花葬
紅い瞳の先で、ゆっくりと世界が動いた。
離れた場所でのその光景が、ひどく間近で起こっているような、そんな感覚。
「アルベルト・・・!」
黒いマントが大きく翻り、男は部屋を飛び出した。
虚ろな瞳で、彼は自由を求めていたのではなかったか?
だから・・・与えてやったのだ。
それなのに、何故?
鈍い銃声、ゆっくりと倒れていく身体。
その白い手の中から、車道に転がり落ちる花束。
何故・・・?
「アルベルト!」
柔らかな草の中から、ぐったりと力を失った身体を抱き上げる。
「・・・アルベルト・・・!!」
薄っすらと、クリスタルの瞳が開いた。
唇が微かに開き、途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「・・・許し・・て・くれ・・・」
「アルベルト、何故だ・・・!?」
「気付・・けなかった。お前の気持ち、オレの気持ち・・・。許・・し・・・」
白い頬は血の気を失って蒼白になり、身体は次第に冷たくなっていく。
「私はお前に自由を与えたが、死を許した覚えはないぞ・・・?」
震える声でそう言うと、弱々しく笑んだ。
「・・・すまな・・い・・・」
どうしてこんなことになってしまったのか?
愛し方を間違えたのだと、男は思った。
もっと、互いに言葉を尽くせば良かったのだと。
「全ては、もう遅いのか、アルベルト・・・?」
力なく微かに彼が首を振り、何かを呟いたが。
「 」
その言葉は、男の耳には届かなかった。
「アルベルト・・・?」
男は、腕の中の身体をきつく抱きしめ、慟哭した。
「許しを請うのは、私の方だ・・・」
彼の身体を抱いたまま、ヨロヨロと男は立ち上がった。
薔薇が無数に咲き乱れる庭は、男の自慢の庭だった。
「アルベルト・・・。一度、私の薔薇を好きだと言ったことがあったな・・・」
彼の身体を土の上に横たえて。
男は褐色の指を伸ばし、一本の薔薇にそっと触れた。
薔薇は男の指の先で、可憐にその花びらを震わせた。
「私の美しい薔薇達よ。お前達の世界に連れて行け。この私と、アルベルトを・・・!」
ざわり、ざわりと薔薇が揺れる。
「言えば良かったのだな・・・私には、お前が必要なのだと・・・」
右手のマシンガンを、男はこめかみに押し当てた。
彼が、そうしたように。
ザワザワ、ザワザワ。
薔薇達は、身を捩って騒ぐ。
低い銃声が、美しい庭に鈍く響いた。
硝煙の匂いが辺りに漂い、彼に重なるようにして、男の身体が倒れた。
花は激しくその身を揺らし、ハラハラとその花びらを二人の上に散らした。
まるで涙のような、紅い雫を・・・。
紅の花びらが二人を覆い尽くすと、まるで土の中に溶け込むようにして、二つの身体が消え失せた。
月が、廻る・・・。廻る、幾度も。
今宵の月は、細く、赤い。
主を失い廃墟と化した城。
けれどもその庭で、一年中絶えることなく薔薇の花だけが狂ったように咲き乱れている。
庭の奥・・・。
深紅の薔薇に囲まれるようにして、黒と白の薔薇が・・・。
三日月の赤い月光の下、黒い薔薇の花びらがゆっくりと開いていく。
花が開ききると、枝の影にボンヤリとした男の影が浮かびあがった。
『私の美しい薔薇達よ、元気にしていたか・・・?お前達は、相変わらず美しい・・・』
紅い薔薇が、騒ぐ。
男の紅い瞳が愛おしげに、まだ蕾んでいる白い薔薇を見つめた。
『アルベルト・・・。迎えに来た』
微かに、純白の蕾が揺れた。
『何と言えば、お前に伝わるのだろうな?私には、お前が必要なのだと』
スッと、男の指先が蕾に伸びる。
『 』
何かを囁くようにして、褐色の指先が白い薔薇に触れた。
恥らうようにして身を震わせながら、白い花びらが開いていく。
ふわりと、花に隠れるようにして、また一つ、ボンヤリとした男の影。
『アルベルト』
白い手が、褐色の手を取った。
穏やかな笑みを、白い頬が刻んだ。
『アルベルト・・・』
褐色の腕の中に、その身体が浚われる。
二つの影は一つに溶け合い、そして霧のように消えていった。
夜の静寂の中、美しく大輪の花を咲かせた黒と白の薔薇の一対。
互いに寄り添いあうようにして、枝と枝と絡ませる。
月と深紅の薔薇だけが、その様子を黙って見守っていた。
〜 END 〜
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結局、こちらも変な話でスミマセン!!
花の妖精物語かよ・・・、みたいな・・・(汗)。
ハインさんを生き返そうかとか、一瞬そんな考えも頭を過ぎったのですが。
イメージソングである、花葬に忠実に(?)してしまいました・・・。
この歌は、3年前に私が黒44に堕ちた時からずっと、
至高の44ソングとして君臨しております(笑)。
この話は、あくまで私の中の花葬イメージ、ということで、
花葬好きな他の皆様、どうぞお許しくださいませね。
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