SAKURANBO




ベッドで枕を抱えるようにして寝ていたハインリヒの鼻を甘い香りが擽る――。

その甘い香りに誘われるように、

夢の中から現実へと意識を戻したハインリヒはゆっくりと目を開けて寝返った。

「……何をしているんだシュヴァルツ。」

寝ぼけ眼のまま、この城に住む男の名を呼ぶ。



だが、返事は無い。



頭をポリポリと掻きながらゆっくりと起き上がったハインリヒは、

側に置いてあるバスローブに身を包むと薔薇の庭園がある窓辺へ視線を向けた。

真紅の薔薇に囲まれて、男がお茶の準備をしているのが視界に入り、

男が準備しているその甘い香りに誘われるように、ハインリヒは庭園へと降りていく。



「随分と遅いお目覚めじゃないか……。」



薔薇の花びらのような真紅の瞳をハインリヒの方へ向けて男が笑う。

「……誰のせいだと思っているんだ。人の気も知らないで。」

その微笑にムッとしたハインリヒがボソっと呟くが、男はまったく気にしたようすもなく、

側にあったイスを引くとハインリヒに座るように命じる。

そして座ったハインリヒの目の前には、焼きたてのようなスコーンとクッキー。

「あの甘い匂いはこれか?」

目の前にあるお菓子に興味を惹かれて、ハインリヒは思わず微笑んだ。

「何だ、匂いに誘われて起きたのか?」

トレーに乗せてあったタオルでハインリヒの手を拭かせると、

男はポットに用意してあった紅茶を淹れて自分もハインリヒの前にあるイスに座る。

「昨夜、甘い物が食べたいと言っていただろう?」

「お前が焼いたのか、シュヴァルツ?」

「フッ、何を驚いている。アルベルト、お前の為ならこのような事造作もない。」

そう言って笑う男に、ハインリヒは薄っすら頬を染めながら、紅茶が入ったティーカップを持って視線を背けた。

「何を照れている。」

「べ、別に照れてなど……。」

そんなハインリヒの仕草に男は満足げに笑うと、トレーに乗せていた小瓶を取り出してスコーンの横に添える。

「せっかくお前の為に焼いたのだから、一つ味見ぐらいしてくれてもいいだろう?」

添えられた小瓶は甘酸っぱい香りの漂うジャムが入れられており、

そのジャムをスコーンにつけて、ハインリヒの口元へ持っていき口を開けさせた。

スコーンの甘さと甘酸っぱいジャムが口いっぱいに広がる。

「……美味い。」

口の中に広がる味にハインリヒはつい本音を零してしまった。

それを聞いた男は満足そうにハインリヒの口元に残ったジャムを拭って微笑んだ。



添えられたジャムと出された紅茶は同じものがベースなのだろう。

いつもの薔薇の香りと違い、フルーティーな甘さがハインリヒの口に広がっていく……。



「そのチェリーの甘さと酸っぱさは、まるでお前のようだな。」



少し甘味を押さえたクッキーとスコーン。

そして、それを引き立たせるようなジャムと紅茶の香りに、ハインリヒは心躍らされながらも、

男の言葉に恥かしそうに頬を染めてそっぽを向いてしまった。



〜終〜










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高橋一成様のサイトの、暑中お見舞いで頂戴してきましたv
ハインリヒのためにスコーンとクッキーを焼く黒様に完敗!!
黒様がお焼きになったスコーンは、
ほっぺたが落ちるほどに美味しいことでしょう・・・!!
さくらんぼのジャムも、きっと黒様の手作りなのね〜vvv
さくらんぼのお茶は本当に美味しいので、
ハインさんも黒様の愛に大満足ですわね〜vvv
高橋さま、お茶のお味と同じように甘い44をありがとうございます。
甘44万歳(笑)〜!!




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