私を射止めて
(帯紅の薔薇の花言葉:44)




 身に着けるようにと命じられた服に、袖を通す。
 触れるだけで上等の生地で仕立てられている分かった。
 男から与えられた服は、俗に言う正装というものだ。
 一体、何の積りでこんな服を着せようと言うのだろう。

 ガチャリと音がして、部屋のドアが開く。
 男が、ハインリヒに向かって歩いてきた。
 腕には薔薇の花束を抱えている。
 その花束を無造作にテーブルの上に置き、男は腕を組んで不躾にハインリヒに視線を当てた。
「仕度は・・・整ったようだな。良く似合っているぞ」
 満足そうな笑みを頬に刻み、クイ、と、男が顎を上げた。
「その花束を持って、私について来い」
「何故・・・?」
「今夜は、晩餐会に呼ばれている。そのような場には、伴侶を伴って赴くのが当然ではないか?」
「オレは、お前の伴侶になった覚えはない」
「そうかも知れんな。だが、お前が私のモノであることだけは確かだ」
 断言するようにして、男は言ってのける。
「オレが、お前のモノ・・・?フン」
 何気なく、男が抱えてきた薔薇の花束に視線を落とした。
 様々な色の花は、鮮やかにハインリヒの視界を彩った。
 ピンクの花びらの縁が紅く染まってる花・・・帯紅が一際自分の目を引いたような気がして、ハインリヒは白い手袋を付けた手で、その一輪を花束から引き抜いた。
 鼻先に花を持っていくと、高貴な香りがする。
「アルベルト」
 名前を呼ばれ、薔薇の花びらに口付けながら、視線だけを男に向けた。
 肩を竦めながら、それでも男はいかにも余裕がある表情で笑う。
「その褪めた瞳にも、今にこの私しか映らなくしてやるぞ」
「出来るものなら・・・やってみろ」
 持っていた薔薇を、男に向かって放り投げる。
 ゆっくりと宙に弧を描いて、薔薇は男の足元に落ちた。
 ハインリヒと同じ白い手袋を付けた手が、薔薇を拾い上げる。
 そして、ハインリヒがしたように、男は薔薇の花に口付けた。
「なっ・・・!」
 その仕草に、何故か、頬に血が上ってしまう。
「私を煽っているのか、アルベルト?」
 手を伸ばし、男はハインリヒの腕を掴んだ。
 薔薇の花が再び、ポトリと床に落ちた。
 グイ、と引き寄せられ、冷たい口唇が押し当てられる。
「それほどに・・・私のモノになりたいか?」
「何を言っていやがる・・・!」
 唇の端を曲げて、男が、意味深に笑った。
 いったん離された口唇が、再び触れてくる。
「んん・・・で、出掛けるんじゃなかった、のか・・・!?」
「忘れたな」
 男の身体が、圧し掛かってくる。
 ハインリヒはきつく目を閉じ、ただひたすら、嵐が通り過ぎるのを待った。

 二人の足元には一輪、帯紅の薔薇の花。
 その花が持っている言葉を・・・ハインリヒは知らない。



  〜 END 〜




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ハインさんが荒み気味になってしまいました・・・。
多分、黒い人に連れてこられたばかりで、
逆らうと色々とアレなので、仕方なくご一緒しているような時期かと。
コアラ様、SS付けるご許可をいただき、本当にありがとうございました!!
こんな話になってしまい、申し訳ありませんです〜(汗)!






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