文字書きさんに100のお題

009:かみなり
(黒44)

*注意*
黒44の雰囲気は、
スウィートハニーの通常の芸風と全く違います。
(↑通常、黒44は裏での取り扱いです)
ダーク(?)な雰囲気が苦手な方は、
どうぞ引き返してやってください。
大丈夫!という方は、本文にお進みくださいませ。









 鈍色に空を覆う雲を、稲妻が切り裂く。
 打ち付けるようにして降る雨の中、ハインリヒは家路を急いでいた。
 傘の用意はしていたが、まるきり役に立たない。
 全身濡れねずみになりながら、ハインリヒは軽く舌打ちした。
「急に雨になるなんて・・・。何だってんだ、この天気は」
 役に立たない傘で、それでも身体を庇いながら。
 ハインリヒは、歩く。
 傘越しに人の姿が目に入り、ハインリヒは思った。
 出先で雨に降られたんだろうな、気の毒に・・・。
 その人物とすれ違い様。
「アルベルト」
 低い、しかしハッキリとした声で名前を呼ばれた。
「!!」
 ハインリヒは・・・その声の主を知っていた。
 それは、出来れば会いたくない人物だった。
 聞こえない振りをして、そのまま行き過ぎようとした時。
 冷たい指が、ハインリヒの腕を掴んだ。
 自分の腕も負けず劣らず冷たい筈なのに。
 ハインリヒはその冷たさを確かに感じることができた。
 男の指に力が入る。
「アルベルト・・・」
 ハインリヒの手から、傘がポトリと落ちた。
 雨が、激しく打ち付けてくる中。
 男の姿が、視界に飛び込んでくる。
 稲光の中を受けて。
 男の瞳が、紅く光った。
 濡れた前髪の下から覗くその紅の光に、縛り付けられたように動けない。
「アルベルト」
 口を何度か開き、ようやく、声を出すことが出来た。
「離せっ!!!」



「!?」
 自分の声にハッとして目が覚めた。
 慌てて周りを見回す。
 見慣れた部屋の風景に、ハインリヒは安堵した。
 夢・・・か。
 カーテンを通して、空が光っているのが分かる。そして、轟く雷鳴。
 ハインリヒはベッドから滑り降り、カーテンを開けた。
「なんて天気だ・・・。この雷の音で、あんな夢を見たんだな」
 そう、苦笑し、カーテンを閉じようとする。

 ポタリ、ポタリ。
 背後で、水滴の落ちるような音が聞こえたような気がした。
「?」
 何気なく振り返ったハインリヒの表情が、凍りつく。
 ・・・ハインリヒの視線の先には。
 男が。
 立っていた。
 ハインリヒとよく似た、男が全身ずぶ濡れになって。
 シルバーの髪から、水滴が滴り落ちる。
 そして、前髪の中から光る、紅。
「アルベルト」
 ハインリヒの名を呼び、男は一歩一歩、近づいてくる。
 ゆっくりと。
 窓の外で稲光りがする度に。
 闇の中、男の顔が青白く浮かび上がった。
「・・・近寄るな・・・」
 掠れたその声が耳に届いたのか。
 男は、唇を歪めて笑った。
 ひたひたと、男が近づいて来る。
 その姿は、狩りを楽しむしなやかな黒豹のように見えた。
 夢ならば覚めて欲しい。
 ハインリヒはそう思ったが。
「アルベルト」
 激しい雨と雷の音の中、それでもハッキリとハインリヒの耳に届いた男の声は、妙にリアルに聞こえた。
 スッと、男の腕が伸びる。
 褐色の指が、ハインリヒの頬に触れた。
 その指の冷たさに。、ゾッとする。
 背筋を言いようの無い恐怖感が駆け抜けていった。
 一際激しく、空が光った。
 男の紅の瞳が、その光を受けて気味悪く光った。
「・・・アルベルト」
「         !!!」
 窓ガラスに、激しく雨が打ちつける。
 天を割る、雷光。
 ハインリヒの悲鳴のような声は・・・。
 激しい雷鳴に、かき消されるようにして、夜に吸い込まれていった。




〜 END 〜





「かみなり」、最初はジュリリモで書こうと思っていたのですが。
ありきたりな話になりそうだったのと、
自分の気分がすさんでいたので、黒44と相成りました。
でも、黒44にしてもありきたりな話に・・・。
今回は、恐怖感を醸し出したかったのですが、
それは失敗に終わりました。
最後のハインリヒの台詞は、皆様のお好きなようにvvv
こんな台詞を入れてみました、と教えてくださったら、嬉しいです。





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