forbidden lover
怯えを含んだ瞳が虚空を彷徨う。
口唇が微かに動き、言葉を紡いだ。
『神よ・・・!』
薄く笑い、そして、その願いを踏みにじるようにして告げた。
「神の名など呼んでも無駄なこと。お前は私から逃れられない定め・・・」
スッと瞳が閉じられ、白い頬を一筋、涙が伝った。
「アルベルト」
自分でも驚くほどに冷ややかな声で、言葉を投げつける。
「泣けば誰かが救いに来てくれるとでも?涙を流すその労力を、もっと他の事に使うのだな」
グイと、髪を掴んで顔を上げさせる。
「目を開けて、私を見ろ」
開かれた瞳は、どこか諦めたような色を湛えて揺れた。
胸の中に渦巻く炎が、身を焦がす。
命じられるがままに白い肢体を差し出すその男を。
抱いても、抱いても。
決して、自分の色に染まってはくれない。
「アルベルト。もっと・・・良くしてやるぞ・・・?」
その口唇から、喘ぎ声が零れ出した。
抱いて、抱いて、抱いて。
己の存在を、その身体に刻み付ける。
そんな愛し方しか出来なくて・・・胸が、焦げる。
苦しめたいわけではない。
ただ・・・欲しいだけだ。
「お前は、私のモノ・・・」
言葉だけが虚しく、淀んだ空気の中に溶けていく。
その想いに、胸が熱く焼け、苛立つ。
乱暴に突き続け、やがて、その身体の中に己の情欲を吐き出した。
グッタリと、腕の中の身体がベッドに沈んだ。
「アルベルト」
その名を呼ぶと、視線をこちらに向けた。
顎に手を掛け、口唇を重ねる。
一瞬、身体を強張らせた後、大人しくこちらに身を委ねた。
「・・・アルベルト・・・」
焼けて・・・焦げてしまう。
どれだけ欲しても手に入らない。
それが故に、欲しくて欲しくてたまらないのだろうか・・・?
これ以上手元に置いておくと、自分の心が燃え尽きてしまいそうで。
けれども、手放すことなど考えられない。
この腕の中に繋ぎとめて放しはしない。
口唇を離すと、互いの唾液が糸を引く。
わざと乱暴に、その身体を突き放した。
自由になった身体は真っ白いシーツの海でうつ伏せ、途切れ途切れに嗚咽の声が漏れた。
「泣いても無駄だと、何度言えばお前には理解できるのだ?」
そう言うと、シーツに顔を押し付け、その身を震わせた。
・・・嗚咽の声は、止まらない。
「己が運命を呪いたければ呪え。そして、どのような嘆きも定めの前には何の意味も成さないと身をもって知るのだな」
震える白い身体を置き去りにして、ベッドから滑り降りた。
無造作に床に投げ捨ててある漆黒のマントを手に取り、男はバサリとそれを身に纏った。
「私が戻って来た時に・・・頬に涙の跡一つでも見せてみろ。ただでは置かんぞ」
そう言い捨てて、部屋を出た。
扉を閉めた後、重く、息を吐く。
そして、アレは自分のモノだと、己に言い聞かせながら、石畳の廊下を闇雲に闊歩した。
胸が焼けて・・・焦げて苦しい・・・。
〜 END 〜
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久々に、甘くない44書いたぞ〜!!
と、管理人自身は思っているのですが(笑)。
黒様がハインリヒを囲うにあたって、色々と葛藤などもあると思うのですよ。
決して心を開いてはくれない、ハインリヒへの苛立ちとか。
そんな部分を少し書いてみたくて、このお話となりました。
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