文字書きさんに100のお題

002:階段
(キングン)





 他人の目や他人の手を通してしか触れることの出来なかった世界。
 その世界を自分自身の目で、手で感じることが出来るようになってから。
 何もかもが初めての経験だった。
 24年間の人生を取り戻すかのように、ただがむじゃらに駆け上がってきた。
 人生という名の、階段を。



 カツン、カツン。
 シンタローは、階段を上る。
 黒髪のシンタローから総帥執務室に呼ばれており、今はその道中だ。
 一歩一歩踏みしめるようにして、シンタローは歩いた。
 不意に。
「キンちゃ〜ん!!」
 背後から聞こえる、朗らかな声。
 シンタローの頬に穏やかな笑みが浮かび。
 彼は、振り返った。
「グンマ」
 少しだけクセのあるプラチナブロンドを揺らしながら、従兄弟のグンマが駆けて来る。
「キンちゃん、どこに行くところ??僕はシンちゃんにお呼ばれなんだけど」
 そう言って、グンマは屈託なく笑った。

 脇目も振らずに進んできた、この4年間。
 振り返ればいつでも、明るく優しい笑顔が自分を見つめてくれていた。
 その笑顔に、自分はどれだけ力づけられてきたことだろう。
「なあに、キンちゃん?人の顔を、そんなにジロジロ見て??」
「・・・何でもない」
「むーっ。何でもないって顔してないよ?怪しい!正直に言いなさい!!」
 そんなグンマの様子に、自然と笑みがこぼれてしまう。
 シンタローは身をかがめ、グンマの柔らかな前髪をかき上げた。
 そしておもむろに、白い額にキスをした。
「えっ!?」
 額から唇を離すと、グンマは大きな瞳を丸くして、両手で額を押さえた。
「ええええ〜っ!?何々、なあに〜!?!?!?」
 焦ってジタバタするグンマとは対照的に、シンタローは落ち着き払って答えた。
「ただの挨拶だ」
「・・・もう!キンちゃんの意地悪っ!!ビックリしちゃったじゃないっ!」
 プクリとむくれるグンマを、どう宥めればいいのだろう?
 本当は、挨拶なんかじゃない。
 そう言えばいいのだろうか??
 フッと、唇から言葉が漏れる。
「・・・ありがとう」
「え?」
「ありがとう・・・」
 唐突なシンタローの言葉に、一瞬のキョトンとした表情の後。
 花が開くように、グンマは笑った。
 シンタローの好きな、朗らかな表情で。
「うん!」
 そしてグンマは、シンタローの腕を取った。
「キンちゃんもシンちゃんにお呼ばれなんでしょ?早く行かなくちゃ、怒られちゃう。シンちゃん、短気なんだもん」

 階段を上りながら、思う。
 グンマの笑顔がいつでも自分を支えてくれたように。
 自分も、グンマの支えになりたいと。
 いつでも優しく微笑んでいるこの従兄弟の、悩みや苦しみを。
 自分が、払ってやりたいと思う。
 そう思いながら、隣のグンマに視線を走らせると。
 音がしそうなほどにバッチリと、目と目がぶつかった。
 ニッコリとグンマが微笑む。
 それはまるで、天使のような・・・。
「大好きだよ、キンちゃん。だからずっと、一緒にいてね?」
 ・・・本当に、この従兄弟には敵わない。
 返事の代わりに、シンタローはグンマの手をそっと握りしめた。



 カツカツ、カツン。
 階段を上る。
 人生という名の長い長い階段。
 上りきるのはまだまだ先だ。
 だから、二人で行こう。
 自分一人では上っていけないから。
 だから、二人で。

 グンマの手を握ったまま、シンタローは、階段を上った。



〜 END 〜





キングンです。短いです。
でも、書きたいコトをいっぱい詰め込みました。
ちょっと私、グンマ様に夢見てるのは自分でも分かってるんですが(笑)、
キンタローにとって、グンマ様は天使です!!
もう、かけがえの無い人って感じで。
グンマ様もキンちゃんが大好きなのです。
だから一緒に歩いていくのです。
そんな感じのお話が書きたかったのでした〜。




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