心の鍵を開けて
『アルベルト、俺アンタの事が好きなんだ』
―――ジェットから初めてそう言われて、随分経つ。
他の仲間がいる時には、ジェットもそれ以上言ってこなかったし、俺も気にもせず普通に接してきた。
だが、このままではいけないのだと、答えを出さなくてはと、俺の心の中でもう一人の俺が囁いていた。
ジェットの告白に対して、答えを出さなくてはならない――。
そう思いながらも日にちだけが過ぎていった……。
「なぁ、アル。」
リビングで本を読んでいるアルベルトにジェットが声を掛けた。
「どうした、ジェット。」
「なんか静かだからさ。誰もいない訳?」
「あぁ、さっき買出しに出掛けたから、俺とお前の二人きりだな。」
「そっか……。」
ストンと、アルベルトの隣に座ったジェットは、つまらなそうにため息を吐いた。
パタンと読んでいた本を閉じると、アルベルトはキッチンへ立った。
ジェットに何が飲みたいかと聞くと、自分の飲み物とジェットの分を持って帰ってくる。
「サンキュ、アル……。」
「どういたしまして。」
そういうと、アルベルトはまた本を読み始めた。
その横で、大人しく座っている少年………。
暫くそのまま、アルベルトを見つめるジェットの視線に、今度はアルベルトが短いため息を吐いた。
「ジェット、俺の顔に何かついているのか?」
「いや、綺麗だな〜と思って……。」
「……そんな事言われても嬉しくないんだがな。」
「だって俺、アンタの事好きだし…。」
事も無げに紡がれる言葉に、アルベルトは苛立った。
アルベルトはジェットと違って、何処でも気軽に愛の言葉を紡ぐ方ではなかった。
どちらかというと、言葉より行動に出るタイプかもしれない……。
「好きだとか、愛しているとか、そんな事言われて、俺が喜ぶと思っているのか…。」
「………何で?好きな相手に好きだって言って何が悪いんだよ。」
「だから、そんな事は他のヤツに言えばいいだろう!!そんな事言われてこっちは虫唾が走る…。」
「む、虫唾って……、何だよその言い方!」
「そんな言葉をしょっちゅう使うお前に言われても、本心だか嘘なのか分かったモンじゃない……。」
ハッと気が付くと、ジェットは俯いてコブシを震わせていた。
「………嘘じゃない。俺は……、俺はアンタにしか言ってない!」
アルベルトは言いすぎたかと思ったが、だからと言って自ら折れる性分でもない。
「アンタが好きなのに、好きだって言って何が悪いんだよ。一緒にいて何で怒られるんだよ……!」
そう吐き捨ててジェットはリビングを飛び出していった。
搾り出すようなジェットの叫びに、また傷つけてしまった、と後悔をした。
自分が臆病なばかりに、ジェットの気持ちを受け入れられない事に無性に腹が立った。
ただ、応えてやればいい――。
アイツの気持ちを、素直に受け止める事、それがアルベルトにとって最大の難関だった。
だが、これ以上このまま空回りしている訳にはいかなかった。
リビングを飛び出していったジェットの部屋を訪ねた。
「…ジェット、いるんだろう?話があるんだ、ここを開けてくれないか?」
反応がない、だが部屋にいるのは分かっている。
「ジェット…!」
何度目かの問いかけに、ジェットは扉を開けた。
「……何の用だよ。」
「話がある、入れてくれないか?」
睨みつけるようして、黙ったままジェットは部屋ドアから退いた。
アルベルトはそのままジェットの部屋に入り、ベッドに腰掛けたジェットの前に立った。
「ジェット、話があるんだ。」
「………。」
ベッドに腰を掛けたジェットは、アルベルトの方に見向きもせず、そのままベッドに転がった。
普段なら“人の話を聞く時はそれなりの態度で聞け”などと、小言をいうアルベルトも今回ばかりは黙っていた。
黙って壁の方へ向いて転がっているジェットの脇に座り、アルベルトは話しかける。
「ジェット、俺はお前と違ってそうオープンに感情を表したり出来ないから、つい疑ってしまう。
“好きだ”とか“愛してる”とか、お前の口から聞けば聞くほど不安になる……。」
「………。」
ムクッと起き上がったジェットは、アルベルトの方に向いて座りなおした。
「俺もお前も男だ、それに同じサイボーグだから傷を舐め合いたいんじゃないかとか、からかわれているのか……。」
「アンタ、そんな事考えていたのかよ。」
ジェットの顔がますます曇りだす、長い前髪の向こうで、射るようにアルベルトを見つめる目…。
「俺は傷を舐め合いたい訳じゃない、ましてからかっているつもりもない。
そんな複雑に考えられる頭はねェし、男だとか女だとか関係なく、アンタが好きなんだ……。」
「………。」
今度はアルベルトが沈黙する。そんなアルベルトに詰め寄るとジェットはアルベルトを押し倒した。
「ちょっ、ジェット!」
「どう言ったらわかってもらえる?
アンタが好きだ、アンタと居たい。アンタの過去も全部ひっくるめて俺は、アンタを抱きたいんだ。」
「ジェッ……、抱きたいって…。」
アルベルトは真っ赤になって、言葉が続かない。
押し倒したジェットは、そのまま静かにアルベルトを抱きしめるように覆い被さる。
「好きだって、愛してるって言っても信じてもらえねぇ……、じゃあ俺はどうしたらアンタの心に入っていけるんだよ…。」
最後の方は消え入るようなジェットの言葉……。
そのままアルベルトを抱きしめ、肩に顔を埋めたジェットは小刻みに震えていた。
そんなジェットの頭を撫でながら、アルベルトは静かに語りかける。
「俺は卑怯者だな…。お前さんから言われて頭ではわかっていても、肝心な所で逃げ腰になってしまう。
あの時ヒルダを亡くしてから、俺はもう誰も特別な人間を作らないと決めた。
だから余計お前さんの真剣な告白が、苛立って受け入れられなかったのかもしれない……。」
ゆっくりとジェットが顔を上げる。
「時間をくれないか?いきなりそうですかと受け入れられるほど俺は人間ができちゃいない。
だからと言って、お前さんを嫌いでもない。」
「アル…、俺アンタを困らせていたのか?」
「多少な、だが俺の方こそお前さんを傷付けた。」
お互い気まずそうに見詰め合う、そしてどちらともなく謝った。
ジェットはアルベルトの上から退くと、アルベルトもベッドから起き上がった。
「なぁ、お願いがあんだけど……。」
「なんだ?」
「これ以上、好きだとか言って困らせたりしない。
アンタの気持ちを待つ事にする。約束するよ、だから……、キスして良い?」
「な、何言って…。」
ジェットのお願いにアルベルトは慌てた。
「だから、キス。俺、アンタと今ここでキスしたい。」
「今、困らせないと言った側から困らせているのは何処のどいつだ。」
アルベルトはジェットのストレートな告白に、頭を抱えてため息を吐いた。
そんなアルベルトの頬に触れて、ジェットは顔を近付けると、
真剣に見つめる年下の少年に観念したのか、アルベルトは黙ってジェットを受け入れた。
唇が触れるだけの軽いキスを交わすと、一旦唇を離してから、またジェットはアルベルトの口を塞いだ。
今度は、深くアルベルトの口内を味わうかのように、思いっきり舌を絡め、お互いの唾液が唇の端から零れる。
激しいキスにアルベルトの腰は引けたが、ジェットはそのまま抱き寄せて押し倒した。
「結構キス、上手いもんだろ?」
唇を離したジェットが嬉しそうに笑うと、
「ガキのくせして、そういう事だけは一人前なんだな…。」
と真っ赤になったアルベルトは呆れたように答えた。
そんな淡い恋心を抱いていた時が嘘のように、今ではお互いの体を貪りあう仲になっていた。
いつの間にか体を許す関係になり、アルベルトは何度となくこの無茶な少年のせいで腰を痛める事となる――。
「なぁ、アル大丈夫か?」
「……大丈夫な訳ないだろうが。まったくテメェは人に無茶ばかりさせやがって…。」
本日、何度目かの行為の後、さすがのアルベルトもいい加減にしろとばかりに、
掛けていたシーツを引っ張りジェットの方へ背中を向けてしまった。
慌ててジェットがご機嫌を取ろうと、アルベルトに頬や肩に軽くキスを落としてゴメンと謝った。
「なぁ、アル…。もしかしたら、メンテでも受けた方が良かったりして…。」
「メンテなんぞ恥ずかしくて受けられるか!!!」
この無邪気な少年に振り回されつつも、これもまた幸せかもしれないと思いつつ、アルベルトは眠りに落ちた。
そんなアルベルトが寝息を立て始めたのを確認して、ジェットは小さな箱を取り出した。
彼が目を覚ましたら渡そうと用意した小さな小箱―――。
日付が変わったら一番に祝ってやりたいと思い、連絡もせずいきなりアルベルトを訪ねた。
「本当にアンタ、可愛いよな……。」
そんな事面と向かって言ったら多分顔色を変えて怒るに違いない。
自分の誕生日すら気にしていない恋人を、どんな風に驚かせてやろうかと考えながらジェットも眠りについた。
明日はこの恥かしがり屋なオッサンの何十回目かの誕生日である―――。
〜END〜
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高橋一成様にお願いして頂戴した、バースデー24ですvvv
もうもう、初々しい24やら、年月を経てそんな関係になってしまった24やら、
一つの作品で、幾つもの萌えを頂戴しました!!
高橋さまの書かれる24、本当に好きなんですよ、自分v
素敵な作品をどうもありがとうございましたvvv
高橋さまの素敵サイトには、当サイトのリンクから飛んでいけますvvv
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