文字書きさんに100のお題

001:クレヨン
(14)





「おや・・・」
「どうしたんじゃね、ハインリヒ?」
「博士、机の整理をしていたら、こんなモノが出てきましたが・・・」
「なんじゃ?」
 ハインリヒの手の中には、クレヨンの箱。
「なんでそんな物が机の中にあったんじゃろうなぁ・・・。必要ないようだったら、捨てなさい」
 多少驚いたような表情でギルモアがそう言うと、ハインリヒは曖昧に微笑んだ。
「捨てるのは、勿体無いですよ、博士」



 クレヨンの箱を抱えて、部屋に戻る。
 ふたを開けると、色とりどりのクレヨンが仲良く並んでハインリヒの視界に飛び込んできた。
「なんだか・・・懐かしいな」
 遠い、遠い日の思い出。
 あまり質の良くない紙に、クレヨンで落書きをしたっけ。
 壁に落書きしようとして、母親に叱られたあの頃を懐かしく思い出す。
 薄い唇から、小さなため息が漏れた。
『はいんりひ?タメ息ナンカツイチャッテ、ドウシタノ?』
 不意に、頭の中に愛らしい声が響いた。
「ああ、イワンか・・・」
 ハインリヒの背後で、イワンの揺りかごがフワリフワリと揺れている。
 揺りかごから身を乗り出すイワン。
 長い前髪に隠れた瞳が、優しくハインリヒを見つめた。
「ホラ、見てみろよ」
 ハインリヒが指し示したのは、クレヨンの箱。
『ヘェ。珍シイものガアルネ』
「少し・・・昔のことを思い出してな・・・」
 ハインリヒは笑ったが。
 その笑顔は、少し淋しそうで。
 イワンの揺りかごがハインリヒにスーッと近づき、小さな手がハインリヒの頬にそっと触れた。
『泣イテルノ、はいんりひ?』
「別に、泣いてなんか・・・」
 言った途端に、ハインリヒのシャツにポトリと水滴が落ちた。
 イワンの柔らかな手がハインリヒの頬を包み込む。
 トレードマークのおしゃぶりがフワリと宙に浮き、イワンはその涙を可愛らしいキスで拭った。
「イワン・・・?」
『落チ着イタカナ?』
 シャツの袖で、ハインリヒは目元を押さえた。
「いつも心配かけて・・・すまない」
『きみカラカケラレル心配ナラ大歓迎サ』
 ませた口調でそう言うイワンに、ハインリヒの表情が少し、明るくなった。
 そんなハインリヒに向かって、
『ほら、見テテ!』
 イワンが、指先を軽く鳴らす。
 一瞬、クレヨンたちが、踊りだしたように見えた。
 どこからともなく一枚の画用紙が現れ、クレヨンが数本、画用紙に線を描き出した。
 肌色と灰色のクレヨンが踊る。
 他にも数色が、画用紙を彩っていく。
 水色のクレヨンが、最後にススッと二つの点を描いた。
「これは、オレか・・・?」
 ハインリヒの目が、大きく見開かれる。
 画用紙の中のハインリヒは、幸せそうに笑っていた。
 そして、最後に、黒いクレヨン。
『大好キダヨvvv』
 似顔絵の横に大きくそう書かれたのを見て、ハインリヒは笑った。
『笑ッテルホウガ、きみハズットきれいナンダカラ』
「ありがとう・・・」
 笑いながらハインリヒは、自分が描かれた画用紙を手に取った。
 そして、自身もクレヨンを握りしめ。
 隣に、イワンの顔を描いた。
『はいんりひ・・・。モシカシナクテモ、ソレ、ぼく?』
 コクコクとハインリヒが頷くと。
『言ッチャ悪イケド、下手ダネ・・・』
 ため息のような声が、聞こえてきた。
「下手って・・・・!!!」
 ハインリヒの頬が、カーッと赤くなる。
 クスリ。
 イワンの笑い声が聞こえ。
「全く・・・」
 ボヤきながら、ハインリヒも笑った。
 ため息をつきたいような気分は、いつの間にか消え去っていた。



 ギルモア邸のハインリヒの部屋には。
 クレヨン画が飾られている。
 ハインリヒとイワンが幸せそうに笑っている、一見何の変哲もない、クレヨン画。
 それは、ハインリヒにとって・・・。
「大切なものなんですよ、博士」
 ハインリヒは笑いながら、ギルモアにそう説明した。


〜 END 〜




クレヨンは、結局14でvvv
というか、年に一度の14デーを100のお題で済ます私って・・・。
いいの、愛だけはてんこ盛りだから!!
クレヨンというと、小さな子が使うイメージがあるので、
ふっとイワンの姿が浮かびました。
ま、イワソはもう脳内は完璧大人なんですがね(笑)。
こんなんでお題クリア、にしても大丈夫でしょうか・・・。





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