恋愛シンメトリィ




 ―あれ、ハインリヒだ。
 ある晴れた日の昼下がり。
 庭の白いテーブルに紅茶のカップを2個置いて、ハインリヒは一人で本を読んでいた。
 普段はかけない眼鏡をかけて、時折それを直す仕草が何だかとっても新鮮で。
 ちょっと、得した気分。
 もっと近くで見ていたいと大きく息を吸って彼の名前を呼ぼうとした、その時。
「ハインリヒー!!」
 イワンが俺の横から顔を出し、俺より先に彼を呼んだ。
「ごめん、待った?ちょっと本探すのに手間取っちゃってさー。」
 本をぎゅうぎゅうに詰めた袋を窓の外に出してから、イワンはキッと俺を睨みつけた。
「どいてよ、通れないじゃないか。」
「玄関から行けばいいだろ。」
「やだよ、面倒くさい。」
 無理矢理俺を押しのけてイワンがひらりと外に出る。
 そして、紙袋を抱えて一言。
「邪魔しないでよね。」
 パタパタとハインリヒのところに走っていって楽しそうに喋り始めた。
 時折イワンがこっちを見て「ハインリヒは僕のものだよ」と勝ち誇ったように笑うのにかなり腹が立ってその場を離れた。

 それからずっとイワンはハインリヒにべったりだった。
 昼間に2人きりで本を読みながら話すのはもちろん、食事の時もいつも隣りで
 買い物を頼まれれば仲良く出かけていく。
 その所為でハインリヒと2人で過ごせなくなったのもかなり嫌だったが
 何より嫌なのはイワンのあの顔と、ハインリヒを取られてしまった敗北感。
「ハインリヒもアイツを甘やかしすぎなんだよ!」
 俺の声にびっくりしたようにピュンマが新聞から顔をあげた。
「アイツって…イワンの事?」
「他に誰が居るんだよ。…ったく、ハインリヒもちょっとくらい嫌がれってんだ!」
 くすくすとピュンマが笑った。
「ジェットって結構やきもちやきなんだ。」
「う、うるせえっ!」
「…でも、ハインリヒが一番甘やかしてるのは君だと思うんだけどなぁ。」
「…は?」
 テーブルの上に新聞を置いて、ピュンマが立ち上がった。
「じゃあ俺、そろそろ部屋に戻るから。」
「お、おいピュンマ!今のはどーゆう…―」
 その質問は彼の出て行った扉に遮られてしまった。

 突然異変が起こったのは、その次の日のことだった。
 朝食の時間になってもイワンが姿を見せないのである。
 昼になってやっと姿を見せたが、いつものようにハインリヒにベタベタすることはなかった。
「…どうしたんだ、イワンのやつ?」
「さぁ…でも今朝から様子が変なのよ。気分が悪いって言うし…。」
 フランソワが心配そうにイワンを見た。
 その視線に気付いてかどうか、イワンはすぐにリビングを出て行く。
「ゼロゼロツーゥ!」
 後方から独特の口調で自分を呼ぶ声が聞こえた。
「悪いけど買い物頼まれてくれないアルか?買い忘れがあったのヨー。」
「ああ、いいよ。」
 返事をして張々湖から財布とメモを受け取った。
 玄関を出てトントンと靴を鳴らして
 自慢のジェット・エンジンにいざ点火…しようとした瞬間。
「ジェット。」
「イッ、イワン…?!」
 扉の陰に居たのはさっきリビングから出て行った筈のイワン。
 眉を顰めたままじぃっと俺の顔を見つめていた。
「何か用なのかよ…?」
 イワンは黙ったままだ。
「おい聞いてるのか…」
「悔しいけど」
 俺の言葉を遮ってイワンが言った。
「ハインリヒは僕のこと見てくれなかったよ。」
 そしてくるっと後ろを向いて悔しそうに手を握り締めた。
「彼が見てるのは君だけなんだ。」
「イワン…」
「独り占めしてて悪かったね。行ってあげてよ、ハインリヒもきっと待ってる。」
 小さな声で呟くとイワンはそのまま走り出した。
「…言っておくけど、まだ諦めたわけじゃないからねっ!」
 そのままイワンの姿が見えなくなるまで呆然とその方向を見ていたが、俺もすぐに家の中に逆戻りした。

「ハインリヒ!」
 彼の部屋の戸を勢いよく開けて、名前を呼んだ。
「…どうしたんだ、そんなに慌てて…」
「ハインリヒっ!」
 もう一度彼の名前を呼んだ。
「アンタの事が好きだ。」
「…はぁ?」
「アンタは俺のことどう思ってる?」
 突然の質問に驚きを隠せない様子だったが、しばらくして顔を赤く染めながら答えた。
「嫌いじゃ、ない…」
「好き?」
「…好き。」
「俺も好きだよ。」
 ぎゅっとハインリヒを抱きしめた。
 久しぶりの彼のぬくもりが愛しかった。
「ジェット…っ!苦しいぞ…」
 ハインリヒがそう言って俺の背中を叩いたが、お構いなしだった。
 あの時感じた敗北感や苛立ちはもうとっくにどこかへ消えていて。
 今はハインリヒが傍に居るのがどうしようもなく幸せだった。
「ハインリヒ、出かけようか?」
「出かけるって…どこへ?」
「たまには上を見てみたら?本ばっか読んでないでさ!」
 ハインリヒの腕を引っ張って、倒れてきた彼を抱っこして空に飛び出した。
 沈みかけた太陽の色が、真っ白なハインリヒの肌を夕焼け色に染めていた。


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Eira様のサイト「angel berry」の800のキリ番を踏んで、キリリクでお願いした、24です。
ふみふみ、以前からEira様のお書きになるイワンに惚れていたので、
14絡みの24、というコトでお願いしたのですが。
イワン、可愛いですねっ。もう本当に、可愛いですね〜。
気が強いところが、もう!!諦めちゃダメよ、イワン!おねえさん、応援してる。
ジェットとハインリヒもすっごいラブラブだし、ハイン、ジェットに「好き」って言っちゃうし、し・あ・わ・せ♪
14絡みの24でお願いして、本当に良かったですっ!!
Eira様、素敵14絡み24をありがとうございましたvvv





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