たまには
「どうした、アルベルト。飲まないのか?」
そんな風に声をかけながら彼の座るその向かいの席へと腰掛ける。
場所は深紅に染まった真っ赤な薔薇が咲き乱れる庭園。
この鮮やかな色の中、彼の透き通るような白さはさぞかし映えるだろうと思っていたが、
実際こうして見ると予想以上に彼の存在が浮き立つようで、内心至極満足で知らず笑みが零れた。
しかしそんな彼は大好きだろう紅茶を目の前にしても、一口手をつけただけで今はテーブルの上に飾られた
花瓶の中の薔薇を見つめていた。
本当は彼が何故紅茶をそれ以上口にしないのかも、わかっていた。
だがあえて尋ねるような真似をしたのは、彼が素直に理由を述べるかが楽しみだったからだ。
すると彼はしばし理由を述べるか戸惑った様子だったが、それでも最終的には薔薇からコチラに視線を移し、告げた。
「・・・・渋すぎる。」
そう言って少し拗ねたようにしてまた視線を薔薇へと戻した。
そんな彼の様子に酷くまた自分が満足を覚えたのを感じながら、言葉を返す。
「そうか?たまにはこれくらい濃く入れてもいいかと思ったのだがな。」
彼とそれから自分の紅茶を入れたとき、普段彼が好む時間よりも少し長めに時間を計った。
だから彼がどんな反応をするかと思ったのだが、彼は既に自分が彼好みで紅茶を入れるだろうことを疑いもせずに
紅茶を口にし、それからそれが濃すぎるとわかった途端こうして拗ねて見せた。
そんな些細なことが何故か胸の辺りを暖かくするようで、自然笑みが漏れたのだが、彼への懐柔の手段も用意してある。
「それならこれを入れてみろ。」
言いながら用意していた皿を差し出す。
「これは?」
その上に乗ったものを見つめて彼がそう尋ねる。
「砂糖だ。」
答えながら一つ摘んで彼の紅茶の中へと落とす。
「砂糖なのか。」
そう反復する彼が、同じようにその砂糖を摘んで興味深げに見つめている間に、スプーンで彼の紅茶を掻き回して砂糖を溶かす。
砂糖は薔薇の形を模っていた。
「綺麗だな。」
流石に真っ赤な砂糖は手に入れられなかったが、真っ白な砂糖で出来たその薔薇は何となくそう言う彼と重なった。
その間に砂糖はすっかり彼の紅茶の中で溶けきったので、彼へと告げる。
「ほら、飲んでみろ。」
言ってスプーンを取り除いたカップを勧めると、一口飲んで彼は感想を述べた。
「・・・いつもと違うが、これはこれで美味しいな。」
そしてそのまま再びカップに口を寄せる彼に満足して、笑みを深めると言葉を重ねる。
「それは良かった。たまには違った趣向もいいものだろう?」
「ああ。」
「それなら一つ感謝の意を表してくれてもいいだろう?」
「・・・・感謝の意?」
不審気にそう返しながら、眉を顰めるそんな仕草も愛しいと思ってしまう自分にどうかしてる、と自嘲しながらも
続ける言葉は止まらない。
「何、たいした事はない。たまには構わないだろう。」
そう一方的に告げてテーブルの上に身を乗り出して微笑む。
「たまにはお前から、な。」
「・・・・。」
その言葉に彼は一層顔を歪めたが最終的には一つ諦めたように溜息をついて告げた。
「たまには、だからな。」
そして同じように顔を寄せた彼に施されたのは唇を合わせるだけの軽いキス。
ただそれだけなのに、酷く満足している自分に驚きながらも自然にまた浮かんだ笑みを向ける。
「甘いな、アルベルト。」
「・・・何を・・・。」
「紅茶もお前も酷く甘い。」
「・・・・。」
それを聞いてもう言葉を返す気力もなくなったのか、黙ってまた紅茶を口にする彼が
しかししっかりと頬を染めていて、益々笑みが深まる。
こんなのを幸せというのかもしれない。
そんなたまには違った趣向を試したある昼下がりの話。
〜END〜
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
神咲ハヤト様の3周年記念部屋から頂戴してきた44ですvvv
甘いお砂糖よりもスウィートな44ですね〜!!
薔薇の花が咲き乱れる庭園で、ラブラブティータイムの44v
想像するだけで、鼻血4リットルは出せそうです。
ハインさんの好みより少し渋くお紅茶を淹れる、
ちょっぴり意地悪な黒様にドキドキしました。
薔薇を模ったお砂糖も、とっても凝た演出かとvvv
ハヤト様、ありがとうございました!!!
ブラウザを閉じてお戻りください