■鬼畜紳士に捧げる10のお題■
1 逃げるなら追いかけるまで
「アルベルト」
薄い口唇が、目の前で開かれる。
低く、名前を呼ばれ、ハインリヒの肩は本人の意思とは関係なく、ピクリと震えた。
スイ・・・と、長い褐色の指が伸びてくる。
顎のラインをスルリと撫でられ、ハインリヒは思わず後ずさりをしたが。
背後の冷たい壁が、ハインリヒの動きを妨げた。
ハインリヒは誰かに救いを求めるかのように、辺りに視線を走らせた。
視線の端。
現在位置から少し離れた場所に、この部屋から出るためのドアがある。
パシッ。
男の手を払い。
ハインリヒは、男の腕からすり抜けるようにしてドアへと駆け寄り、ノブに手をかけた。
男の声が追ってくる。
「逃げたければ、逃げても構わんが?」
笑いを含んだ声で、男は言葉を続けた。
「この城で、鬼ごっことでも洒落込むか・・・?まあ、そう簡単にこの私から逃げられると思ってもらっては困るがな」
男の紅の瞳が、舐るように自分を見つめているその視線を。
背中に、熱いぐらいに感じて。
思わず振り返ると、
「クククク・・・」
喉を鳴らし、男は低い声で笑った。
「どうする、アルベルト?このまま大人しく私のモノになるか。無駄だと分かっていながらも、この私から逃げようとするか。お前に、選択の余地を与えてやろう」
尊大に構え、男はハインリヒを見下すようにしてそう言った。
手を掛けていたドアノブを回すと、いとも容易くドアが開いた。
開いたドアの隙間に身体を滑り込ませるようにして、ハインリヒは男のいる部屋から出て行こうとした。
「なるほど・・・逃げる、という選択肢を選んだか。よかろう」
舌なめずりをするような男の声が聞こえ、ハインリヒの背中をゾクリと悪寒が走った。
「逃げるなら・・・追いかけるまで。お前に、5分間の時間を与えてやる。せいぜい私を楽しませてみろ」
ひどく楽しそうに笑う、男の声。
その声を振り払うようにして、ハインリヒは乱暴にドアを閉じた。
閉じたドアが男と自分の間に隔たりを作ってくれたような気がして、ホッとする。
ここから、逃げられるのか・・・?
心のどこかで。
逃げることなど出来ないと諦めつつも、けれども黙って言いなりになるなど真っ平だとも思う。
男は、ハインリヒに5分の猶予を与えると言った。
その間に・・・。
僅かな希望を胸に抱き、ハインリヒは冷たい石畳の廊下を駆けた。
〜 END〜
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
短くてスミマセン。
なんとか4月1日に1題目を書きたかったので・・・。
決して手を抜いているわけではございませんのです!!
ブラウザを閉じてお戻りください