一番の幸せ


「なあ、それにしても厭きないか?」

「何が?」

リビングのソファで並んで座って、特に何をするわけでもなく隣のハインリヒの髪を梳いていたジェットは、

あまりに唐突なハインリヒの言葉に聞き返さずにはいられなかった。

別にハインリヒがそう言った前に特に会話があったわけではなく、

突然のその言葉が何を意図したものか全くわからなかったのだ。

するとハインリヒはジェットの方に顔を向けると改めて問い直した。

「だからこうやって俺と一緒にいることが・・・・これが厭きないのか?」

「・・・あのなあ。厭きたりしないからこうして何もせずにただ座っていられるんだろう?」

ハインリヒの言葉にジェットは思わず盛大な溜息をつきながらもそう返した。

しかしそんなジェットの言葉に困ったように苦笑するとハインリヒは続けた。

「いや、そうじゃなくて・・・・こうした今だけじゃなく、俺の側にいることに厭きないかと聞きたかったんだが・・・。」

そしてハインリヒはそのまま顔を伏せてしまう。

「それってさあ・・・・。」

ハインリヒのセリフに自然と眉をしかめずにいられず、そのまま不機嫌な声を隠しもせずにジェットは尋ねた。

「俺の『アンタを好き』っていう言葉が信じられないってこと?」

「そうじゃない。」

するとハインリヒは困った顔のままだが、ジェットの顔を見てきっぱりと否定する。

「じゃあ何でそんなこと・・・。」

ジェットはすぐにそう聞き返すが、それにハインリヒは言葉を選ぶようにしながらゆっくりと言った。

「お前じゃなく・・・俺自身が信じられない、からかな・・・。」

「アンタが自分自身を?」

「ああ。お前が俺のことを好きと言っていつでも両手を広げてくれているのに、

 俺はその腕の中に素直に身を委ねてもいいものか、と常に自問自答してしまうんだ。

 ・・・つまり俺自身が本当にお前を好いているのか、と何度もわざわざ確認せずにはいられないんだ。」

「それで何で俺に厭きる、なんて聞くんだ?」

するとハインリヒは苦笑して続けた。

「自分自身がそうやってわからなくなって、確信できなくなると・・・その不安が広がってしまうんだ。

 そしてこんな優柔不断な俺だから、お前がいつか愛想をつかしてしまっても仕方ないってそんな風に考えてしまって・・・。」

「はあ・・・・。」

ハインリヒの言葉にジェットは俯くと、盛大な溜息を一つ落とした。

そしてそれから顔をあげると唐突にハインリヒに口付けた。

「!」

もちろんハインリヒは驚いて思わず抵抗しかけるが、それを防いでしばらく深いキスを続けると、

やがてようやく解放してジェットは言った。

「ならアンタは俺だけを信じろ。」

「・・・・?」

そして目を見据えたまま更に言葉を重ねる。

「アンタを好きっていう俺のことを信じられるなら、この俺だけを信じていればいい。」

「・・・・どういう・・・。」

「だからアンタが信じられないっていうアンタ自身のことは俺が確かに信じているから心配するなってこと。」

「!」

ジェットはそして優しく微笑むと穏やかに言った。

「アンタが俺を、俺がアンタを信じていればそれだけでいいじゃないか。

 だからアンタはそんなくだらないこと考える暇があるなら、もっと俺のこと考えてよ。」

「・・・・ジェット。」

ジェットの言葉にハインリヒはただその名を呼ぶことしか出来なかった。

そしてその胸の内で改めて、自分がこんなジェットを好いているのだと確信する。

だから好きと言うそのかわりに別の言葉を贈って、自らジェットに口付ける。

「・・・・ありがとう。」



喧嘩をすることも、時には離れ離れになることも、きっとこれから先の長い時間の中であるだろう。


しかしこうして互いのことを思いやる気持ちが確かに存在すれば、それだけで色んな幸せを得られるはず。


けれど今はとりあえず目の前にある幸せを大事にしよう。


こうして一緒に暮らせている。

それが二人の今一番の確かな幸せ。


  〜 END 〜




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


神咲ハヤト様から、2周年記念のフリー小説を頂戴してまいりました〜!!!
ハヤト様の書かれる小説は、
いつも24が幸せそうで、読んでいてほのぼのと心が和み、大好きですvvv
今回のお話も、24でしみじみと幸せを噛みしめているようなお話で、
頂戴できて、本当に嬉しいです♪
ハヤト様、これからも素敵24をお願いたします。
改めまして、2周年おめでとうございます!!
&素敵な小説をありがとうございましたvvv





ブラウザを閉じてお戻りください