文字書きさんに100のお題

030:通勤電車
(宮木)





 ゆっくりと、電車がホームに止まった。
 人々がわらわらと、電車の中から吐き出される。
 木村も、電車から押し出された人間の中の一人だった。
「なんだよぉ〜、この混雑振りは・・・」
 うんざり、といった表情の木村とは裏腹に、木村の隣にいる人物は、涼しげな顔をしている。
 恨めしげにその人物を見上げ、木村はボヤいた。
「大体なぁ、お前がランドに行きたいなんて言い出すからだぞ、宮田!!」
「木村さんだって、大喜びで賛成したじゃないですか?」
 痛いところを突かれ、木村は一瞬言葉に詰まった後、唇を尖らせた。
「・・・ハイハイ、確かに俺も賛成しましたよ」
 そんな会話を交わしている間にも、人々は一定の流れを作りながら、ホームを移動していく。
 ハッキリ言って、二人はその流れを乱す極悪人と言っても良いような存在だった。
「しっかし、どうしてこんなに電車が混んでるんだよ?反則だぜ・・・」
 人波に押されながらブツブツ文句を言う木村に、
「みんなが会社に行く時間だからでしょう」
 涼しそうな表情を少しも崩さずに、宮田はサラリと言葉を返してくる。
 その表情が、少し癪に障ったが。
「さ、こっちですよ」
 すっと伸びた手の平に自分の手を握られ、木村はドキリとした。
「ちょっ・・・宮田!」
 小声で詰ると、宮田が微かに微笑んだように見えた。
「平気ですよ。こんな人込みの中、誰もオレ達の事なんか気にしてませんから」
「でも!」
「あんまりブツブツ言ってると、キスしますよ?」
「うっ・・・!」
 今度こそ本当に言葉を失って、宮田に手を握られたまま、木村は駅の構内を俯き加減に歩いた。
 頬がポッポと火照っているのを感じながら。



 乗り換えの電車のにたどり着くと、宮田がようやく、木村の手を離してくれた。
「こっちの電車は比較的空いてますね。下りだからかな・・・」
 ホッとしながらも少し淋しいような気がして、木村は一人、複雑な表情になる。
「・・・どうしました、変な顔して?」
「へ?」
 よもや、手を離されて少し淋しいなどとは口が裂けても言えなかった。
 言えばこの男は、勝ち誇ったように笑うだろう。
 年下のクセに、余裕の微笑で。
 自分の気持ちを悟られないように気をつけながら。
「オレはもう、絶対にあんな電車には乗りたくないね!」
 そう言うと、宮田はクスリと笑った。
「そうですか?オレは、ああいう電車も好きですけどね・・・」
「はあ!?本気で言ってんのか?」
 木村は、声を跳ね上げる。
 クスクスと笑いながら、宮田はその頬に悪戯な笑みを浮かべた。
「だって、知ってました?アンタ、電車の中でずっと、俺にしがみ付いてたって」
「えええええ〜!?」
 仰天して、木村は叫んだ。
 周りを気にして小声ではあったが、叫ばずにはいられなかったからだ。
「やっぱり、無意識だったんですね」
 心底嬉しそうに、宮田は笑った。
「嬉しいですよ。アンタに頼りにしてもらえて」
「〜〜〜っ・・・!!」
 何か言い返したかったが、全く言葉にならなくて。
 プイとそっぽを向いたけれども、宮田のクスクス笑いが隣から聞こえてきて、それがやっぱり癪に障る。
 余裕のあるその笑い方が。
 好きだけど、嫌いだ。
 年下のクセに、生意気だっつーの!!
「そんなに膨れないで・・・。可愛すぎますよ、アンタ」
「・・・・・・・・・・・・」
 ベルの音が鳴り響き、目の前のドアが閉まった。
「またしがみ付いても良いですよ、木村さん。アンタならオレ、大歓迎ですから」
「・・・ウルサイ・・・」
 電車が走り出した。
 隣の宮田はご機嫌な表情を浮かべている。
 カタン、カタン。
 電車が、揺れる。
 宮田にしがみ付くという失態をおかさぬよう、木村はしっかりと、側の手すりに掴まった。


〜 END 〜





ようやっと、宮木が書けましたvvv
短いですけど。
思ったより甘くならなくて、ビックリ(笑)。
今回は練習という事で、なにとぞ。
100のお題で、一歩も書いていくぞ〜!!
という意思表示の宮木でございました〜(笑)。




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