嫉妬
(黄色い薔薇の花言葉:44)




 白いシーツの波の上、ドサリと身体を投げ出された。
 些か手荒なその扱いに、ハインリヒは困惑して男を見上げた。
「アルベルト・ハインリヒ」
 フルネームでハインリヒの名を呼び、紅の瞳が不穏な光を放つ。
「お前は今、何を考えていた?」
 何を?何も考えていなかった。
 ただボーっと、窓の外を見つめていただけだ。
「何も・・・」
「嘘は許さんぞ?」
 言いかけた言葉を、遮られる。
「心臓を抉り出して、お前の胸に誰がいるのか確かめてやりたい気分だ」
 シャツ越しに、男の指先が左の胸に触れた。
 微かに身震いすると、剣呑だった瞳の輝きが、少しだけ和らいだ。
「そんなに怯えるな。・・・冗談だ」
 褐色の指先がサラリとハインリヒの前髪をかき上げ、額に冷たい唇が押し当てられた。
「私の・・・アルベルト」
 耳元で囁かれた低いトーンに、背筋がゾクリとした。
 何かを言おうとして唇を開いたが、言葉を紡ぐ間も与えられないままに口付けられた。
 開いた唇は墓穴となり、いとも簡単に男の舌が滑り込んでくる。
 音を立てながらのキスに、身体が熱を持った。
 ようやく唇が離れた後、男の指先がハインリヒの目元に触れた。
 その意図が分からず、ハインリヒはぼんやりと男を見上げた。
「そんな目をして・・・私を誘っているのか?」
 低く、男が笑った。
 灼けるように熱い、紅の視線。
 ツイ、と長い指が伸び、ハインリヒのシャツのボタンを器用に外していった。
「・・・アルベルト」
 名前を呼ばれ、男を見つめる。
「私だけを見ていろ。その胸の中に、他人の影を置くことは許さん」
 カサリ。
 近くで、何か軽い物が落ちたような音がした。
 その方向に微かに視線を向けると、目の端に黄色が飛び込んできた。
 色とりどりの薔薇の花が無造作に挿してある花瓶から、花の首が落ちたらしい。
「花が気になるか・・・?」
 平淡な声で言うが早いが、男は落ちた花を手に取り、クシャリと握りつぶした。
 散らされた鮮やかな黄色の花びらが、ヒラヒラと舞い落ち、肌蹴られたハインリヒの白い肌を彩った。
 ひんやりとした感触に、身を震わせると。
「今一度言う。私だけを見ていろ」
 その瞳は、やはり、燃える様な色彩。
 受け止めきれずにフイと視線を逸らしても、灼熱の視線が突き刺さるようで。
「・・・存在するかも分からない『誰か』や、花に妬いているのか・・・?」
 視線を外したまま尋ねると、悪びれもせずに答えが戻ってきた。
「悪いか?」
 フルフルと首を振りながら、男の頬に手を触れた。
 燃えるような瞳と対照的に・・・その頬は、ひどく冷たかった。


  〜 END 〜




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物語の続きは、貴方の心の中で・・・(笑)。
恐れ多くも、SSを付けさせていただきました。
「私は貴方に相応しい」か「嫉妬」で書きたいな〜、と思い、
後者を選ばせていただきました。
黒様のどことない苛立ちが、皆様にも伝わるとイイな〜、と思いつつ。
コアラ様、本当にありがとうございました〜vvv







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