秘密
(白薔薇の蕾の花言葉:3+24?)




「最近、ジェットとはどうなの?」
 昼下がりのリビング。
 突然、フランソワーズに尋ねられ、ハインリヒはお気に入り農園リシーハットの春ダージリンを吹き出しかけてむせた。
「ななっ、何を突然!?」
 おほほ〜、とフランソワーズは声を立て、楽しそうに笑った。
「だって、気になるじゃない」
 即座に、ハインリヒは言葉を返した。
「気にしなくていい!おかげで、貴重なリシーハットを吹き出すところだったぞ!!」
「じゃあ、言葉を変えるわ。ジェットのコト、好き??」
 キラキラと輝く若草の瞳。
「さあな」
 答えると、フランソワーズは華奢な肩を竦めた。
「それじゃあ、質問の答えにならないわ」
 ハインリヒは、ふう、と息を吐いた。
 二人が囲んでいるテーブルの上、大きな花瓶にはたっぷりと白い薔薇の花が活けられている。
 フランソワーズが活けたものだ。
「うら若き女性が、そんなコトを気にするもんじゃない」
 その中の一本を、ハインリヒは適当に手に取った。
「キミのようなフロイラインには、どうでもいいコトを詮索するより、花の方が似合うだろう」
 白くしっとりとした手のひらに花を乗せながら、ハインリヒはそれがまだ、咲きかけの蕾であることに軽く落胆を覚えた。
 もう少し、開いている方が美しいのに。
「ハインリヒ・・・」
「おっと、この話はもうお仕舞いだ。オレは部屋に戻るぞ」
 飲みかけのティーカップを持ち、そそくさとその場を逃げ出そうとすると。
「・・・本当は好きなくせに・・・」
 ボソリと呟く一回り近く年下の女性の言葉に、不本意な気持ちを隠しきれない。
 だが、妹だと思い愛しているフランソワーズの前で、ジェットが好きなどと、口が裂けても言いたくなかった。
 兄貴分のプライドというか何と言うか・・・。

「どうしてあんな娘に育ってしまったんだ・・・!?」
 こちらもブツブツ言いながら、リビングから廊下へと続くドアを開けると。
 階段を昇り、コソコソと去っていこうとする後姿が目に入った。
 赤みがかった茶色の髪。
「ジェッ〜ト?」
 猫撫で声で名前を呼んでやると、恐る恐る、といった体で振り向いた。
「何?ハインリヒ??」
「立ち聞きか、あ〜ん?随分とお行儀のイイこった」
「コーヒーでも飲もうかな、と思って、下りたら、キミとフランソワーズがちょうどオレのコト話してたから・・・。気になるのは当然だろ?」
 ジェットが必死で言い訳をする。
「今更、気にする必要なんてないだろう?」
 人の悪い笑みを浮かべながら、ハインリヒはジェットに歩み寄った。
「お前は、知ってるじゃないか」
「え?」
「好きだぞ、ジェット」
 ポカンとした表情になったジェットの口唇に、掠めるように口付けた。
 それからトントンと軽やかに階段を上がり、ジェットの脇をすり抜けた。
「ハインリヒ・・・!」
 些か動揺を含んだその声に、振り向いて。
「立ち聞きは、あんまり趣味のいいもんじゃないぞ。ま、とっととコーヒーでも飲んで来たらどうだ?」
 ニヤッと笑いながら、自室に戻った。

 一方、リビングでは。
「やっぱり好きなんじゃないの・・・。素直じゃないったら!」
 フランソワーズがハインリヒから持たされた薔薇を、花瓶に挿しなおしていた。
「大体、アレだけ公衆の面前でいちゃいちゃしながら秘密にしている積りなんだから、笑っちゃうわよね〜」
 挿し直した薔薇の蕾を、フランソワーズはちょんと、指先で突ついた。



  〜 END 〜




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久々の更新なのに、何故かギャグっぽく・・・!
あ!これでイワソを出していれば、第一世代だったのに!
とにかく、す、スミマセ〜ン(脱兎)!!







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