文字書きさんに100のお題

018:ハーモニカ
(キングン)





 部屋のドアが、シュンと機械的な音を立てて開いた。
「キンちゃーん!!」
 飛び込んできたのは、従兄弟のグンマだ。
 少し癖のある長い髪が、その華奢な背中で跳ねた。
「ね、見て見て!!」
「ん?何だ・・・」
「じゃーん!」
 何かを後ろ手に隠していたグンマだったが、ニコニコと笑いながら、キンタローに両の手の平を差し出した。
「ホラ!!懐かしいでしょう?」
 グンマの手の平に乗っているのは、何やら四角い銀色の物体だ。
「何だ、それは・・・??」
 見たことも無いようなその物体に、キンタローは藍の瞳をほんの少しだけ丸くした。
「キンちゃん、知らないの??」
 グンマが小首を傾げながら尋ねてくる。
 答えられずに、キンタローが押し黙ると。
「そっか・・・。キンちゃんはこの世界でまだ、初めて見たり聞いたりする物の方が多いんだもんね」
 ゴメンね、と小さく呟いてから、グンマはキンタローに優しく笑いかけた。
「これはね、ハーモニカ。楽器の一種だよ」
「楽器?これがか・・・?」
 キンタローが頭の中で理解しているは、ピアノやヴァイオリン等だった。
 それとは似ても似つかぬその物体に、思わず、頭の中をクエスチョンマークが駆け抜けた。
 そんなキンタローを他所に、グンマはニコニコと笑いながら、
「そう。演奏してみてあげるね」
 銀色の物体に、グンマが口を当てた。
「!?」
 キンタローが驚く間もなく、その物体から優しい音色が流れてきた。
 ごくごく短い曲を奏で、グンマは口唇を離した。
「はい。この曲はチューリップ、でしたv小さい頃に学校で習って、これだけ覚えてたんだよ」
 キンタローは、ウズウズとした。
 この未知の物体から、自分も音を出してみたいと思ったのだ。
「グンマ、俺にも触らせてくれ」
「うん。どうぞ」
 差し出された物体を受け取り、しげしげとキンタローはそれを眺めた。
「どうやって音を出すんだ・・・?興味深いな・・・」
「えっとね、この穴の所に、マークがあるでしょ?これがドの音で、この穴に息を吹き込めばいいんだよ。それから交互に息を吸ったり吐いたりして、音を出していくんだ。ラとシは連続で吸い込まないとダメだよ」
「・・・なるほど・・・」
「息を吸ったり吐いたりする時は、ちゃーんとその穴だけを対象にしないと変な音になっちゃうからね」
「そうか・・・」
 音を鳴らしてみようと、おもむろにキンタローがその物体に口を付けると。
「わーっ!!キンちゃん!!!!」
 グンマが急に、焦りだした。
「何だ、どうした??」
 頬を赤く染めながら、グンマは怒鳴った。
「だって・・・。ボクが口付けたんだよ!?」
「それが?」
 グンマは上目遣いにキンタローを見上げ、ぷっくりと膨れた。
「かっ・・・間接キス・・・になっちゃうじゃないかぁ〜!!キンちゃん、恥ずかしくないの!?」
「何だ、そんな事か」
 クスリとキンタローは笑った。
 間接キスの意味ぐらいなら、流石に知っていた(誰が教えたかは別として、だ)。
「お前との間接キスなら、オレは全く平気だぞ」
「もうもうもうもう!どうしてキンちゃんは、そーゆーコトを平気で言えちゃうんだよ〜!?」
 ポカポカとグンマが叩いてくるが、痛くも痒くもない。
 ニッとグンマに笑いかけ、キンタローは大胆不敵に言ってのけた。
「別に、本当にキスしたって構わんぞ。・・・お前とならな」
「バッ、馬鹿ぁ〜っ!!!」
 ジタバタしながら、グンマはキンタローの部屋から飛び出していった。
「いつも慌しい奴だ・・・」
 呆れたようにグンマの背中を見送ったキンタローだったが、その瞳は笑っていた。
「さて、それでは俺は、この物体に音を吹き込むとするかな・・・」
 独り言のようにそう呟いて。
 キンタローは愛しげに。
 銀のハーモニカに、そっと口唇を押し当てた。




〜 END 〜





今回のテーマは、ハーモニカで間接キッス(笑)。
こんなんでスミマセン。
キンちゃんが、すごく余裕ある人みたいになってしまった・・・。
もっとグンちゃんにブンブン振り回されるキンちゃんが、
管理人は好きなのですが。
しかしながら、久々のキングン、楽しかった〜vvv





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