『HONEY』
(ふみふみ)
*甘44が苦手な方は、決してお読みにならないで下さい・・・!!*
「ただいま・・・」
悲しげな声と共に、玄関のドアが開き。
俯き加減で、同居人が戻ってきた。
「そんなに意気消沈して、一体どうしたというのだ、アルベルト?」
読んでいた新聞から顔を上げ、尋ねると。
「ケーキが・・・!ケーキがダメだったんだ・・・」
泣き出しそうな顔で、ハインリヒは答えた。
「何だと?・・・私に良く分かるように、説明してみろ」
ハインリヒの悲しみの体験談は、次の通りである。
ぶらぶらと散歩に出掛けたハインリヒは、街を歩いていて、ふと、思い出した。
(そうだ!この近くに、とても美味しいと評判のケーキ屋があったハズだ!!甘味を愛する者として、一度は食べてみなければなるまい。そうと決まったら早速買いに行こうv)
ハインリヒは、足取りも軽く、ケーキ屋へと向かった。
そして・・・。
辿り着いたケーキ屋の前で、ハインリヒは一人、立ち尽くした。
(何なんだっ!この人ごみは・・・!?)
店の前に、ワラワラと長蛇の列。
華やいだ声を出しながら、女性達がキャッキャと順番を待っている。
混乱しつつある頭の中で、長蛇の列は、どうやら喫茶の列らしいと判断したハインリヒは、果敢にも店の中に突撃した。
ケーキへの熱い想いが、ハインリヒを人ごみの中に入らせたのだ。
しかし・・・。
(だ、ダメだ・・・!!)
店内も人がワラワラである。
ケーキのショーケースまで、とても辿り着けそうも無い。
人の隙間から見える数々のケーキは、甘くハインリヒを誘惑するが。
(すまん!オレのケーキ達よ、不甲斐ないオレを許してくれ・・・!!)
断腸の思いで、ハインリヒはケーキ屋を後にしたのだった・・・。
「で?お前はおめおめと帰宅してきたという訳か?敵前逃亡は士道不覚悟で切腹だぞ」
呆れ声でシュヴァルツが問いかけると。
ハインリヒは可哀想なほどに肩を落としながら、それでもキッとシュヴァルツを睨み付けた。
「お前も一度、行ってみればいいんだ!そうすれば、オレのこの切ない気持ちが理解できるはずだ!!上手そうなケーキを目前にしながら手に入れられなかったこのオレの気持ちが、お前に分かるものか!!」
訳の分からない主張と共に、ハインリヒは子供のように頬を膨らませて乱暴にソファに腰掛けた。
シュヴァルツは声を和らげた。
「そう熱くなるな。私が悪かった。美味い茶を淹れてやるから、少し落ち着け」
そう言うと、チラリと上目遣いでこちらに視線を飛ばした。
「アッサムが飲みたい。ミルクで」
「仰せのままに・・・」
しばらくの後。
ホワホワと湯気の立つティーカップを手に取り、すっかりご機嫌を直した様子のハインリヒだったが、やっぱり残念そうに呟いた。
「今ここに、あのケーキがあれば・・・」
「まだ言うか、お前は・・・」
苦笑するシュヴァルツに、ハインリヒは強く訴えた。
「お前が淹れてくれたこの最高に美味い紅茶と一緒に、あのケーキを味わいたいと思うのは当然じゃないか・・・!」
「お褒め頂いて光栄だ」
「オレは真面目に言っているんだぞ!!」
「分かったから、そうムキになるな。折角の美しい顔が台無しだぞ。まあ私は、お前が熱くなる時の表情も気に入ってはいるがな」
クックと喉を鳴らして、シュヴァルツは笑った。
反応が、一々面白い。
どこか納得いかないような表情で、ハインリヒが紅茶のカップを口元に運んだ。
笑いながら、シュヴァルツはその様子をのんびりと眺めた。
そのまま、何事もなく数日が過ぎていく。
「アルベルト」
ある日の朝、仕事に出掛けようとしたハインリヒに、シュヴァルツが声をかけた。
「今日は仕事は休みだ。私が、職場に連絡しておいてやったぞ」
「はあ?」
思いっきり嫌な顔をして、ハインリヒはシュヴァルツに視線を向けた。
「誰の許可を得て、お前はそんなコトをしてるんだ!?」
シュヴァルツはフンと鼻を鳴らした。
「誰の許可だと?私がそうしたいと思えば、それは全て叶えられるべきこと。お前にとやかく言われる筋合いはないぞ」
「偉そうに・・・!」
ハインリヒがそんな台詞を投げつけると、シュヴァルツはニヤリと笑う。
「私は神に等しい存在だぞ?いや、既に神を超えているか・・・」
「・・・言ってろ・・・」
付き合いきれんと脱力するハインリヒに、
「出掛ける準備をしろ。その仕事着より、もう少しマシな服に着替えるのだな」
シュヴァルツはそう命じた。
行き先も告げずに、スタスタとシュヴァルツは歩く。
「おい、一体何処に行こうっていうんだ?」
「黙って私に付いて来い」
連れない物言いに少しムッとしながら歩いていたハインリヒは、ハッととあるコトに気付いた。
この道は、何日か前に通ったことがあって・・・。
「ホラ、着いたぞ」
褐色の指が差した先には、件のケーキ屋が建っていた。
今日は何故か、長蛇の列もない。
「え?え??」
軽くパニックに陥るハインリヒの腕を、シュヴァルツがグイと引いた。
「ここのケーキが食べたかったのだろう?」
そのまま背中を押され、店の中に入れられた。
「いらっしゃいませ」
その店のシェフらしき人物が現れ、シュヴァルツに深々と一礼した。
「本日は当店をご利用いただき、誠にありがとうございます」
「準備は出来ているか?」
シュヴァルツが鷹揚に尋ねると、シェフは首を縦に動かしながら答えた。
「それはもう。どうぞ、こちらへ」
そのまま、2階のティールームに招き入れられる。
ハインリヒはフワフワとした気分で、シュヴァルツの後に続いた。
ティールームの至る所に薔薇の花々が生けられており、非常にゴージャスな雰囲気だった。
相変らずスタスタと歩くシュヴァルツは、当然といった態度で中央のテーブルに向かっていく。
「おい、シュヴァルツ・・・!」
テーブルの上を見て、ハインリヒは驚く。
『Gluckwunsch Albert!!』
テーブルの上に、そうデコレーションしてあるケーキ。
多分・・・ハインリヒの好きな、レアチーズだ。
ろうそくが一本、二本、三本・・・数え切れない。
「誕生日おめでとう、アルベルト。忘れていたろう?」
微笑みながら、シュヴァルツが告げ。
パチンと褐色の指が鳴り、ウェイトレスがろうそくに火をつけた。
シュヴァルツの口唇が薄く開く。
「Happy Birthday to you・・・」
万国共通(?)に歌われるその曲を、ハインリヒの好きな低い声でシュヴァルツが口ずさんだ。
「Happy Birthday dear Albert.Happy Birthday to you」
歌い終えたシュヴァルツが、ボーっとするハインリヒを促した。
「ろうそくの火を吹き消せ。願い事を忘れるなよ」
大きく息を吸い込んで、ハインリヒはろうそくに息を吹きかけた。
ゆらゆらと大きく揺れて、火が消えていく。
全てのろうそくから火が消えると、ウェイトレスが素早くそれを抜き取り、そっくり同じの新しいケーキを持ってきた。
「穴が開きすぎたケーキは食べたくあるまい」
笑いながら、シュヴァルツがケーキにナイフを入れ、皿に乗せた一切れをハインリヒに差し出した。
「まあ、座れ。そして、存分にケーキを楽しむのだな。これはバースデーケーキだが、いつもこの店に置いてあるケーキも食べたい放題だぞ。ショーケースから好きなだけ選ぶがいい」
トスンと椅子に腰掛けて。
「お前の淹れた、紅茶が飲みたい」
ワガママを言うと、シュヴァルツは優雅に立ち上がった。
「厨房を借りてこよう」
真っ白なカップに、琥珀色の液体。
ふんわりと、紅茶の芳しい香りが漂う。
「いただきます」
行儀よくそう言ってから、ハインリヒはケーキにフォークを刺した。
パクリと一口頬張って。
頬が自然と綻んでしまうのを抑えれらない。
「美味いか?」
紅茶を飲みながらシュヴァルツが尋ね、ハインリヒは満面の笑みで答えた。
「・・・最高に・・・!」
ブルーベリーやマンゴーのタルトなどを次々に食べながら、ハインリヒはふと、気付いた。
「今日がオレの誕生日だという事は、お前もそうなんじゃないのか?」
「そうかも知れんな」
「オレからは、お前に何をしてやれる・・・?」
急に、シュヴァルツが身を乗り出し、ハインリヒに向かって褐色の指が伸びた。
二人の口唇が重なる。
スルリと舌を入れられ、ハインリヒは真っ赤になった。
口付けの後、シュヴァルツはニッと笑い、赤い舌でペロリと自身の口唇を舐めた。
「・・・甘いな・・・」
「シュヴァルツ!!」
しれっとした表情で、シュヴァルツが言葉を紡いだ。
「私の傍らにお前が在ること。それが、私の望みだ。今日が私の誕生日ならば、叶えてくれてありがとう・・・とでも言っておくべきかな?」
ひどく魅力的な表情で、シュヴァルツが笑う。
「アルベルト。私と共にいてくれて・・・ありがとう」
いつも偉そうなくせに、そんなに下手に出られると、動揺してしまう。
「オレは別に・・・っ!!」
照れ隠しに、持ったままのフォークでケーキを突付くと。
楽しそうな笑い声が降ってきた。
「また次の年も・・・お前の望みを叶えてやろう。何を強請ってもイイのだぞ?」
「来年の事を言うと、鬼が笑うぞ・・・」
そう返しながらも。
やっぱり照れくさくて、ハインリヒはクイと紅茶を飲み干し、カップをシュヴァルツに差し出した。
「おかわりだ」
褐色の手が、白いカップを取った。
ポカポカと温かい、夏も終わりかけた昼下がり。
広いティールームには、穏やかな空気が溢れて・・・。
〜 END 〜
◆コメント◆
どうしても44が書きたかったのですが、無駄に長くてスミマセン。
しかもすごく甘くてスミマセン・・・。
ナチュラルに44が同居していてスミマセン。
書いている生物だけが楽しんでいてスミマセン・・・。
と、お詫びの四連発でございました(汗)。
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