不可能
(青い薔薇の花言葉:44)




 ブチリとテレビの電源を消し、ハインリヒは腰掛けていた椅子の上で仰け反った。
 頬を歪め、不満を表情に表して。
 傍らで爪の手入れをしていたシュヴァルツが、おどけた口調で問いかけてくる。
「おやおや!私のアルベルトは、今日は何がご不満なのかな?」
「青い薔薇が、思ったより青くなかった」
「は?」
 時折、ハインリヒはシュヴァルツに対して言葉足らずになることがある。
 ある程度は分かってくれるという認識の上で、半ば無意識にそうしてしまうのだが、少し甘えがあるのも事実だ。
 上手く意思の疎通が出来なかったことが分かり、ハインリヒは慌てて、言葉を継ぎ足した。
「日本の某社が青い薔薇の開発に成功したというニュースを見ていたんだが・・・。オレの想像していた青さと違ってな。確かに青いといえば青いんだが、青みが足りないというか、淡い紫に近い青なんだ!」
 息をついで、ハインリヒは続けた。
「科学者達が現代科学の粋を集めても、なお作れない薔薇の青。青い薔薇の花言葉は、不可能だというし、永遠に真っ青な薔薇の花は作れないのかもしれないな・・・」
 花の女神が、冷たく不吉な色だからと薔薇に青い色を与えなかった、というどこかで聞いたことのある逸話を思い出し、ハインリヒは些かロマンティックな気分になったが。
「フン。そんなことで気を腐らせていたのか?馬鹿馬鹿しい」
 シュヴァルツから鼻先で笑われ、キッとその紅い瞳を睨み付けた。
「オレは真面目に話したんだぞ!!」
 クツクツと喉を鳴らして、楽しそうにシュヴァルツが笑う。
「花ひとつで、そんなに膨れることが出来るなど、お前は本当に可愛いな」
 花瓶に挿されている薔薇の花。
 その一本を、シュヴァルツが手に取った。
「青い薔薇がお前の望みか?」
 褐色の手の中に収まる、白い薔薇。
 シュヴァルツが、その花に軽く口付けた。
 そして、ハインリヒに向かって、花を差し出した。
「青い薔薇の花言葉は『不可能』だと言ったな?」
 ニヤリと唇の端を曲げて、シュヴァルツは高みから人を見下すような笑いを見せた。
「生憎、私の辞書に『不可能』という文字は無くてな。望むならば、くれてやるぞ?」
 褐色の指の先で、真っ白だった花びらが、淡く、青い色を纏う。
 その色は徐々に色鮮やかな蒼に変化していった。
 ハインリヒの想像のそのままの色に。
 瞳を丸くするハインリヒに向かって、シュヴァルツは優雅に一礼した。
「ご所望の青い薔薇を、我が姫、フロイライン・アルベルトに・・・」
「・・・・・・・・・」
 驚きのあまり言葉も出ないハインリヒに向かって、
「お前の淡いブルーの瞳に良く似合う色合いだな・・・」
 言いながら青くなった薔薇の花に再度キスを落として、シュヴァルツは花の部分と茎を無造作に切り離し、ハインリヒの髪に挿した。
「髪の色にも良く映えるな。白い薔薇を全て青くして、花冠でも作ってやろうか?」
 ハインリヒは、ハッと我に返った。
「要らん!!」
「そうか?残念なことだ」
 人の悪い笑いを浮かべながら、シュヴァルツがハインリヒに視線を投げかける。
 髪に挿された薔薇を手にとって投げつけてやろうかと思ったが、花には罪は無いと思い止まり。
 自身の手の中、鮮やかな美しい青を、瞳を細めて見つめた。



  〜 END 〜




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なんかもう、ラブラブな44。
黒い人の不思議な力で、ハインさんご所望の青い薔薇を(笑)。
青い薔薇が開発された時に、色が自分の想像と違ったので、
それを思いっきりネタにしました。






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