文字書きさんに100のお題

031:ベンディングマシーン(自動販売機)
(宮木)





「あー、暑い、暑い〜」
 先ほどから、隣で歩く人物はそればかりを繰り返している。
 確かに、今日はとても暑い日だ。
 太陽の光は鬱陶しい程に二人を照り付け、湿度も高くてベタベタする。
 それは分かっているけれど。
 宮田は冷ややかに木村に視線を向けた。
「さっきから何なんですか、一体。アンタが暑い暑い言うから、余計に暑くなるんですよ」
「暑いモノは暑いんだから、仕方ないだろ?」
 不毛な会話だと思いながらも、宮田はなおも続けた。
「だから、余計に暑くなるからやめて下さいと言ってるんです」
「ヤダ」
 木村は、まるで子供のように頬を膨らませた。
「だってまだ、6月だぜ?真夏なら我慢するけど、今はまだ、心の準備が出来てないってーの!!」
 もう、この人に何を言っても無駄だ・・・。
 宮田は諦めの境地に達した。
「ハイハイ、分かりました」
 時折、子供のような人だと思える事がある。
 今のような状態の時は、特に。
「本当に、仕方ない人ですね。そんなに暑いのが嫌なら、外に出なければいいじゃないですか」
「え?だってさ、せっかく会えたんだから、一緒に歩きたいじゃんv」

 正確に言うと、『せっかく会えた』のではなく、『会えるように努力した』のだ。
 宮田が。
 意味もなく、木村の家のご近所をウロウロして。
 まるで、ストーカーだ・・・。
 自身でそんなことを考えながら。

 とにもかくにも、木村の『一緒に歩きたい』発言で、宮田は気を取り直した。
 しかし木村はまだ、しつこく横で、
「あ〜。暑くて死にそうだよぉ〜」
 などと泣き言を言っている。
 ふう、とため息をつきながら、前方に視線を向けると。
「あ」
 視線の斜め先に、あるモノ、が見え。
 宮田は小さく声をあげた。
「ちょっと待ってくださいね」
 パタパタとソレに向かって駆けて行き、コインを投入。
 ボタンをピッと押すと。
 ゴロゴロと音がして。
「宮田、置いてくなよ!」
 追いかけてきた木村に向かって、
「はい、どうぞ」
 ペットボトルに入った、冷たい水を差し出した。
 木村の頬にボトルを押し付けると、気持ち良さそうに瞳を細める表情が目に映る。
「サンキュv」
 宮田の手からボトルを受け取って、木村は気持ちイイほどの勢いで水を喉に流し込んだ。
「ぷはーっ!生き返った〜!!」
「それは良かったですね」
 あまりにも木村が嬉しそうなので、こちらまでつい、ニコニコしてしまいながら。
 宮田は自分用のボトルに口を付けた。
「なあなあ、宮田。少しちょうだいv」
 強請る木村に。
「アンタは今、自分の分飲んだでしょうが?」
「なくなっちゃったんだよ」
 木村がヒラヒラと、空になったペットボトルを振って見せた。
「アンタって人は・・・本当に、仕方ありませんね・・・」
 ペットボトルの水を、呷って。
 チュ。
 口移しで。
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
「満足ですか?」
「バッ、バカヤロ!!こんな公道で〜っ!!」
「いいじゃないですか。誰もいませんよ」
 宮田は笑った。
「まったく、このクソ暑いのに、何考えてんだお前は!?」
「アンタのコトですよ」
 プイッとそっぽを向いて、木村はズンズンと歩き出した。
「ねえ、木村さん?」
「何だよっ!?」
「今度暑いって言ったら、罰ゲーム。暑いって言う毎に、キス一回ですからね」
「・・・・・・・・・」
「分かりましたか?」
「言わなきゃイイんだろが、言わなきゃ!?」
「いや、言っても構いませんよ?」
 キス一回だし。
 笑いながらそう言うと。
「お断りだね」
 キッパリハッキリ言い放ち、木村は恨めしげに空を見上げた。
「せめて雲ってくれねえかなぁ・・・」
 その情けない表情に。
 宮田は、声を出して笑った。

 まだ夏というには少し早い、ある、暑い日の出来事。

〜 END 〜





宮木です。
10題やれよ、という感じですが、
あちらは5行ぐらいずつしか進んでません。
(偉そうに言うな・・・)
最近暑い日が続くので、こんなお話が頭に浮かびました。
自販機、ほとんど出番なし(笑)。
本人は書けて満足。




HOME   100のお題