■鬼畜紳士に捧げる10のお題■
2 覚悟はいいな



 ドアの隙間をすり抜けるようにして、ハインリヒはシュヴァルツの前から姿を消した。
 チッ、チッ、チッ・・・。
 時計の針が動いていく様を、シュヴァルツは黙って眺めた。
 与えた時間は5分。
 傍らのソファに、優雅に腰を下ろして。
「さて、どうしたものか・・・」
 そんな言葉を吐きながら、けれども楽し気にシュヴァルツは笑った。

 アレは、私の物。
 この手の中から逃れようと幾等悪あがきをしても・・・。
 必ず、私の許に戻って来るのだ。
 本人が望む、望まないに関わらず。

 ハインリヒは自分の所有物であると、シュヴァルツは息をすることと同じような感覚で思っていた。

 人を愛したことも、人から愛されたことも、過去の記憶の中には無くて。
 だから、ハインリヒに対して抱く感情が、愛、というものなのかは自分でも良く分からなかった。
 愛している、などという有り触れた言葉では片付けられないほどに、激しく湧き上がってくる想いがある。

 手放したくない。
 自分の前に跪かせて、心まで縛り付けて。
 永遠に、傍らに留めておきたいと。

「他の誰かの物になってしまうと言うのなら・・・私の手でその命を絶って、永遠に私の物にしてやろう」
 ひどく物騒な言葉が、シュヴァルツの口唇から零れた。

 時計の針は、動き続ける・・・。

 不意に、シュヴァルツは立ち上がり、時計を確認した。
「時間だ。狩を始めるとするか」
 紅い瞳が、鋭く光を放った。
「せいぜい、楽しませてもらうとしよう・・・」
 低い笑い声と共に。
 スーッと瞳を細め、今は姿の見えないその人物に向かって・・・。
 シュヴァルツは、言葉を発した。
「アルベルト・・・覚悟は良いな・・・?」



  〜 END〜


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お題1の続きのつもりです。
お題3までは続き物のイメージかな〜、と思っております。
もっとこう、素敵な44が書きたいのですが、
なかなか力が及ばず、黒様、皆様、申し訳ありません。






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