文字書きさんに100のお題

003:荒野
(24)





目の前に果てしなく広がる、荒れ果てた大地。
その荒野は、オレの心だった。
何もかもが失われてしまった、オレの心。
愛も、喜びも。
悲しみの涙さえも。
全てが、枯れ果ててしまった。
長いこと渇き切って。
そして、草木一つ生えないこの大地に。

優しい水が、一滴。



お前が微笑む度に。
何気ない仕草、何気ない一言で。
優しい水の一滴、一滴が、この地に沁み渡っていく。
オレの心は癒され、大地が少しずつ潤っていく。
ただ、お前が側にいてくれるだけで。



「ジェット」
名前を呼べば、お前はオレを振り返る。
「ハインリヒ・・・どうした?」
その声音に。
お前の瞳の優しさに。
ほら、潤いの水が、また一滴。



抱きしめてくれる腕の暖かさに。
忘れていた涙を、取り戻す。
自身の瞳から零れ落ちた涙も。
スーッと、荒野に吸い込まれていった。



初めて出会った時に、きっとオレは分かっていた。
オレは、どうしようもなくお前を必要としてしまうだろうと。
オレは、分かっていた。
出会ったその瞬間から。
その瞳に初めて見つめられた時から。
綺麗な水滴が、オレの心にポトリと落ちたから。



・・・荒れた地は、じきにオレの心の中から姿を消してしまうだろう。
お前が側にいてくれる。
ただ、それだけのことで。



「ジェット・・・」
名前を呼ぶと、お前がオレを振り返る。
「・・・      ・・・」
言葉にしてしまうのが、少し怖くて。
声を出さずに、口だけを動かした。
琥珀色の瞳を細めて、お前が笑う。
「分かってるよ」


綺麗な色をした水が。
ほら、また一滴。
心の荒野に、吸い込まれていった。


〜 END 〜




2004年の年に一度の24デー作品としては少しアレですが。
ハインリヒさん(というか、私か・・・)、ちょっとポエマー入ってますが。
えっと、荒野というのは本当は【荒れた野原】のコトなのですが、
文字面から荒涼とした大地のイメージを受けるので、そのイメージを大切にしてみました。
とにかく、ハインはジェットがいないと生きていけないの!
ハインを癒せるのはジェットだけなの!
と、一人で鼻息荒く書きました・・・。
アホですみません・・・。





HOME   100のお題