■鬼畜紳士に捧げる10のお題■
8 その仮面を壊して




 口唇の端を曲げて、ニヤリと笑う。
 いつでも、余裕のある態度。
 そんな彼も魅力的だと思うけれども。
 もっと別の・・・『本当』の表情が見てみたい。

 何時の頃からか、そんな思いが心の奥底で燻ぶるようになった。



「アルベルト」
 ツイ、と長い指先が伸びてくる。
 顎のラインを辿り口唇に触れてくる、決まりきった動き。
 自分を見つめて笑う、その表情も。
 いつも同じように感じられる。
 口付けを交わそうと、整った顔が間近に迫ったが、
「シュヴァルツ・・・」
 自身の口唇を右手で庇いながら、ハインリヒは男の名を呼んだ。
「・・・何だ?」
 邪魔をされたのが気に喰わないのか、男の声に不機嫌の色が混ざる。
 いつもと違う。
 それが、心地いい。



 ハインリヒを良い様に扱っていながら。
 男は、ハインリヒに愛されていないと思っている。
 力でハインリヒを服従させ、足元に跪かせた。
 けれども。

「・・・シュヴァルツ・・・」

 今、自分は・・・望んで男の側にいるのだ。
 どんな扱いを受けても、自分が深く愛されている事を知っているから。
 男は、知らない。
 それを分からせてやったら、どんな顔をするのだろうか?



 クスリとハインリヒが笑うと、男はますます不機嫌そうに眉を顰めた。
「抱かせろ。逆らうことは許さん]
「お前の、望むままに・・・」
 頬に笑みを浮かべたまま、ハインリヒは男を引き寄せ、自分から口唇を重ねた。
 一体、この男は今、どんな顔をして自分のキスを受けているのだろう?
 そう、思いながら。
 男の舌に自分の舌を絡め、積極的に求める。
「んん・・・」
 ちゅくちゅくという水音に、ゾクリと背中を通り抜けていく感覚。

 口唇を離すと、どこか困惑したような表情で男がハインリヒを見つめた。
「アルベルト・・・?」
 何かを問うように名を呼ばれ、ハインリヒは笑う。
「愛していると。言葉にすれば伝わるか・・・?」
 腕を伸ばして、指先でそっと、男の頬に触れた。
「お前になら・・・喜んで抱かれてやる・・・」
「アルベルト・・・」
 フ、と。
 男の頬が緩む。
 紅の瞳が、穏やかな光を湛えて、ハインリヒを見つめた。
 それは、いつもの作り物のような笑い方ではなく。

 ・・・見たかったのは、こんな顔だ・・・。

 ハインリヒはうっとりと微笑み、男の肩口に顔を埋めた。
「抱いてくれ・・・お前の、良いように・・・」
「・・・アルベルト・・・」
 名前を呼ぶ男の声には艶と優しさ。

 もっと、『本当』を見せてくれ・・・。

 身体の芯が、ゾクゾクして。
 ハインリヒは小さく、身を震わせた。



  〜 END 〜


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

甘くなってしまい、激烈鬼畜な黒様スキー様にはスミマセン。
このお題には、実は、二つの案がございました。
もう一つのバージョンは、
『いつもどこか遠くを見つめているハインさんに苛立ち、
意識を自分に向けようとする黒様』
でございました。
どこぞで書いたような気がしないでもないので、
今回のバージョンで書きました。






ブラウザを閉じてお戻りください