傘越しの景色


ようやく日本独特の梅雨もあけたというので、久し振りに日の光でも浴びようと外出した散歩。

それに気を良くしてついこれまた久し振りの訪れとなった町へとのんびり足を伸ばす。

そして何気なく立ち寄った本屋。

そこで今までずっと捜していた本を発見してしまい、ハインリヒは思わずその本を手に悩んでしまう。

実は最初からギルモア邸の周りを少しうろつく予定だったので、財布を持っているのが奇跡のような感じで、

しかもここまで来るのに使ったバス代もあり、正直本が買えるか怪しかった。

しかしそっと財布の中を確認するとぎりぎりで本の代金と帰りのバス代が残っていて、ほっと胸を撫で下ろした。

そして無事に会計を済ますと足取りも軽く店を出る。

「あ・・・・。」

しかしそこで思わずハインリヒはそう声を漏らした。

落としていた視線の先の歩道の上に落ちてきたのはもうここ最近随分見慣れてしまった小さな水滴で、

そして思わず見上げた先には次々と落ちてくる雨粒の姿があった。

ハインリヒはそれについ舌打ちしたい気分になりながらも、とりあえず一旦店の中へと戻った。

別に本がなければここから少し先のバス停まで走っても問題なかったが、何より本を大事にしたいハインリヒは

本格的に振り出したこの雨の中本が濡れるような危険は冒したくなかった。

それなら傘を買ってバス停までいけば問題ないのだが、傘を買った時点で今日の財布の中身ではバスに乗ることが出来なくなってしまう。

その狭間で考えた挙句、結局ハインリヒは本を選んだ。

同じ本屋の片隅で販売が開始され始めたビニル傘を買うと、少し長い散歩となってしまった道を歩き始めた。

だがそもそもバスに乗るといっても周遊のバスに乗り、そこから邸までは滅多に人の訪れない道を巡るというだけで

通り過ぎるというわけでもなく、慣れない華奢な傘を手にのんびりハインリヒは歩を進めた。



「あ、こんなところにいたのか。」

するとしばらくして突然そんな声が掛けられてハインリヒは驚いて傘で隠していた顔を上げた。

そこにはギルモア邸にある見覚えのある傘をさすジェットの姿があった。

「ジェット・・・。」

「全くアンタ散歩に行くって出てったまま帰ってこないから心配したぜ。一体どこに・・・・。」

だがジェットの言葉を耳にしながらハインリヒは顔を伏せてしまった。

それは別にジェットの言葉に反省したとかそういうんじゃなく、その登場のタイミングが良すぎたからだった。


そう。

ジェットに話しかけられたその時、ハインリヒは丁度ジェットのことを・・・・ジェットが今一緒だったら、とか考えていたのだ。

だからそんな都合の良い自分の想像そのままに現れたジェットにどんな顔をしていいかわからなかったのだ。

だがそんなハインリヒに笑を含んだジェットの声が掛けられる。

「ハインリヒ・・・・アンタ耳まで真っ赤だぜ?」

「なっ・・・。」

そのセリフにハインリヒは慌てた。

大体顔を伏せているだけでなく、傘もさしているのだからそんな様子が見えるわけない。

だからジェットの言葉の根拠がわからずそのまま顔を上げたのだが。

「あ・・・。」

そこにはビニルの傘越しにジェットの笑顔が見えた。

「アンタ今さしているのが透明な傘っての忘れてるだろ?多少悪くても傘越しのアンタの表情はちゃんと見えるんだぜ?」

「・・・!!」

その言葉に益々頬が染まるのを感じて、しかしこれ以上ジェットに言われるのが嫌でハインリヒは傘をジェットに向けて言った。

「交換しろ。」

「え?」

「だからお前のその傘とこの傘とを交換しろ、と言ってるんだ。」

そして言うが早いか、ハインリヒはジェットの傘をひったくる。

もちろんその際本を庇うのは忘れなかったが、そのおかげでジェットは濡れてしまっていた。

「あ、ひでーの。そんなにしなくても傘ぐらい交換してやるのに・・・じゃあさ。」

「何だ?」

意味あり気なジェットの言葉に今度は傘をあげてジェットを見たハインリヒだったが、気付いたときにはジェットにキスされていた。

「!ジェット・・・・。」

それは掠める程度だったが、しかしちゃんと感触は残っていて、思わずハインリヒが怒鳴りつけると

だがジェットは変わらず笑顔を浮かべていた。

「いいじゃん、迎えに来たのと傘を交換した駄賃ってことで。」

「・・・・バァカ。」

それにこれ以上何も言う気がなくなり、ハインリヒは早々に止まっていた足を進め出す。

「あ、透明な傘っていいな。傘越しにもアンタが見える。」

「・・・・。」
まだそんなことを言うジェットに、しかしハインリヒは構わず歩を進めた。

相変わらずその頬はうっすらと色づいていたが。



そんなある雨の午後。


  〜 END 〜




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うはははは〜っ!!!
と、初っ端からテンション高く喜んでおりますvvv
「CYBERNATION SYSYEM BRANCH」様の20624のキリ番を踏みまして、
リクエストさせていただいた24ですっ!!
リク内容は、「雨の中でちゅーする24」でございましたvvv
神咲様は、本当に日常生活のひとコマを書くのがお上手な方で♪
こうしてリクで書いていただいて、やっぱりお上手だと感心しきりです。
私の考える雨ちゅーだと、ありきたりな雨ちゅーになっちゃうもん・・・。
傘越しに愛しい人の姿を見る、綺麗な風景。
ああ、ホント、神咲様ありがとうございました!!!
また絶対、キリ番踏むぞ〜!




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