!」 抱きしめられ、キスをされた。 「・・・っ、ハインリヒ・・・!」 「んんっ!はぁっ・・・あああーっ!!!」 ハインリヒは身体の中でジェットの全てを受け止め、自分自身の精が、下腹部を濡らした。 「ハインリヒ・・・」 ジェットの指が、優しく髪を撫でてくれる。 その感触が気持ちよくて、ハインリヒはそっと、瞳を閉じた。 リンリンと、電話のベルが鳴る。 受話器を取り、 「Hello?」 言った後、ジェットは受話器を取り落としそうになった。 「ハルトマン運送会社のマグダと申しますが。ハインリヒ所長はおいでですか?」 ギョッとして時計を見ると、もう、10時を回っている。 「ハッ、ハインリヒ!電話、電話っ!!」 気だるそうな手付きで受話器を受け取ったハインリヒもまた、一瞬で目が覚めたようだ。 「マグダっ!すまないっ、つい寝過ごしてっ!!!事務所の様子はどうだ?」 「今日は落ち着いていますわ。所長もお疲れのようですから、今日はお休みなされば?ご友人が見えているのでしょう?」 受話器から聞こえてくる落ち着いた女性の声に、ジェットは舌を巻いた。 詮索すれば非常に怪しげなこのシチュエーションに、動揺一つ見せないこの落ち着きはなんだ? 「しかし・・・」 「会社に来ても、締め出します。その代わり、明日はわたくしがお休みをいただきますから、これでおあいこですわね?」 一方的に電話を切られたらしい。 ハインリヒは、ため息をつきながら、受話器を置いた。 そして、お互いに昨夜のことを思い出す。 気まずい沈黙が流れたように思えたが、より気まずいのは、ジェットの方だった。 「ハインリヒ・・・怒ってるか?」 恐る恐る尋ねると、ハインリヒは表情一つ変えずに、サラリと答えた。 「どうしてだ?」 「だってオレ、昨日・・・」 腕を縛って、無理に犯した。 「・・・いいさ。愛されてるって、ちゃんと分かってるからな・・・」 白いカーテンを見つめながら、ハインリヒが呟いた。 「それより・・・」 フワリ、と、ハインリヒの腕がジェットの背中を抱きしめた。 「昨日、抱きしめられなかったからな・・・」 ジェットの肩に顔を埋めながら、ハインリヒがそう言った。 「・・・ハインリヒ」 「何だ?」 「キミがあまりにも可愛いコト言ってくれるんで、オレ・・・」 クスリとハインリヒが笑った。 「いいぞ。お前の好きなようにしろ」 背中に回っている、ハインリヒの腕の力が強くなった。 ハインリヒの唇にキスを落としながら、ジェットは彼の耳元で囁いた。 「今日は、普通にやろうな?」 ジェットのキスを受けながら、ハインリヒがそっと、頷いた。 |
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〜 END 〜 |
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26655のキリ番を踏んでくださった、桐子響様から、リクをいただきましたv
*リクの簡単な内容*
遠距離恋愛中の24で、ジェットが我慢できなくなってハインに会いに行くと、
知らない男と仲良さそうにしてるリヒを目撃(相手の男はエルンスト希望)。
それで、切れたジェットに好きなようにされてしまうリヒ。
好きにされながらも、ジェットの自分への独占欲に酔っちゃうリヒ。
結局、リヒもジェットにメロメロという感じで。
というワケで、書かせていただきました〜vvv
詳細設定をいただいたので、すっごく書きやすかったです!!
エッチシーンは、当社比2倍でがんばりました(2回ヤッてるから)。
マグダが予想外に活躍(?)してスミマセン(笑)。
響様にお気に召していただければ幸いですvvv
今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします♪
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